2025年4月17日付の毎日新聞が、
『暖房機器メーカーのコロナに下請け法違反で勧告 金型の無償保管強要』
と題した見出し記事を報じていました。

製品を製造する協力会社には、所有権は発注者にある「金型」が保管されている事例をよく見かけます。
発注者と協力会社は、「持ちつ持たれつの関係」なので、契約当初は、協力会社側にも「発注があれば金型は必要になるんだから」と“発注者から保管を強要された”という感覚はなかったでしょう。
しかし、長年に亘ってこの状況が続けば、「事実上、廃盤状態の金型」もこれまでの慣習で協力会社が長期保管を続けているケースもあり、立場上、協力会社は、発注者には言い出しにくいですから、行政(公正取引委員会)の力を借りて“メス”が入ったと言うことでしょう。

以下にこの記事を要約し、こうした公正取引委員会の勧告の影響と勧告された発注側が取るべき再発防止策を考察しました。

《記事の要約》
公正取引委員会は2025年4月17日、暖房・住宅機器メーカー「コロナ」(新潟県三条市)が、自社で保有する金型1818個を下請け33社に長期間無償で保管させていた行為について、下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)と認定し、再発防止を勧告した。
対象の金型はストーブやエアコンなどの部品製造用で、重さは数百キロから2トンにも及ぶ。1989年ごろから30年以上にわたって保管が続いていたケースも確認されている。

コロナは「数年の保管なら問題ないと考えていた」と弁明し、下請けも「業界慣習で費用請求の意識がなかった」と説明したが、公取委はこうした慣行自体が違法と指摘。
「下請けを無料の貸倉庫扱いするのは不当」として、保管費の支払いなど是正措置を求めた。
コロナは再発防止に努めると表明。金型の無償保管による下請法違反の勧告は2023年以降14件目となった。
(記事の要約、ここまで)

《筆者の考察》
<他社への影響と発注側の再発防止策>

今回のコロナに対する公正取引委員会の勧告は、製造業界において長年「慣習」として黙認されてきた金型の無償保管問題に、明確な違法判断を突きつけた重要な事例です。
背景にあるのは、大手メーカーが自社資産である金型を下請け企業に保管させることで、倉庫費用や管理の手間を外部化し、実質的に負担を押し付けてきた構造的な不均衡である。

この勧告は、他の大手製造業、特に自動車・電機・機械業界など金型を頻繁に用いる業界全体に対し、重大な警鐘となる。なぜなら、類似の実態を抱える企業は少なくないからである。
トヨタ、東京ラヂエーター製造、サンデンといった企業も過去に同様の指摘を受けており、今後も公取委の調査対象は広がる可能性が高い。

このような状況下で、発注側が取るべき再発防止策は以下のように体系的かつ継続的でなければならない。

◆再発防止策:発注側に求められる具体的対応
1)金型取引に関する契約の文書化 
・保管、更新、返却、廃棄などすべての取引条件を契約書に明記し、合意を得たうえで運用する。 
・「2020年改正下請中小企業振興法」のガイドラインに則り、型取引に関する契約管理の徹底を行う。

2)保管費用の見積もりおよび支払い 
・金型のサイズや保管環境、期間に応じた適正な保管費用を見積もり、下請けに請求の機会を保証する。 
・保管費用は製造原価の一部と捉え、製品価格の中に適正に反映させる。

3)実態調査と定期棚卸の実施
・社内の資材管理部門が、委託している全ての金型の保管実態を年1回以上棚卸し、長期間未使用の金型は廃棄・返却・買い取りを検討する。

4)取引慣行の見直しと社内教育 
・「業界の慣習だから」といった曖昧なルールに依存せず、下請法や独占禁止法に基づいた契約文化を醸成する。 
・資材調達・設計・製造の各部門に対し、法令遵守に関する研修を年次で実施する。

5)内部通報制度・第三者監査の強化 
・下請け側からの保管負担や費用請求に関する声を吸い上げる仕組みを整備する。 
・サプライチェーン全体の取引適正化に向け、第三者による監査も検討する。

今回の勧告は、単に一企業の法令違反を是正するだけでなく、日本の製造業に根強く残る「優越的地位の濫用」や不文律による取引慣行を見直す契機とすべきである。
今後、健全な取引関係を築くには、発注側の「コスト外部化」の姿勢を改め、取引全体の持続可能性を意識した経営が求められる。

発注企業は「ものづくり」の価値の裏にある下請け企業の労力や空間的資源を正当に評価し、対価を払う社会的責任を果たすべきだ。これは公取委の勧告に従うだけでなく、企業の信頼と持続可能性を高めるための不可欠な改革である。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ955号より)

 

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