2025年3月7日付の朝日新聞が、
『富士通、「新卒一括採用」廃止へ 通年採用に統一、人数計画も設けず』
と題した見出し記事を報じていました。
以下に、この記事を引用し、「一括採用廃止」のメリット・デメリットと国内他企業への影響を考察しました。
《記事の引用》
富士通は2025年3月7日、2026年度の新卒採用から、年度ごとに卒業予定の学生を一斉に採用する「新卒一括採用」のしくみをやめると発表した。
新卒や中途採用など採用の枠組みに関係なく通年採用を導入する。年度ごとの新卒採用人数の計画もつくらない。
事業や働き方の多様化に伴い、新卒でも職種別に採用するなど新たな採用のしくみが広がりつつあるが、大企業での新卒一括採用の廃止は珍しいとみられる。
新卒や既卒者、転職希望者などの募集形態に関係なく、職種ごとに必要な人数を通年で募集する。総合職や一般職といった採用区分もなくし、一律の初任給も廃止する。
若手でも能力があればレベルの高い仕事に就いて、高い給与を得ることができるようにすることで、即戦力の人材や向上心の高い人材を引きつけたいという。
多くの新卒入社者は年収約550万円から700万円程度となる見込みだが、仕事の水準によっては1千万円も可能という。
(引用、ここまで)
《筆者の考察》
<「一括採用廃止」のメリット・デメリットと国内企業への影響>
1. 新卒一括採用廃止のメリット
(1) 採用の柔軟化と合理化
必要な部署に適した人材を、その時点でのニーズに合わせて採用できるため、人件費の最適化が可能になる。
終身雇用が崩れつつある中で、既存の採用方式にとらわれずに優秀な人材を確保しやすくなる。
中途採用や転職市場と同じ採用基準となることで、社会全体の労働市場の流動性が向上する。
(2) 能力主義の推進
年功序列を廃止し、個々の能力に応じた給与設定が可能になる。
実力のある若手が早く高収入を得られる仕組みとなり、優秀な人材の獲得につながる。
大学時代の学びやスキルが直接評価対象となり、学生の学習意欲の向上が期待できる。
(3) 国際基準への適応
海外では通年採用が一般的であり、日本企業のグローバル化に適した仕組みとなる。
外国人労働者や留学生も、時期を問わず応募しやすくなる。
海外の優秀な人材を呼び込み、企業の国際競争力を高めることが可能になる。
2. 新卒一括採用廃止のデメリット
(1) 就職活動の長期化と学生の負担
これまでのように「一定の期間に全員が就活を終える」流れが崩れ、就職活動が長期化する可能性がある。
学生はいつでも企業に応募できるため、明確な区切りがなく、精神的な負担が増加する。
学生の間で情報格差が生まれやすく、戦略的に動ける一部の学生と、そうでない学生の間で差が広がる。
(2) 企業の教育・研修コストの増加
一括採用の利点の一つは、入社後に一斉に新人研修を行えることだった。通年採用では社員の入社時期がバラバラになり、企業側の研修負担が増える。
企業文化の浸透が難しくなるため、組織の一体感を持たせるのに苦労する可能性がある。
(3) 格差の拡大
スキルや実績がある学生には高額の給与が提示されるが、特にアピールポイントのない学生は不利になる。
特に、「体育会系」や「誠実さ」をアピールする学生は、スキル不足を理由に評価されにくくなる。
大学の学部・学科選びがさらに重要になり、学歴重視の傾向が強まる可能性がある。
3. 他企業への影響と今後の展開
(1) 先進的大企業の追随
富士通が先陣を切ったことで、特にグローバル競争の激しいIT業界や外資系企業は追随する可能性が高い。
すでにメガベンチャー企業(楽天、ソフトバンクなど)は通年採用を行っており、大手製造業や金融業界にも波及する可能性がある。
(2) 中小企業への影響
伝統的な採用方式を続ける中小企業にとって、競争環境がさらに厳しくなる。
優秀な人材が大企業に流れやすくなるため、中小企業が人材確保に苦労する可能性がある。
(3) 大学・教育機関の対応
大学は就職活動のスケジュールが不明確になるため、キャリアセンターの支援体制を強化する必要がある。
専門スキルを磨けるカリキュラムを強化し、実務経験を積めるインターンシップの拡充が求められる。
4. 結論
富士通の新卒一括採用廃止は、労働市場の流動性を高め、企業の合理化や能力主義を推進するという点で大きな意義がある。しかし、その一方で、新卒者の負担増、格差の拡大、企業の教育コスト増加といったデメリットも無視できない。
特に、日本企業の多くは「一括採用で一斉に新人教育をする」文化に慣れており、急激な変化は混乱を招く可能性がある。したがって、完全な一括採用廃止ではなく、例えば**「新卒一括採用を維持しつつ、一部通年採用を導入する」**など、段階的な変革が現実的な選択肢となるだろう。
また、国内の他企業も、この変革の動向を注視している。ITや外資系企業は追随する可能性が高いが、伝統的な日本企業では慎重な姿勢を取る企業も多いと考えられる。今後、富士通の試みが成功すれば、日本の雇用制度全体の大きな転換点となるかもしれない。
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