2025年3月9日付のテレ朝NEWSが、
『英郵便局冤罪事件 英政府 富士通と賠償協議開始へ』
と題した見出し記事を報じていました。

このニュースは、イギリスの郵便局で発生した「合計700人以上の郵便局長の横領事件(実際は免罪」を発生させた情報システム会社を富士通が買収したために、富士通に賠償責任が生じた問題です。
会社を買収する際に、誰もが気にするのは、買収先企業の「簿外債務」です。
直近の決算書は、大きな問題がなくても、帳簿に反映されていない債務があれば、買収後に大きなリスクになるからです。
今回のケースは、結果的には、富士通が企業買収する際に、買収先が過去に顧客に提供した製品・サービスのリスク想定が不十分だったことによる生じた賠償責任です。

以下に、この記事を引用し、企業買収の際に、こうしたリスクを回避するために必要な対策を考察しました。

《記事の引用》
イギリスの郵便局を巡る「史上最大の冤罪事件」と言われる問題で、イギリス政府は原因となった会計システムを納入した富士通と、被害者への補償について協議を始めることで合意したことを明らかにしました。

イギリスでは、1999年から2015年までに700人以上の郵便局長らが会計記録と現金残高が合わないとして、横領などの罪で有罪となりました。
その後、証拠となった富士通の現地子会社が提供した会計システムに欠陥があることが明らかになりました。

イギリス政府によりますと、来日していたレイノルズ・ビジネス貿易相は、2025年3月7日、富士通の時田隆仁社長らと都内で会談し、被害者への補償について協議を始めることで合意したということです。

レイノルズ・ビジネス貿易相は「富士通が被害者に対する政府補償に貢献するという道義的義務を果たす約束をしたことを歓迎する」とコメントしています。
(記事の引用、ここまで)

《筆者の考察》
<企業買収に伴うリスクとその回避策>
富士通の現地子会社が納入した会計システムに起因する「イギリス郵便局冤罪事件」は、企業の買収や事業展開に伴うリスク管理の不備が引き起こした典型的な事例である。
この件では、システムの欠陥が長期間にわたって放置され、多くの無実の郵便局長らが不当な罪に問われた。
その結果、富士通はイギリス政府と被害者補償について協議を進めることになった。

企業買収においては、買収先企業のシステム、ガバナンス、コンプライアンス体制が不透明なまま運営されることで、買収元企業が不祥事の責任を問われることがある。
今回の件は、そのリスクを軽視した結果、長年にわたる問題が表面化し、企業ブランドの毀損や多額の補償責任につながった事例といえる。
そこで、企業買収時および買収後におけるリスクを回避するために取るべき対応策を以下に整理しました。

1. 企業買収時のデューデリジェンス(精査)の強化
(1) 技術的リスクの詳細調査
買収先企業が提供するシステムや技術の品質を事前に精査することは極めて重要である。
特に、会計・金融・医療など、データの正確性が求められる分野では、独立した第三者による監査を義務付けるべきである。

今回の事件では、富士通が買収する前から会計システムのバグが指摘されていたが、それが適切に管理されず、後に大きな問題へと発展した。
買収前にシステムの設計や不具合履歴を徹底的に調査していれば、問題の深刻度を把握し、リスクを回避できた可能性がある。

(2) 過去の訴訟リスクやコンプライアンス違反のチェック
買収先企業の過去の訴訟歴やコンプライアンス違反を精査し、未解決の訴訟や潜在的な法的リスクを事前に把握することが重要である。
特に、今回のような政府関連の案件では、発注元との契約条件や責任範囲を明確にすることが求められる。

富士通の場合、英国郵便局側がバグの存在を知りながら放置していたとされるが、それでも富士通が最終的な責任を問われる形になった。
こうした事態を避けるために、契約の際に責任の所在を明確化し、将来的な訴訟リスクを最小限に抑える仕組みを作るべきだった。

2. 買収後のリスク管理の強化
(1) 買収後の監査体制の確立
買収が完了した後も、親会社は現地法人の業務を定期的に監査し、問題が発生する前にリスクを発見・対処する必要がある。
特に、基幹業務に関わるシステムについては、独立した監査機関による定期的な評価を義務付けるべきである。

今回のケースでは、富士通は現地子会社の運営を完全には掌握しておらず、システムの欠陥が指摘されながらも適切な対処を行っていなかった可能性がある。
買収後の監査プロセスを強化し、問題の早期発見・修正を徹底することが求められる。

(2) 透明性の確保と情報開示の強化
企業が買収したシステムに問題があると判明した場合、その情報を適切に開示し、早期に是正策を講じることが重要である。
しかし、今回のケースでは、富士通はバグの存在を把握していたものの、機密保持の制約により公表できなかったとされている。

このような状況を回避するために、企業は政府・規制当局との協力体制を整え、機密情報の適切な開示手順を確立することが必要である。
特に、政府関連のプロジェクトでは、システムの不具合を発注元と共同で迅速に修正できる仕組みを導入すべきだ。

3. 企業ブランドの維持と信頼回復策
(1) 危機管理体制の確立
企業は、不祥事が発生した際の対応策を事前に準備し、迅速かつ適切に対処できる体制を整える必要がある。
特に、今回のような大規模な冤罪事件に関与した場合、企業の社会的責任(CSR)を果たし、信頼回復に努めることが重要である。

富士通は今回、イギリス政府との補償協議に合意したが、それに加えて、システム開発における品質保証体制を強化し、今後の再発防止策を明確に打ち出すべきである。

(2) 企業の説明責任(アカウンタビリティ)
今回の事件では、英国郵便局側にも責任があるにもかかわらず、世間の認識としては「富士通がすべての責任を負うべき」とされている。
このような状況を防ぐためには、企業側も積極的に情報発信を行い、責任の範囲を明確化することが重要である。

4. まとめ
今回の富士通の事例は、企業買収におけるリスク管理の不備がもたらした典型的な失敗例といえる。
買収前のデューデリジェンス精査)の徹底、買収後の監査体制の強化、情報開示と透明性の確保、企業ブランドの維持と信頼回復策といった多角的な対応策を講じることで、同様のリスクを回避することができる。

特に、ITシステムや会計処理を扱う企業は、技術監査を徹底し、不具合が発生した際の対応手順を明確化することで、企業の信用を守る必要がある。
今後、グローバル企業が成長を続けるためには、事業の拡大と同時にリスク管理を強化し、企業の持続的な発展を支える仕組みを構築することが不可欠である。

 

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