2025年11月22日付のYahoo!ニュース(千葉日報オンラインに掲載された記事)が、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が、
『千葉県「公務員技術職の新卒に奨学金150万円を代理返済」~苦戦する公務員採用が激変する背景』
と題した記事を寄稿していました。
以下に、この記事を要約し、奨学金を新卒採用に支給する公務員採用活動の影響を考察しました。
《記事の要約》
民間企業の新卒採用市場は長期的な売り手市場が続き、コロナ禍も含め約10年間、人材確保が難しい状況が続いている。
この影響を最も強く受けているのが自治体の公務員採用、とりわけ技術職だ。応募者数が伸びず、採用枠を大きく割り込む自治体が各地で相次いでいる。
こうした中、千葉県は技術職の確保へ向け、奨学金返済を支援する制度を新たに導入した。
対象は土木系4職種、児童福祉系5職種、獣医師の計10職種。日本学生支援機構の奨学金返済額のうち半額(上限150万円)を、県が入庁から10年間かけて本人に代わって負担する。
制度は少なくとも2031年度まで続ける方針だ。
背景には、民間企業の奨学金返済支援制度の普及がある。日本学生支援機構の調査では、2025年6月時点で3721社が導入し、支援額の上限を引き上げる企業も増えている。
これに対し、自治体の奨学金支援は従来、地域中小企業への就職者に対する助成が中心で、自治体の“職員採用”に直接結びつける制度は異例といえる。
千葉県の制度導入は、採用難が深刻であることの裏返しだ。千葉日報によれば、2024年度採用では土木系147人の採用枠に対し、実際の入庁者は73人にとどまった。
技術職の人気低迷は千葉県に限らず、国家公務員でも同様だ。待遇や働き方の魅力を十分に示せていない点が課題とされる。
今後、採用競争を勝ち抜くため、奨学金返済支援や早期選考など、民間企業に遅れをとらない採用改革を導入する自治体はさらに増えるだろう。
支援額150万円の千葉県を上回り、200万円超を打ち出す自治体が現れても不思議ではない。
(要約、ここまで)
《筆者の考察》
<奨学金支給による公務員採用活動への影響>
公務員採用に奨学金返済支援を組み込む動きは、技術系人材の確保が困難になる中で自治体や国家公務員が打ち出す“緊急避難的な施策”といえる。
だが、これは単なる採用補助策にとどまらず、公務員制度全体の構造変化を促す可能性がある。
まず、効果として最も大きいのは 「応募者数の底上げ」 だ。
土木、電気、機械、獣医師、保育分野など、慢性的に人手不足が進む職種では、学生が大学在学中から高額な奨学金を負っているケースが多い。
返済負担の軽減は、これまで公務員を選択肢に入れなかった学生に対し、一定の動機づけになる。特に獣医師や児童福祉職は離職率が高いため、入り口段階で魅力を示す意味は大きい。
しかし、奨学金支援で採用を増やせても、根本問題が解決されなければ 長期定着には結びつかない。
現場の古い体質、改善を拒む組織文化、薄給、裁量の乏しさといった構造的課題が残れば、早期離職に歯止めは掛からない。
奨学金はあくまで「入庁のドアを開ける」だけであり、働き続けるかどうかは職場環境の質に左右される。
また、最優秀層の学生は「安定」よりも「スキル」「キャリア形成」「裁量」を重視する傾向が強まっている。
公務員の業務がスキルとして市場価値に結びつきにくい構造のままでは、奨学金制度を導入しても優秀層の流入は限定的である。
一方、奨学金支援が当たり前になると 自治体間の“奪い合い競争” が激化する恐れがある。
限られた財政の中で支援額を引き上げ続ければ、自治体の財政負担が雪だるま式に増える。
支援額の競争に陥れば、本来必要な待遇改善や職場改革に回すべき予算が削られる危険もある。
さらに、公務員の社会的イメージ低下や若者人口の減少という構造的要因は、奨学金支援だけでは解決が難しい。
採用難の根底には「公務員の魅力が社会的に相対的に低下した」という長期的トレンドが存在する。
総じて、奨学金返済支援は即効性のある施策だが、採用難を根本的に解消するには
・働きやすさ
・給与
・スキル形成
・組織文化
・社会的評価
といった「本丸」を改革しなければ、効果は限定的となるだろう。
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