食品安全マネジメントシステム規格のひとつである「FSSC22000」。
Version5以降、話題になっている規格解釈のひとつに、「本社が工場で製造する製品に対して責任を持つ業務」に関する審査方法があります。
上記の話題に関するFSSC22000規格の要求事項として以下があります。
(規格より引用)
FSSC 22000 Version 5.1 Part 3 5.2.1 本部の業務
1)認証に関わる業務(調達、サプライヤの承認、品質保証など)を本部が管理している全ての場合において、スキームは、その業務を審査し、食品安全マネジメントシステムに、それらの業務に関して権限及び責任を持つ(委託された)と記載されている人に面談するように要求している。この本部審査は文書化しなければならない。
2)本部の業務が評価対象の一部でない場合、本部の業務は別個に、審査しなければならない。
3)グループに属するどのサイトも次のようでなければならない
a 別の審査を受ける
b 別の報告書を作成する
c 別の認証
4)本部の審査は、サイトにおける審査の前に実施しなければならない
(以下省略)
FSSC 22000 Version 5.1 Part 3 4.3.4 追加審査時間
次の状況に対しては、追加時間を要求しなければならない。
a)離れた本部
i 認証対象となる業務が製造サイトとは別の本部によって管理されている組織では、本部で認証対象となる業務を審査するための最短時間を0.5人日としなければならない
ii 製造サイトでの審査に本部の責任者が立ち会うときでも、追加審査時間は算出しない
iii (サイト外の)本部によって共有業務が管理されている場合、グループに所属する各単一製造サイトに対して最大20%の審査時間の短縮が許される。20%の審査時間の短縮が適用されるのは、ISO/TS22003:2013の付属書Bでいう最短時間である。
(規格の引用ここまで)
FSSCの認証は、工場単位となっています。
しかしながら、中堅規模以上の日本の食品メーカーの場合、事実上、工場で食品安全マネジメントシステムが完結することはほとんどありません。
多くの場合は、
・製品開発
・原料の選定、原料供給先の選定
・製品ラベル
・品質保証業務
などは、本社が責任を有し、本社で仕様を決めて、工場はそれを実行するという所掌で成り立っています。
「FSSC 22000 Version 5.1 Part 3 5.2.1」では「調達、サプライヤの承認、品質保証などを本部が管理している場合、食品安全マネジメントシステムに、それらの業務に関して権限及び責任を持つと記載されている人に面談するように要求している」と規定されているので、本社に訪問して担当責任者に聞き取りして審査を実施するのが本来の姿でしょう。
ただ、実際には、多くの認証機関は、
1)工場の審査の際に、本社の担当責任者を同席させて審査をする
2)工場の食品安全チームに、本社業務の責任者(あるいは委任された者)をメンバーに入れて、審査をする
3)工場に本社が責務を有する業務の文書や記録を送ってもらい審査員に提示する
といった方法論で審査をされているようです。
ただ、上記の3)については、「本社の担当責任者に聞き取りができていない」ので、FSSCの基準に適合しているか、微妙な気がします。
また、1)、2)については、本社の担当者に聞き取りは可能ですが、非通知審査の場合は、難しいのではないかと思います。
認証機関によっては、本社には、非通知審査予定を伝え(工場には非通知審査予定の情報を漏らさないことを条件として)、非通知審査では、認証機関と一緒に本社担当責任者も工場を訪問する、という方法論を採用している機関もあるようです。
また、「FSSC 22000 Version 5.1 Part 3 4.3.4 追加審査時間」の「a)離れた本部」の要求事項に「認証対象となる業務が製造サイトとは別の本部によって管理されている組織では・・・」旨が規定されているので「本社は認証範囲ではない。食品安全マネジメントシステム上は工場の顧客である」として、審査を工場で完結させている機関もあるようですが、個人的には、「エンドユーザー目線」で捉えれば、それは、審査上の理屈であって「食品安全の仕組み」としては「詭弁」だと思います。
要は、「本社は顧客であり、工場は顧客である本社の指示を受けて業務を実施している」では、「食品安全マネジメントシステムの保証が担保されている」とは言えないと思います。
個人的に、「FSSC 22000 Version 5.1 Part 3 4.3.4 追加審査時間」の解釈としてわからないのは、「i」で「本部で認証対象となる業務を審査するための最短時間を0.5人日としなければならない」と本社審査の最少工数を決めているにも関わらず、「ii」では「製造サイトでの審査に本部の責任者が立ち会うときは、追加審査時間は算出しない」と規定されている点です。
要は、「離れている本社を別個に審査する場合、最少工数は0.5人日です」といいつつ「工場の審査に本社の責任者が同席する場合は、追加工数は必要ない」と言っている点です。
認証機関によっては、この「ii」の規定を抜き出して、「工場で本社責任者が同席して審査ができるし、追加工数は必要ない」と解釈していますが、私は、それは誤りで、あくまでも「本社が離れている場合は、本社を別途審査しなさい。ただし、工場の審査に本社の責任者が同席したとしても、工場の審査工数は追加する必要は無い」、そして「本社によって共有業務が管理されているなら、最大20%工場の審査工数を減じてもよい」ということだと思います。
食品メーカーによっては、「本社の審査はして欲しくない」という本音がある組織もあるようです。
本社には、新商品情報など機密性の高い情報が多く「審査に訪問して欲しくない」という組織の気持ちは理解できますが、だからといって「本社を食品安全マネジメントシステムの顧客として審査は、工場が有する責任範疇のみ」という審査では、私はFSSC認証をするには、審査として不十分だと思います。
いずれにせよ、本社が工場の業務に部分的な責任を有している場合は、本社の訪問審査が必要で(工場の審査に本社の担当責任者が同席するのは自由である)、登録証に、本社の対象プロセス(部門)や業務を記載することが必要ではないかと思います。
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