2024年3月14日付のBloombergが、

『バイデン大統領、日鉄のUSスチール買収に懸念表明へ-関係者』

という見出しの記事を報じていました。

以下にこの記事を要約し、世界の鉄鋼メーカーの状況と、USスチールを買収すると表明している日本製鉄について考察しました。

 

《記事の要約》

バイデン米大統領は、日本製鉄によるUSスチール買収計画に関して近く懸念を示す声明を出す見込みであるとブルームバーグが2024年3月14日に報じた。この情報は匿名を条件に話した複数の関係者からのもので、USスチール株はこのニュースにより2020年6月以来の低下を記録した。バイデン政権は労働組合に寄り添う姿勢を示しており、この声明は全米鉄鋼労働組合(USW)への支援とみなされている。トランプ前大統領はこの取引を阻止する姿勢を明確にしており、この問題には政治的な思惑が絡んでいるとされる。

 

声明の具体的な内容やどこまで踏み込むかは未だ明らかでないが、ホワイトハウスはコメントを差し控えており、日本製鉄とUSスチールもコメントを出していない。英紙フィナンシャル・タイムズによると、この声明は岸田文雄首相の2024年4月の訪米前に発表される予定であり、ホワイトハウスは大統領の決定を日本政府に内々に伝えたとされる。日米同盟の重要性を重んじるバイデン政権にとって、この時期の声明は「きまりの悪い」ものであり、選挙の年では政治が優先されることを示している。

 

USスチール買収計画は国家安全保障や雇用への脅威を理由に、バイデン政権内からも懸念の声が挙がっている。USWはこの計画を強く批判しており、マッコール国際会長は日本製鉄の幹部と会談を行い、バイデン氏からの支持を「個人的な保証」として得ていると述べている。ホワイトハウスのブレイナード国家経済会議委員長も、「国家安全保障やサプライチェーンの信頼性への潜在的影響」を理由にこの計画の厳格な精査を表明している。
(記事要約、ここまで)

ご承知の方も多いと思いますが、2023年12月18日に、日本製鉄が約2兆円で、アメリカのUSスチールを買収することを発表しました。
このニュースが報じられたときに、多くの識者は、「この買収はUSスチールの雇用が守られ、USスチールにとってメリットがある買収」と言われていました。
 

しかし、想像ですが、全米鉄鋼労働組合は、アメリカ大統領選を絡めた「政治案件」とすることで「日本製鉄から良い条件を引き出したい」のでしょう。

鉄鋼業は、製造業が隆盛を極めていた時代の象徴的な産業ですから、アメリカの白人労働者にとって、日本製鉄の買収は、ショッキングな話しで、民主党のバイデン氏、共和党の(おそらく)トランプ氏にとって取り込みたい支持層なので、こうして、「日本政府に対して懸念」を表明しているのでしょう。
 

《世界の鉄鋼メーカーの生産量トップテンは中国企業ばかり》

ちなみに、2022年の世界の鉄鋼メーカーの生産量ランキングでは、上位10社は、中国宝武鋼鉄集団、鞍山鋼鉄集団など中国メーカーが6社、2位にルクセンブルグのアルセロール・ミタル、4位の日本製鉄、7位のPOSCO(韓国)、10位にタタ・スチール(インド)と、中国が世界最大の鉄鋼産業国という現実があります。

 

〈中国が世界の鉄鋼産業の覇権を握った要因〉

中国が世界の鉄鋼産業の覇権を握った要因は、複数の要素によっています。
まず、中国は巨大な国内市場を有しており、経済成長に伴う建設ブームや製造業の拡大が、鉄鋼需要の増加を促しました。
加えて、国家による鉄鋼産業への強力な支援や補助金、そして比較的低コストの労働力が利用可能であることが、中国の鉄鋼メーカーにとっての大きな競争力となりました。
また、中国は豊富な原材料の供給源を確保しており、国内外の鉄鉱石の資源を積極的に開発しています。
これにより、生産コストを抑えつつ大量生産が可能になり、中国の鉄鋼メーカーは国際市場においても競争力を持つことができました。
さらに、中国政府は鉄鋼産業の近代化や環境規制への対応などを推進し、生産効率の向上や持続可能な成長を図っています。

 

〈アメリカの鉄鋼産業の衰退と中国からの輸入依存度の高まり〉

アメリカの鉄鋼産業の衰退と中国からの輸入依存が高まることに関するリスクには、経済的、安全保障的、環境的な側面が含まれます。
経済的には、中国からの安価な鉄鋼輸入により、アメリカの国内鉄鋼メーカーが価格競争で不利になり、産業の衰退や雇用の減少が起こる可能性があります。
安全保障の面では、国防や重要なインフラの建設に必要な鉄鋼の供給が外国に依存することで、供給不安や外国の政治的影響を受けるリスクが高まります。
環境的には、中国からの鉄鋼輸入による炭素排出量の増加や、生産プロセスでの環境基準の違いによる環境への負荷が懸念されます。これらのリスクは、アメリカの産業競争力の低下や国家安全保障の脆弱化、環境保護の取り組みに影響を与える可能性があるため、適切な対策や産業政策の検討が求められています。

 

したがって、「中国リスク」を考慮すれば、アメリカ政府は、資金的に、アメリカ鉄鋼産業の建て直しを徹底して行なうか、日本企業などとの合併を前向きに捉えて、支援する立場にあると私は考えます。

けれども、日本もそうですが、「政治家は当選しなければ、ただの人」なので、日本製鉄のUSスチールの買収に口出しするのは当然です。つまり、日本製鉄の買収表明時期が、ほぼ大統領選の前年だったというのが、タイミングがよくなかったように思います。

 

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