2025年11月12日付の読売新聞が、

『都市部私大の理系拡充へ1校最大40億円支援…文科省、将来の人材不足に対応』

と題した記事を報じていました。

以下に、この記事を要約し、「なぜ理系を目指す学生が少ないのか」、「この政策の成功の鍵」や「政府の支援が首都圏の大規模私大が対象になってることの社会への影響」について、考察しました。

 

《記事の要約》

文部科学省は、文系中心の大規模私立大学に理系教育の拡充を促す新たな支援策を進める。

都市部の大規模私大を中心に、学部再編や文理融合教育への転換を後押しし、1校あたり最大40億円を支援する。

背景には、2040年に理系人材が330万人不足し、逆に文系中心の事務・営業職が320万人余ると予測される「人材需給のミスマッチ」がある。政府は理系専攻者の割合を現在の約3割から、2040年には5割程度まで引き上げる目標を掲げる。

 

全国の大規模私大51校のうち47校が首都圏・関西圏・愛知県に集中し、このうち40校を重点支援とする。

原資は2022年度に創設した3000億円の理系転換基金で、今年度補正予算で1100億円を追加する方向だ。

支援は理系学部の新設に限らず、文系学部へのデータサイエンス導入や、文理双方の学位を認定する高度文理融合教育も対象となる。

 

選定にあたっては理系比率や文系定員削減幅などを指標とし、文系学部でも入試で数学を課す取り組みを評価する。これまで支援対象となった私大261校のうち、大部分は地方の中小規模校で、大規模私大の理系転換が遅れていた。

都市部での高額な整備費を踏まえ、支援額は従来比で倍以上に増額される。

 

文科省は2025年11月12日、省内に作業部会を設置し、高校・大学・大学院を通じた理系人材育成のシステム構築に向けた議論を本格化させる。

(要約、ここまで)

 

《筆者の考察》

1)なぜ「理系を目指す学生」が少ないのか

最も大きな要因は「労働市場の待遇格差」である。

理系大学出身にもかかわらず、関連分野に就職しない理由は「給与水準と労働環境の厳しさ」にある。

特にデジタル分野は、理系職種が高度である一方、待遇が必ずしも十分でないケースが少なくない。

さらに、日本の高校・大学教育では「数学に苦手意識を持つ層が多い」ことや、「理系=難しいが報われにくい」という社会的イメージが広く浸透している。

理系への進学は学費も高く、特に都市部の私大理系は生活費も含め経済的負担が重い。

結果として、難度が高いのに給与は伸びにくく、経済的負担も大きい・・・という三重苦が理系離れの根本構造である。

 

2)政策成功の鍵

第一に「待遇の改善」が不可欠だ。大学段階の“理系シフト”だけ進めても、就職後の待遇が改善しなければ学生は動かない。

大学や高専での教育水準を維持するためには、研究費・人件費の安定的支援が欠かせない。

第二に「教育現場の人的リソース確保」である。高専・国立大の教員は業務過多に陥っており、文理融合や高度教育を担う余力がない。

教員の待遇改善と人員確保は、理系人材育成政策の基盤である。

第三に「地方の理系拠点強化」。地方国立大、高専は産業界と密接につながっており、実務力の高い人材を多く輩出している。ここへの投資は費用対効果が高い。

 

3)首都圏の大規模私大が主対象となることの社会的影響

今回の支援は都市部大規模私大に集中する。これにはメリットとデメリットがある。

 

●メリット

・学生数が多く、効果が一気に広がる

・都市部に産業集積があり、企業との連携が進めやすい

・理系施設整備のコストが高いため、支援は合理性がある

 

●デメリット

・東京一極集中がさらに加速する

・地方国立大・高専が相対的に弱体化し、日本全体の研究基盤が痩せる

・実績の乏しい“Fラン私大”にも資金が流れる可能性がある

・都市部の私大はもともと財政余力があり、税金投入の妥当性が曖昧

 

特に懸念すべきは、研究力の中核を担う国立大・高専が置き去りになる構造だ。

これらの機関は教員疲弊や財政難が深刻で、ここへの支援を怠れば日本全体の技術基盤が崩れる。

 

■結論

政府の支援は一定の効果を持つが、本質的な課題は「労働市場の待遇」「教育現場の人員不足」「地方理系拠点の弱体化」にある。

都市部私大への資金投入だけでは、理系人材不足を解消する“構造改革”にはならない。

理系に進む価値がある社会、研究者・技術者が報われる環境を整えることこそが、最も重要な成功条件である。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ985号より)

 

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