「酪農」は、牛乳という重要なタンパク源を供給する一方で、温室効果ガス排出、水質汚染、臭気、廃棄物、飼料生産由来の土地利用圧など、さまざまな環境影響を伴う農畜産業です。
ISO 14001における「環境パフォーマンス」とは、こうした影響をどれだけ適切に管理し、改善できているかの実績を定量的に評価・継続的に改善していく取り組みを指します。
酪農の環境負荷は見えにくいものも多いため、定量的な環境側面の特定と、それに基づくマネジメントが極めて重要です。
《環境パフォーマンスの具体例と取組み方》
以下に、酪農に特有の著しい環境側面の具体例と、それに対する実践的・制度的に正当な取組み方を示します。
1)メタン(CH4)排出(牛のげっぷ)
<具体例>
反芻(はんすう)動物である牛の消化過程で発生するメタンは、CO2の25倍以上の温室効果を持ちます。
<取組み方>
・飼料設計の見直し(高消化性飼料の導入、発酵抑制物質添加)
・乳量と排出量の相関を評価し、排出原単位での改善管理
・「低炭素型酪農技術指針(農水省)」に基づくメタン排出評価
2)糞尿処理と水質汚染リスク
<具体例>
牛舎から排出される糞尿が地下水や河川に流出すると、窒素・リンによる富栄養化を招きます。
<取組み方>
・コンクリート防水床や排水分離処理を設置し、未処理糞尿の拡散を防止
・嫌気発酵・堆肥化処理による安定化と液肥化・施用計画の作成
・年間の施肥量を記録・管理し、過剰施用を避ける仕組み(例:GIS連動管理)
3)悪臭問題(住民苦情の温床)
<具体例>
堆肥化過程や舎内の未処理糞尿が、周辺地域に悪臭を及ぼし、社会的対立の原因となる。
<取組み方>
・一次発酵槽の密閉化と送風制御による臭気抑制
・活性炭・微生物散布など臭気対策資材の活用
・地域住民への説明会開催、苦情対応手順の整備(ISOの「緊急事態への備え」条項と関連)
4)飼料生産の土地負荷と輸入依存
<具体例>
輸入飼料(トウモロコシ・大豆粕など)の生産地で森林伐採や生態系破壊が進行している。
<取組み方>
・地元産粗飼料(牧草・稲わら・飼料米)活用の推進
・飼料の「LCA(ライフサイクルアセスメント)」評価とCO2原単位の見直し
・ISO 14067(カーボンフットプリント)との整合性を図る取組も効果的
5)水使用量の多さ(牛の飲水・洗浄)
<具体例>
1頭あたり1日で100リットル以上の水を消費することもあり、井戸枯渇や水資源圧迫が懸念される。
<取組み方>
・水使用量の記録とKPI管理(牛頭数あたり月間使用量)
・乳房洗浄や床洗浄に使用する水の再利用・リサイクル装置の導入
・節水ノズルやタイマー制御による水の無駄遣い防止
6)エネルギー消費(搾乳機・冷却・換気)
<具体例>
24時間稼働する搾乳ロボットやタンク冷却器により、電力使用量が多く、CO2排出につながる。
<取組み方>
・高効率冷却装置や夜間電力利用によるピークカット運用
・牛舎の自然換気設計・断熱施工による冷暖房負荷の低減
・太陽光発電によるエネルギー自給(例:北海道のメガ酪農場での導入事例)
7)畜産副産物(死廃牛・廃棄乳)の管理
<具体例>
死んだ牛の処理や病気・異常乳の廃棄が、感染症リスクや環境汚染の原因に。
<取組み方>
・死廃牛の冷却・密閉保管と許可業者による迅速な収集体制の整備
・異常乳は肥料化・エネルギー化(バイオガス)など、有効利用の模索
・記録簿による発生量のトレーサビリティ管理
◆ISO 14001でのPDCA管理と第三者信頼性の確保
酪農においてもISO 14001を導入することで、以下のようなマネジメントが可能です。
<Plan>
メタン排出量、水使用量、臭気レベル等のKPI設定
<Do>
飼料・糞尿管理マニュアルに基づく従業員教育と運用
<Check>
GHG排出や水質モニタリング結果を年次レビュー
<Act>
結果に基づく飼養密度の見直し、施設改修、改善策導入
<総括:環境パフォーマンスの向上は「地域との共生」への道>
酪農における環境パフォーマンスの向上は、持続可能な農業経営の核であり、環境・経済・社会(トリプルボトムライン)を統合的に考える視点が求められます。
ISO 14001をベースにしたマネジメントは、単なる汚染防止から、温室効果ガスの定量的管理、生産性向上、社会的受容の確保までを可能にします。
つまり、「おいしい牛乳」の裏側にある、見えない努力こそが真の環境パフォーマンスなのです。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ963号より)
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