「環境パフォーマンス」とは、織物製造業において、製品(綿、麻、ウール、合成繊維などの織物)の製造プロセス全体を通じて生じる環境への影響を管理・低減し、あらかじめ設定した環境方針および環境目標に対して、どれだけ実効的な成果を上げているかを示す総合的な指標です。

ISO14001における中核概念の一つであり、環境側面の洗い出し、KPI化、モニタリング、評価、是正のPDCAサイクルによって継続的に改善されるべきものです。

 

織物製造業は、水使用、エネルギー消費、化学薬品の使用、排水汚染、廃棄物発生など、さまざまな環境側面を有しており、それらを可視化し、制御可能にすることが環境パフォーマンスの本質です。

 

《環境パフォーマンスの具体例と取組み方》

以下に、織物製造業に特有の著しい環境側面の具体例と、それに対する実践的な取組み方を示します。

 

1)水使用量と排水負荷(COD、BOD、pH)

<課題>

染色や精練工程では大量の水と薬剤が用いられ、排水中の有機物や色素が水質汚濁を引き起こします。

<取組み>

(1)クロージングループ型の水再利用システムを導入し、最大70パーセントの排水を再利用。

(2)活性炭吸着、膜ろ過(UF・RO)技術を導入して、排水の色度とCODを大幅に低減。

(3)排水は日単位でpH・BOD・SSを測定し、規制値以下の水質を維持。

 

2)化学物質の適正管理(染料・助剤)

<課題>

有害なアゾ染料や金属含有助剤は、排水や残留化学物質として環境・健康にリスクを及ぼします。

<取組み>

(1)REACH規則やZDHCガイドラインに準拠した安全な薬品に切り替え。

(2)化学物質のSDS管理と、作業員への取り扱い教育を実施。

(3)使用薬剤の原単位(g/m生地)を製品別に記録し、最適量での工程設計を行う。

 

3)エネルギー使用量とCO2排出量

<課題>

乾燥や蒸気加熱工程で大量の重油・電力が使用され、CO2排出につながる。

<取組み>

(1)ヒートポンプ式乾燥機を導入し、電力原単位を25パーセント削減。

(2)ボイラー排熱を熱交換で再利用し、蒸気量を10パーセント削減。

(3)月次でkWh/千メートルの生地をモニタリングし、省エネ対策を評価。

 

4)繊維くずや端材などの産業廃棄物

<課題>

切断や検反過程で発生する端材・不良品が多く、焼却処分に頼るケースもある。

<取組み>

(1)発生源を特定し、検反前の自動カメラ検査で不良率を抑制。

(2)端材は他用途(断熱材や軍手素材)へのアップサイクルルートを確保。

(3)廃棄量を重量ベースで管理し、前年比での改善率を設定。

 

5)騒音・粉塵・作業環境

<課題>

織機や整経機からの騒音や糸くずによる粉塵が、作業環境および近隣への影響を与える。

<取組み>

(1)吸音パネルを壁面に設置し、機械室騒音を85dBから78dBへ削減。

(2)集塵装置付き整経機を導入し、作業場の粉塵濃度を許容範囲内に維持。

(3)作業環境測定を年2回実施し、是正措置を速やかに講じる体制を整備。。

 

<まとめ>

織物製造業における環境パフォーマンスの向上は、単なる環境対策に留まらず、「製品品質の安定化」「コスト削減」「地域との信頼構築」「サステナブルブランド価値の向上」など多面的な経営成果につながります。

ISO14001の運用を通じて、工程ごとの環境側面を「見える化」し、科学的根拠に基づくKPIで継続的に改善していくことが、環境パフォーマンス向上の最短ルートです。

技術だけでなく、マネジメントと現場の協働によって、織物産業は真に持続可能なものづくり産業としての未来を切り拓くことができます。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ966号より)

 

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