2025年7月5日付の読売新聞が、
『深刻な収入減でもスクランブル化否定のNHK「番組の質・量は維持」…制作費の4分の1は人件費』
と題した見出し記事を報じていました。
以下に、この記事を要約し、「公共放送」としての今後の課題について、考察しました。
《記事の要約》
NHKの2024年度決算が発表され、2年連続の赤字となった。主因は2023年10月に実施された受信料の1割値下げにより、事業収入が前年度から406億円減の6,125億円となり、支出6,574億円との差額449億円は積立金で補填された。
受信料収入は前年度比426億円減の5,901億円で、過去最大の減少幅。NHKは2027年度までに1,000億円の支出削減を見込み、年5,770億円での収支均衡を目指すが、職員からは実現困難との声も出ている。
事業支出の多くは国内放送番組の制作・送出費(4,971億円)であり、中でもニュース(解説)関連に923億円、ライフ・教養系に743億円が割かれている。
テレビ番組制作費は計3,079億円で、人件費が781億円、出演料・著作権料などが580億円、ロケ・編集関連で合計543億円に上る。
視聴者からは「ドラマが多すぎる」「BSの再放送番組に水増し感」といった意見も出ており、NHK内部でも番組の整理やチャンネル数削減を含むダウンサイジングの必要性が認識されつつある。
一方、受信契約数は過去5年で145万件減少。訪問営業の廃止やテレビ非保有世帯の増加が影響しており、受信料支払い率も全国平均で77.3%(前年度比1.0ポイント減)と下落。特に東北や山陰など高支払い率地域での減少が目立つ。
NHKの受信料制度は「視聴意思にかかわらずテレビ所有者に契約義務を課す」もので、未契約でも番組は視聴可能。
このため「ただ見」の不公平感や、「見ないのに契約義務がある」との不満が噴出している。
スクランブル放送導入による公平化の可能性もあるが、NHKは「対価主義は公共放送の理念に反する」として否定的。
現状では民事訴訟や割増金制度などを最終手段としつつも、公共放送の意義の訴求によって支払率を上げる方針を継続している。
(以上、記事の要約)
《筆者の考察》
NHKの公共放送としての課題は多岐にわたるが、最大の論点は「受信料制度と時代との乖離」である。
インターネットや民間動画配信サービスが急成長するなか、「テレビを持っているだけで支払い義務が生じる」という仕組みは、もはや視聴者の理解を得にくい。
情報取得手段が多様化し、番組は“選ぶ”時代になった。視聴意思を無視する契約義務は、「見ない人」にとって不合理であり、「ただ見を許す」現状は「払っている人」にとって不公平である。
この制度的ジレンマを放置すれば、支払率は今後さらに低下し、NHKの財政基盤は揺らぎ続ける。
実際、NHKは高支払い率を誇っていた地域でも契約解除が進み、“受信料岩盤層”の崩壊が現実になりつつある。
番組制作費の大半を占めるニュースや教養番組に高コストがかかっているのは公共放送として当然だが、一方でドラマやBS再放送など「コストに見合う価値が見えにくい」との声も強まっている。
この現状に対し、対応策は3つの方向で整理できる。
1)制度改革
スクランブル放送の導入は公平性向上に資するが、「NHKを見ない自由」も明確に保障することになる。
これは受信料収入減少を招くリスクと表裏一体だが、現状制度の持続可能性が危うい以上、選択肢から排除すべきではない。
2)組織改革
過剰な人員配置や高水準の福利厚生を見直し、人件費を適正化すべきである。番組の質を保つためには「身の丈に合った制作体制」が不可欠であり、再放送や外注の比率も再評価の余地がある。
3)視聴者との信頼構築
民間メディアとの違いを訴える一方で、「見てもらえるコンテンツ」を作り続ける姿勢も必要だ。
ネットやSNS時代に対応した発信方法の刷新や、地方局の再編による効率化も急務だろう。
公共放送の本質は、「必要な情報を誰にでも届ける」ことにある。
その理念を守るには、制度と組織の柔軟な見直しこそが、最も信頼に足る道である。
NHKは今、その岐路に立っている。
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