2025年9月4日付の時事通信社が、
『全都道府県で初の1000円超え 39地域で目安上回る 最低賃金』
と題した見出し記事を報じていました。
以下に、この記事を引用し、全都道府県で最低賃金が1000円を超えた背景とその影響及び課題について、考察しました。
《記事の引用》
2025年度の最低賃金改定で、都道府県ごとの引き上げ額が4日出そろい、初めて全都道府県で1000円を超えた。
中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が示した目安は全国平均63円だったが、人手不足の深刻化を背景に、39道府県が目安を上回り、人材獲得のための引き上げ競争が激しさを増している。
中央審議会は都道府県を経済力に応じてA~Cランクに分けて目安を示している。
2025年度は東京などのAランクとBランクは63円、Cランクは64円とし、地域間格差の是正を図った。
各地の地方審議会は目安を参考に改定額を決める。
引き上げ額が最も大きいのは、Cランクの熊本で、目安を18円上回る82円。
大分の81円、秋田の80円、岩手の79円と続いた。
Cランクの全13県が目安を上回るなど、目安超えが相次いだ。
目安通りだったのは、東京、大阪など8都府県にとどまった。
改定後の最低賃金が最も高いのは東京の1226円。
最も低い高知、宮崎、沖縄の1023円との差は203円となり、前年度の212円から縮小する。
(引用、ここまで)
《筆者の考察》
<全都道府県で最低賃金1000円超え 背景と影響>
2025年度の最低賃金改定で、全国すべての都道府県で時給が初めて1000円を超えた。
背景には深刻な人手不足がある。
特に地方では低賃金が人材流出を招き、地域経済の空洞化を加速させていた。このため、各県は「最低賃金が低い地域」というイメージを避けるべく、競うように大幅引き上げに踏み切った。
熊本や大分、秋田などCランク県では目安額を大幅に上回る80円前後の上昇となり、賃金競争が全国規模で進んでいる。
東京の最低賃金は1226円で最高、最も低い高知・宮崎・沖縄は1023円で、その差は203円と前年より縮小した。
地域格差是正が進む一方で、年収の壁が未解消のままであり、主婦パートや扶養内労働者が働く時間を抑制する傾向が強まる懸念も残る。
特に「年収130万円の壁」や「所得税123万円の壁」による働き控えは、人手不足解消を妨げている。
◆良い面(地域格差是正と消費活性化への期待)
最低賃金引き上げは、地方と都市部の賃金格差縮小に一定の成果をもたらす。
これにより、若年層や介護・飲食など低賃金業種からの人材流出が抑制され、地方経済の安定につながる可能性がある。
また、低所得層の可処分所得が増えれば、消費の下支えとなり、地域内での経済循環を促進する効果が期待される。
さらに、企業間の賃金競争が促されることで、労働市場全体の底上げにつながる。
特に介護や保育、物流といったエッセンシャルワーク分野では、賃上げが人材確保の直接的なインセンティブとなる。これは人材不足によるサービス低下の歯止めにも寄与するだろう。
◆悪い面(中小零細企業への圧力と「働き控え」問題)
一方で、急激な賃上げは中小零細企業にとって人件費負担の急増を意味する。
特に利益率が低く、価格転嫁が困難な業種では、時給上昇分を確保するために雇用時間の削減や人員整理が行われる可能性が高い。
結果として、働く時間を減らされたパート従業員の収入は増えず、労働現場は少人数で過重労働化する懸念がある。
また、賃上げ分がそのまま手取り増加につながらないことも大きな問題である。
所得税や社会保険料負担が増えるため、実際には可処分所得が減少するケースも見られる。
これにより、働き手が「年収の壁」を超えないように労働時間を抑える行動が強まり、人手不足はむしろ悪化するという逆説的な現象が生じかねない。
特に「経験やスキルが賃金に反映されにくい」点も指摘されている。
最低賃金の一律上昇は、熟練労働者と新人が同じ賃金となり、モチベーション低下を招く。
このままでは、労働生産性向上に結びつかず、賃上げが単なるコスト増に終わるリスクがある。
◆今後の課題(制度改革と生産性向上が不可欠)
1)年収の壁の解消
最低賃金引き上げと並行して、「130万円の壁」「103万円の壁」などの制度改革が不可欠である。
働きたい人が働ける環境を整えなければ、労働時間の抑制が続き、人手不足は解消されない。税制・社会保障制度を抜本的に見直し、働き損をなくすことが急務だ。
2)中小企業支援と価格転嫁
中小零細企業が賃上げを実現できるよう、補助金や税制優遇、取引適正化による支援が求められる。
同時に、大企業や流通業界に対し、価格転嫁を進めるルールを徹底する必要がある。
3)労働生産性の向上
最低賃金上昇を持続可能にするためには、労働時間削減やIT導入による生産性向上が不可欠である。
単純労働の機械化やデジタル化を進め、賃金上昇を付加価値向上と結びつけることが鍵となる。
◆結論
最低賃金の全国1000円超えは、日本の労働市場にとって歴史的な転換点だ。
これは地方から都市への人材流出を防ぎ、所得底上げを通じて経済活性化を促す可能性を秘めている。
しかし、税制・社会保障制度が現状のままでは、働き控えや中小企業の疲弊といった負の影響が拡大しかねない。
政府と企業は、賃上げを単なる「数字上の成果」に終わらせず、制度改革・生産性向上策と一体で推進する必要がある。
賃金上昇が真に国民生活の向上につながるか否かは、これからの政策判断にかかっている。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ975号より)
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