環境パフォーマンスとは、組織の活動(ここでは農業経営)が環境に与える影響を、あらかじめ設定した方針・目標に照らしてどの程度コントロール・改善できているかを示す指標です。

 

ISO 14001における「環境側面」は、農業において非常に多岐にわたり、土壌、水、大気、生物多様性への影響を含みます。

特に農業は自然環境への依存度が高く、同時に環境負荷も与えやすい構造を持つため、環境パフォーマンスの向上は自営体の持続可能性=収益安定性と直結する重要な経営課題です。

 

《環境パフォーマンスの具体例と取組み方》

以下に、農業に特有の著しい環境側面の具体例と、それに対する実践的・制度的に正当な取組み方を示します。

 

1)化学肥料・農薬使用による土壌・水質汚染

<具体例>

・窒素・リン酸の過剰施肥による地下水・用水路の富栄養化

・残留農薬による土壌微生物群・河川生態系への影響

<取組み方>

・施肥設計に基づく適量施肥(施肥基準、施肥マップの活用)

・緩効性肥料や被覆尿素による溶出抑制

・ドリフト(飛散)防止ノズルの使用、雨天直前の散布回避

・土壌分析の定期実施による科学的な追肥判断

 

※農林水産省の「みどりの食料システム戦略」でも、化学肥料の使用量を2030年までに30%削減する目標が設定されています。。

 

2)農業用水の大量使用と水資源への依存

<具体例>

・畑・水田における取水過多

・排水による周辺湿地の乾燥化

<取組み方>

・畑地かんがいの自動化(ドリップ式・水分センサー連動)

・水稲の「中干し期間の延長」や「間断かん水」による使用量の調整

・地域ごとの水利権や農業水利施設との連携管理

 

3)温室効果ガスの排出(CH4・N2O・CO2)

<具体例>

・水稲からのメタン(CH4)発生

・畜ふんや化学肥料からの一酸化二窒素(N2O)排出

・トラクター・ビニールハウスの燃料使用による二酸化炭素(CO2)

<取組み方>

・水稲栽培での中干しの導入によるCH4排出抑制(最大50%削減)

・有機質肥料の計画的施用とC/N比の管理

・農機をディーゼルから電動トラクター・バイオ燃料機へ更新

・GHG(温室効果ガス)排出量の見える化ツールの活用(農水省支援)

 

4)廃プラスチック(農業資材)の発生

<具体例>

・使用済みのマルチフィルム、育苗ポット、ハウス資材などの不適正焼却や放置

<取組み方>

・耐久性の高いマルチフィルム、生分解性フィルムへの切替

・回収・再資源化業者との契約による適正処理とトレーサビリティの確保

・廃プラ量の記録と、圃場ごとの使用資材の可視化

 

5)生物多様性への影響(農地管理の仕方)

<具体例>

・畦畔や休耕田の除草剤散布による在来昆虫・水生生物の死滅

・単一作物(モノカルチャー)による景観・遺伝的多様性の喪失

<取組み方>

・畦畔の除草は機械刈りを基本とし、除草剤使用は最小限に

・緑肥作物・輪作体系の導入による生態系保全

・景観保全活動(環境支払い制度等)との連携

 

6)エネルギー起因の環境負荷(農業機械・ハウス)

<具体例>

・ビニールハウスの暖房用ボイラーや照明による大量の電力・灯油消費

<取組み方>

・太陽熱集熱パネルや地中熱利用設備の導入

・ハウス内温湿度モニタリングによる暖房稼働の最適制御

・パネル電力による「循環扇・かん水装置」の自家消費

 

7)廃棄農産物(未出荷や規格外品)の発生

<具体例>

・規格外品の出荷拒否や余剰収穫による焼却・埋設処理

<取組み方>

・直販所・ふぞろい品の加工食品化(六次化)

・フードロス削減型マルシェ・EC販売

・堆肥化またはバイオガス原料として地元企業と連携

 

◆ISO 14001に基づくマメにメントシステム構築の意義

ISO 14001を導入することで、農業者は以下のように環境影響を体系的に管理できます:

 

<ステップ>      <内容>

Plan(計画)     土壌・水・温室効果ガス・廃棄物等の環境側面を特定し、

環境目標を設定(例:肥料使用量▲20%)

Do(実行)       施肥マップ、センサー灌漑、ハウスの省エネ化、プラ資材記録

など具体策を展開

Check(確認)    定期的な土壌・水質分析、廃棄物量・エネルギー使用量の

記録・評価

Act(改善)      環境目標の未達要因を分析し、施策や作業手順を見直す。

マニュアル・教育を更新

 

<総括>

◆農業の環境パフォーマンスは「地域の未来」に直結する

農業は、単なる一次産業ではなく、地域の土地、水、生態系、気候の持続可能性に最も深く関与する産業です。

ISO 14001に則った環境マネジメントの導入は、農業経営の「見える化」と「信頼性強化」、そして「次世代への自然資本の継承」を同時に果たす手段です。

 

環境パフォーマンスの向上は、農業者の自己満足ではなく、消費者・行政・地域社会との信頼関係を築くための“見える責任”の証です。

地球の恵みに直接触れる農業だからこそ、その責任を言葉ではなく数値と行動で示す時代に入っています。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ960号より)


 

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