2025年2月20日付の朝日新聞が、
『荏原製作所が下請法違反 大型の木型など8900個、無償保管させる』
と題した見出し記事を報じていました。
以下に、この記事を要約し、荏原製作所が、長期間に亘って、下請け業者に木型を無償保管させてきたことについて、公正取引委員会によって是正勧告されるまで、見直されなかった理由とこのような下請法違反をはじめコンプライアンス違反を再発防止する仕組みについて考察します。

《記事の要約》
ポンプ製造大手の荏原製作所(東京都大田区)が、下請け業者176社に対し、自社所有の木型を長期間にわたり無償で保管させていたことが、公正取引委員会(公取委)の調査で判明した。
これにより、2025年2月20日、公取委は、下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)を認定し、保管料の支払いや再発防止を求める是正勧告を行った。

問題となった木型は、ポンプの製造に使用されるもので、最大約27立方メートル、重さ数トンにも及ぶ。
荏原製作所は2023年2月以降、これら計8,900個の木型を1年以上、下請け業者に無償で保管させていた。
一部の業者では20年にわたって無償保管を強いられていた例もあり、金型の無償保管に関する下請法違反の事例としては過去最多の規模となる。

下請け業者176社のうち約半数は、荏原製作所に保管料の支払いを求めていなかった。
その理由として、「請求すれば発注を打ち切られる」「取引関係に波風を立てたくなかった」といった回答があった。
荏原製作所は、公取委の指摘を受け、「再発防止に努める」とのコメントをホームページに掲載した。

今回の件は、製造業界における金型・木型の無償保管という商慣習が、下請業者に負担を強いている実態を浮き彫りにした。
公取委は、この問題が下請け業者の賃上げを妨げる要因にもなっているとし、監視を強化している。
(記事の要約、ここまで)

《筆者の考察》
<なぜ是正勧告されるまで見直されなかったのか?>
1)業界に根付いた「商慣習」
製造業界では、発注や補修の度に使用する金型や木型を下請け業者に無償で保管させる慣習が根強く残っている。
これは、多くの大手メーカーで長年にわたって当たり前のように行われてきたため、「違法である」という認識が薄かった可能性がある。

2)下請け業者の立場の弱さ
下請け業者は、大手企業に依存しているため、「不当な扱いを受けても声を上げづらい」状況に置かれている。
公取委の調査でも、下請け業者の多くが「保管料を請求すれば、発注を打ち切られるのではないか」と不安を抱えていたことが明らかになった。
取引を失うリスクを避けるため、業者は長期間にわたり不満を抱えながらも沈黙していた。

3)荏原製作所の意識の低さ
荏原製作所は、「長年業界で行われてきた慣行だから」として、違法性を認識しないまま問題を放置していた可能性がある。
また、木型の管理コストを削減するため、意図的に下請け業者へ負担を押し付けていた可能性も考えられる。

4)公正取引委員会の監視強化まで問題視されなかった
公取委は、2023年3月以降、この問題に本格的にメスを入れ始め、今回の勧告は12件目である。
つまり、それ以前は、公取委による監視や摘発が緩く、実際に違法行為があっても指摘されることが少なかった。
下請業者側も、どこに相談すればよいか分からず、泣き寝入りしていた可能性が高い。

<再発防止策とコンプライアンス強化の仕組み>
このような下請法違反やコンプライアンス違反を防ぐためには、以下の対策が必要である。

1)企業のコンプライアンス意識の改革
大手メーカーは、「過去から続く商慣習=正しい」と考えず、コンプライアンスの観点から定期的に取引ルールを見直す仕組みを導入するべきである。
具体的には、下請法の順守を経営陣が直接監督する「コンプライアンス委員会」の設置や、定期的な社内監査の実施が求められる。

2)下請け業者の保護策の強化
・「下請けホットライン」の設置
公取委や中小企業庁は、下請け業者が匿名で通報できる窓口を設け、違法行為があれば迅速に対応する体制を整えるべきである。
・取引契約の透明化
下請け業者との契約書に、「金型・木型の保管は発注側が責任を負う」と明記し、不当な負担を防ぐルールを義務化する。

3)保管費用の適正負担
荏原製作所は、今後すべての木型・金型に関し、適正な保管料を下請け業者に支払う義務を負うべきである。
そのため、保管費用を事業計画に組み込み、財務部門と調整する仕組みを確立することが必要である。

4)公正取引委員会の監視強化
公取委は、今後も同様の事案が発生しないよう、定期的な調査や監視を強化すべきである。
違反企業には、「是正勧告」だけでなく、罰則を強化し、再発防止のインセンティブを高めることも検討すべきである。

<まとめ>
荏原製作所の下請法違反は、業界の古い商慣習、下請け業者の立場の弱さ、企業のコンプライアンス意識の低さが重なり、長期間にわたって是正されなかった。

今後、同様の違反を防ぐためには、

1)企業のコンプライアンス意識の改革
2)下請け業者の保護策の強化
3)保管費用の適正負担のルール化
4)公正取引委員会の監視強化
といった対策が不可欠である。

また、荏原製作所だけでなく、業界全体がこの問題を真摯に受け止め、取引の透明性を高めることで、公正なビジネス環境を構築する必要がある。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ947号より)


 

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