2025年7月6日付の共同通信社が、
『保育所大手が採用差別か 男性や妊娠中「断る」内規』
と題した見出し記事を報じていました。
以下にこの記事を要約し、この問題点と行政に必要な対応策を考察しました。
《記事の要約》
大手保育運営会社「キッズコーポレーション」(栃木県宇都宮市)が、保育士の採用において、男性や妊娠中の女性を不採用とする内部ルールを設けていたことが、2025年7月6日、元社員の証言や内部資料により判明した。
全国で約300カ所、定員約9千人の保育施設を運営しており、病院内・事業所内の保育所を中心に事業展開している。
背景には、同社の都内保育所の元園長が小学生女児への強制わいせつ容疑で逮捕された事件がある。
社内資料では「会社として事件を公表していない」と記されていた。
これを機に「断れるポイントを探して断る」との採用方針が定められたという。
厚生労働省は、このような採用基準は男女雇用機会均等法などに違反する可能性があると指摘している。
一方、同社は取材に対して「ルールはあくまで指針であり、個別の状況に応じて運用している」「誤解を与えないよう改定を進めている」と回答した。
また、元園長の逮捕については、保護者や自治体には説明を行い、調査の結果、園児への同様の被害は確認されなかったと説明している。
だが、採用差別に加え、不祥事の情報を公にしない姿勢が、運営の透明性や信頼性に疑念を抱かせている。
(記事の要約、ここまで)
《筆者の考察》
本件には大きく分けて3つの問題がある。
第一に、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に違反する可能性のある「採用差別」の存在。
第二に、性犯罪事件を受けた不透明な情報対応と「再発防止策」の不適切さ。
第三に、慢性的な保育人材不足と制度的ひずみの中で、現場が抱える構造的課題である。
まず、妊娠中の女性や男性保育士を一律で排除するような採用方針は、明確に違法性を含む。
労働基準法や均等法では、妊娠や性別を理由に不利益な扱いをすることを禁じている。
企業が「指針」と称して採用基準を設定し、実質的な差別を行っていたのであれば、行政指導や是正命令の対象になるべきだ。
一方、保護者や現場からすれば、性犯罪の再発防止に敏感になるのも無理はない。
だが、それを理由に性別で一律不採用とするのではなく、適切な選考や研修・指導を通じた予防体制を築くべきである。
現に、多くの男性保育士が現場で信頼され、性別に関係なく子どもたちの成長を支えている。
また、元園長の性犯罪事件について、同社が「公表しなかった」とする対応は、危機管理の観点から重大な誤りである。
不祥事の発生時に正確な情報公開と説明責任を果たさなければ、保護者や地域社会からの信頼を大きく損なう。
保育業は公共性が高く、民間であっても透明性が強く求められる。
さらに見逃せないのは、保育業界が慢性的な人材難に直面しているという事実だ。
保育士の離職率は高く、産休・育休の代替要員が確保しにくい現実もある。
これを民間企業の「自助努力」にのみ委ねるのではなく、行政による代替職員バンクの整備や補助金制度の拡充が必要だ。
加えて、行政は認可保育所や補助金対象施設に対して、採用方針の透明化、法令遵守に関する監査体制の強化、そして情報公開ルールの徹底を求めるべきである。
また、性犯罪歴の有無を確認する制度(例:英米のDBS制度)の導入も検討されるべき時期に来ている。
結論として、本件は「企業の対応ミス」にとどまらず、保育業界全体が抱える雇用と安全のジレンマ、そして法制度の未整備が招いた複合的問題である。
行政は一時的な是正措置に留まらず、中長期的な制度改革を通じて、安心して働ける、安心して預けられる保育の実現を目指す必要がある。
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