ISOマネジメントシステム認証審査の基本的なルールのひとつに「認証審査においてアドバイスをしてはいけない」があります。
国際的なISO認証制度(ISO審査登録制度)の仕組みを作る段階で、いろんな議論があったようですが、要は、認証審査の「範囲」を、
・ISO規格要求事項に適合していること
・組織が決めた手順通りにシステムが運用されていること
・組織のマネジメントシステムが効果的であること
と明確にしたわけです。
つまり、簡単にいえば、「認証機関は、適合しているか否かは、審査結論として所見を述べ、適合していない部分は指摘するけど、その状態を適合させるための解決策や方法論は、組織の責任で対応を取ってください」という認証制度が「ISOマネジメントシステム認証制度」なのです。
認証機関に要求されている規格では、「ISO 17021-1:2015 9.4.8 審査報告書」の要求事項に以下の要求があります。
(以下、規格から引用)
9.4.8.1 認証機関は,個々の審査について、依頼者へ報告書を提供しなければならない。
審査チームは、改善の機会を特定してもよいが、具体的な解決策を提言してはならな
い。
(引用、ここまで)
要求事項では「改善の機会を特定してもよいが、具体的な解決策を提言してはならな
い」と規定されています。
認証審査を担当する審査員の立場なら、その後、認証機関内の報告書レビューで、報告書の問題点を指摘されるのは厄介なので、指摘を受けないように報告書をまとめるなら、認証審査で不適合について指摘し、それ以外は「適合していたことを証拠事例を含めて記述する」のが安全です。
しかし、ISO認証を取得している組織の多くは「悪いところ(不適合)だけでなく、規格を通して組織を調べてもらって、もっとこうしたらよいのではないか」といういわゆる「改善の機会」を指摘してもらうことを期待している組織が多いのが現状です。
それでは、次に示す事例について、考えてみましょう。
〈改善の機会の事例〉
組織では、毎年10月に、特定した緊急事態について、緊急事態の対応手順について、テストを実施する計画になっており、直近では、「灯油タンクの油漏れ」についての対応手順について、テストが実施されたことが「緊急事態対応訓練実施記録」に記録されていた。
しかしながら、当該実施記録には、緊急事態の対応手順について、見直しの必要性を評価する欄はあるが、訓練に参加した参加者の状況、参加者からの感想や意見、トップマネジメントや管理責任者からの総評を記載する欄がなく、当該様式に、これらを記録する様式に見直されることを推奨する。
この改善の機会の前半は、審査した状況が記載されて、後半に、担当審査員の意見と具体的な解決策に述べられています。
審査時に審査員と組織の間で、どのようなやり取りがあったのかは、定かではないですが、「見直しの必要性」の欄は、単に「要否」が書かれているだけだったものと推測されます。
つまり、審査員は、訓練した状況や参加者のコメントがわからなければ、「手順の見直しの要否」を判断する材料がない、ということを言いたかったのでしょう。
仮に、そのことを組織の聞き取りの中で審査側、組織側の共通認識の改善の機会となったのであれば、例えば、「手順の見直しの要否を判断する情報の記録方法について改善の機会があります」といった記載なら、問題ないと思います。
「当該様式にこれらを記録する欄を設定した方がよい」というのは、具体的な解決方法であり、捉え方によっては、「この方法がベストです」といっているようなもので、組織の自由度を阻害する書き方と言えるため、「改善の機会」として適切とはいえないでしょう。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ827号より)
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