2025年12月2日付のTBS NEWS DIGが、

『78歳の訪問介護ヘルパーが85歳を介護「多いときは午前7時半〜午後6時」介護職員“初めて減少” 事業者の倒産は過去最多「限界に近づいている」』

と題した記事を報じていました。

以下に、この記事を要約し、介護事業者の倒産の原因とその影響、国が実施すべき対策について考察しました。

 

《記事の要約》

島根県雲南市の訪問介護の現場では、85歳の男性を78歳の女性ヘルパーがケアしている。

職員の高齢化と人手不足が深刻で、事業者の倒産も増加している。

介護職員数は2023年度に初めて減少し、賃金の低さが原因とされる。介護職の平均賃金は月約30万円で、全産業平均より約8万円低い。

主な収入源である介護報酬は国が3年に1度しか改定せず、物価高に対応できない。特に山間部では移動距離が長く、報酬体系が移動時間を評価しないため、収益が上がりにくい。

 

事業者の経営は悪化し、2024年の介護事業者倒産は172件と過去最多。

ヘルパー不足で事業撤退が相次ぎ、残った事業者が利用者を引き受ける状況が続く。

現場では70〜80代の高齢ヘルパーが多く、数年先の担い手確保にも不安が広がる。

依頼者にとって訪問介護は生活に不可欠で、ヘルパーが来られなくなると生活が成り立たない。

 

政府は補正予算で介護職員の賃上げ(月最大1万9000円)を盛り込んだが、事業者からは「金額が小さく、他産業との格差は埋まらない」と不満の声が上がる。倒産増加、人材流出、超高齢化が同時進行する中、介護現場は「限界に近い」と訴えている。

(要約、ここまで)

 

《筆者の考察》

<介護事業者の倒産急増の原因・影響・国の対策>


介護事業者の倒産が急増している最大の原因は、「低賃金構造」×「過剰な人手依存」×「制度の時代遅れ」という“構造的三重苦”にある。

 

まず、介護職の賃金は全産業平均より約8万円低く、若年層を引きつけられない。

介護職は身体的・精神的負荷が極めて大きいにもかかわらず、報酬が見合っていない。

そのため「人が来ない」「来ても辞める」という悪循環が続き、現場は70〜80代の高齢ヘルパーが支える“老々介護の職場化”が進む。

 

次に、訪問介護の報酬制度の限界が倒産を加速させている。

移動時間が評価されず、山間部では赤字が常態化する。

報酬改定が3年に1度しかないため、物価高や最低賃金の急上昇に制度が追いつかない。

前回の報酬改定では訪問介護の報酬が逆に引き下げられ、事業の採算性が崩れた。

 

さらに、コロナ禍で高齢ヘルパーの離職が増加し、“担い手減少の加速”が起きた。

若者参入も、意見2の通り度重なる報酬改定の厳しさで下火になっている。

利用者側のクレーム対応や過度な要求も離職を後押しする。

 

この結果、倒産 → 利用者の行き場喪失 → 残る事業所の負担増 → さらに倒産という“連鎖的崩壊”が起きつつある。

利用者は生活の維持が困難となり、子世代に負担がのしかかり、地域全体の介護機能が弱体化していく。

 

《国が実施すべき対策(抜本的改革が必要)》

1)介護職の賃金を抜本的に引き上げる(最低+5〜8万円規模)

月1.9万円の一時的賃上げでは焼け石に水。継続的・制度的に引き上げ、他職種と競争できる水準まで引き上げが必要。

 

2)訪問介護の“移動時間”を報酬に組み込む

山間部は定額報酬制を導入し、移動が多い地域ほど報酬を適正化する。
 

3)制度そのものの全面再設計(介護保険制度の“30年遅れ”を解消)

1998年設計の制度では現状に対応できない。“年1回改定”や地域ごとの申請制など、柔軟性の高い制度に変えるべき。

 

4)訪問介護の一部“準公務員化”

安定雇用を用意し若者が参入しやすい環境を作る。
消防・保育と同様、社会基盤として公的支援を強化する。

 

5)利用者家族の関与の制度化

家族が可能な範囲で責任を負い、訪問介護の過度な依存を避ける枠組みの検討も必要。

 

《結論》

介護現場の危機は、単なる人手不足ではなく、制度の限界が露呈した「構造的崩壊」である。

対処療法ではなく、賃金体系、報酬制度、家族負担の位置づけ、介護保険制度全体の再構築という“全領域改革”がなければ、日本の介護は持続できない。

国は今、抜本改革に踏み出すべき時期に来ている。
 

 

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