2026年7月18日付のテレ朝NEWSが、
『シカ増加で土砂災害の危機 草食べ尽くし土むき出し“山が丸裸” 20年で2倍の頭数』
と題した見出し記事を報じていました。
以下に、この記事を要約し、シカが増えると土砂災害リスクが増加するメカニズムと、国や自治体が実施すべき対策、および私たちが注意すべきことを考察しました。
《記事の要約》
全国で増えたニホンジカが森林の植生を食べ尽くし、土砂災害の危険を高めているとの指摘が注目されている。
環境省によると、2023年度末の全国の推定個体数は約303万頭。推計には幅があるものの、依然として高い水準にあり、農林業だけでなく森林生態系への影響も深刻化している。
宮崎県にある九州大学の演習林では、研究者がシカの食害を受けた土壌を調査した。
シカは地表の草や低木、新芽を食べ、餌が不足すると樹皮まで剝ぐ。植物が失われると地面がむき出しになる「裸地化」が進み、雨滴が直接土に当たって表土を削る。
植物の根が土を固定する力も低下し、雨水が地表を一気に流れやすくなるため、土壌侵食や斜面崩壊の危険が高まる。
滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山では、豪雨による斜面崩壊や土石流が相次いだ。
米原市側では2023年に登山道が大きく崩れ、2024年には3回の土石流が発生。
2026年現在も治山工事が続き、山麓からの入山は禁止されている。
シカの食害だけが原因ではないものの、植生の衰退が斜面の不安定化を促す要因の一つとみられている。
対策として各地で進められているのが防鹿柵の設置だ。
シカの侵入を防ぎ、柵内の草木を回復させることで、土壌の流出を抑える。
ただし、広大な山林をすべて柵で囲うことは難しい。
捕獲による個体数管理、狩猟者の育成、植生回復、道路や治山施設の整備を組み合わせる必要がある。
森林の劣化は、土砂災害だけでなく、水源涵養、生物多様性、観光にも影響する。
シカ問題は野生動物対策にとどまらず、地域の安全と暮らしを守る防災課題となっている。
(要約、ここまで)
《筆者の考察》
<シカが草を食べるとなぜ山が崩れるのか――生態系管理を防災へ>
シカの増加と土砂災害は、一見すると結び付きにくい。
しかし、その間には「植生の消失」という明確な経路がある。シカは草、ササ、低木、新芽を食べ、餌が乏しくなれば樹皮も剝ぐ。
食害が繰り返されると新しい植物が育たず、林床が裸地化する。
すると雨滴が土を直接たたき、細かな土粒子を流す。さらに、根による土壌の固定力や雨水を一時的に蓄える機能が弱まり、斜面を流れる水量が増える。
そこへ豪雨、台風、地質、急傾斜、森林管理不足などが重なると、表土流出や土石流、斜面崩壊につながる。
重要なのは「シカが増えれば必ず土砂崩れが起きる」と単純化しないことだ。
伊吹山でも、豪雨や斜面の地形・地質など複数の条件が関係している。
ただし、植生が健全な山と丸裸になった山とでは、雨への耐久力に差が出る。
シカの食害は、災害を引き起こす唯一の原因ではなく、斜面を弱くする増幅要因と考えるべきだ。
1)生息数と植生被害の継続的な把握
国や自治体がまず実施すべきなのは、生息数と植生被害の継続的な把握である。
全国一律の捕獲目標だけでなく、航空写真、定点カメラ、ふんの密度、植生調査などを使い、流域や斜面単位で危険度を評価する必要がある。
環境省は2023年度末の全国のニホンジカを約303万頭と推定し、依然として高水準であるとして捕獲強化を掲げている。
2)防鹿柵、捕獲、植生復元、治山工事を一体化
柵だけではシカを別の場所へ移動させる可能性があり、捕獲だけでは裸地化した斜面はすぐに回復しない。
土砂災害警戒区域や水源林、登山道周辺など優先順位を決め、地域ごとに対策を組み合わせるべきである。
狩猟者の高齢化に対応するため、専門捕獲チームの常設、報酬や装備の充実、捕獲個体のジビエ利用も必要だ。
3)農林、防災、環境、観光の縦割りをなくすこと
シカ対策を鳥獣被害部門だけに任せず、砂防計画や地域防災計画に組み込まなければならない。
伊吹山では2026年現在も山麓からの入山が禁止されている。
危険区域では観光振興より安全を優先し、復旧状況を正確に発信することが不可欠だ。
私たちも、登山前に自治体の通行情報を確認し、裸地、倒木、浮き出た根、濁った沢水など斜面劣化の兆候に注意したい。
大雨の直後だけでなく、雨量が少なくても既に傷んだ斜面では崩壊が起こり得る。
シカを「かわいい動物」か「害獣」かの二択で捉えるのではなく、適正な生息密度を科学的に管理する必要がある。
ISO思考でいえば、シカの増加、植生衰退、豪雨、土砂流出を別々の問題として扱わず、相互関係を把握して予防策を講じることが重要だ。
野生動物との共生とは、放置することではない。森林と人間、そしてシカ自身が生き続けられる範囲に個体数を保つ管理こそ、これからの防災なのである。
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