組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISOマネジメントシステム認証制度がある。

 

このISOマネジメントシステムについて、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。

 

今回のテーマは、「審査時間の決定及びその正当な理由の組織への提供」について。

 

ISO/IEC17021-1:2015(適合性評価-マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項-第1部:要求事項)では、審査工数について、箇条9.1.4.3 で、

『マネジメントシステム審査の工数と、それを正当とする理由は、記録しなければならない』

と規定されています。

 

この規定は、ある組織が、ISO認証を取得したいと考え、認証機関に見積依頼をするとします。

当然ですが、見積費用には、認証機関によりますが、登録管理料やマーク使用料、登録証発行料などもありますが、見積金額の大半を占めるのは、マネジメントシステム審査工数です。つまり、見積を提示する際に、その「見積根拠は、認証機関で記録して下さい」という要求事項です。

 

マネジメントシステム審査工数の算定根拠は、一般的には、Excelなど表計算ソフトに有効要員数やQMSの複雑さ(例:繰り返しのプロセス、設計責任等)、QMSのリスク、環境側面や労働安全衛生リスクの複雑さなどをインプットすることで、算出される仕組みになっています。

したがって、例えば、「審査工数算定基準」といった手順書に、工数算定根拠となる各要件が明確に規定されていれば、ISO/IEC17021-1の9.1.4.3の「工数とそれを正当とする理由は記録しなければならない」については、「審査工数算定基準」と「工数算定記録(Excel等)」を管理していれば、OKでしょう。

 

議論になるのは、「イレギュラーなケース」でしょう。

例えば、有効要員数について、「審査工数算定基準」で、「誰が工数算定しても同じ結果」となる場合は、第三者に対して「審査工数算定基準に従って工数算定しています」と説明すれば、問題ありません。しかし、機械的ではない有効要員数の削減などが工数算定の中で採用されているなら、その理由は、「工数算定記録」等に記録しておかなければ、この要求事項(17021-1の9.1.4.3)は満たすことにならないでしょう。

 

それから、IAF文書のMD5:2019の「4.初回のマネジメントシステム認証審査」の「箇条4.4」に

『CAB(認証機関)は、契約の一環として依頼組織に対し審査工数の決定及びその理由を提示し、認定機関がこれを利用できるようにしなければならない』

という規定があります。

 

これは、ISO/IEC17021-1:2015の「箇条9.1.4.3」に関連した規定だと私は認識していますが、MD5では、ISO/IEC17021-1の9.1.4.3の「工数とそれを正当とする理由は記録しなければならない」に加えて、認証機関に対して、「契約の一環として依頼組織に対し審査工数の決定及びその理由を提示し、認定機関がこれを利用できるようにしなければならない」と規定しています。

 

要は、認証機関に対して、

・申請があった組織に対して、工数決定根拠とその理由の提示すること

・認定機関が、組織に提示した工数決定根拠とその理由を顕彰できるようにすること

が要求されているのです。

 

ちなみに、2022年4月14日に開催されたIAF TC(IAF TCディスカッションペーパー)では、このMD5:2019の「4.4」について、議論がなされたそうです。

議論のポイントは、「4.4」は「初回審査の規定であるが、サーベイランスや再認証審査にも適用されるのか」という意見です。

言い換えれば、「認証サイクル中で、審査時間要件が変更された場合 、認証機関は、契約の一環として、審査時間の決定とその正当性を顧客である組織に提供することが要求されるのか」という議論です。

 

この議論について、TCの結論としては、

・初回認証項にのみこの要件が含まれているのは、意図的なものではない

・継続的な契約の一部として、審査時間の決定とその正当性を組織に提供する必要がある

・変更があった場合、契約書等を正確に修正する必要がある

・その意図は、透明性を高めるために情報を維持することである

といったことが決議されたそうです。

要は、初回認証時だけでなく、有効要員数が変化するなど、マネジメントシステム審査工数に影響があった場合は、改定した審査時間(審査工数)に関する情報を組織にタイムリーに提示しなさい、ということでしょう。

 

工数の改定については、一義的には、組織が「マネジメントシステム変更届」等で、認証機関に適宜、情報連絡してくれれば、大抵は、この要求事項に関して問題は発生しません。

しかし、厄介なのは、現地審査に訪問して、「工数に影響がある変化が組織にある」とわかったときです。

ISO認定認証制度を信頼性あるものとするためには、認証機関がちゃんと管理するだけでなく、組織もしっかりしていないと担保されない、とつくづく感じます。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ812号より)
 

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