組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISOマネジメントシステム認証制度がある。

 

このISOマネジメントシステムについて、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。

 

今回のテーマは、「指摘のソフトグレーディング」について。

 

ISOマネジメントシステム認証制度における認証機関(審査登録機関)に対する要求事項(認定基準)として、ISO/IEC17021-1:2015(適合性評価−マネジメントシステムの審査及び認証を行う機関に対する要求事項−第1部:要求事項)があります。

 

この基準では、

(以下、規格から引用)

・9.4.5.2

マネジメントシステム認証スキームの要求事項によって禁止されていない限り、改善の機会を特定し、記録してもよい。

ただし、不適合となる審査所見は、改善の機会として記録してはならない。

(引用ここまで)

という要求があります。

 

要は、認証機関の審査員が、ISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)といった認証規格の要求事項に対して、組織審査の中で、適合していない点を見つけ出せば、「不適合」(要求事項を満たしていないこと)として指摘し、組織に是正処置を要求しなければなりません。

しかし、「不適合」をランクダウンしてしまうわけです。

つまり指摘レベルを下げることを「ソフトグレーディング」と呼んでいます。

 

なぜ、本来不適合として指摘するべきところを、指摘ランクを下げて、ソフトグレーディングしてしまうか、というと、以下のようなことが考えられます。

◆審査員が指摘を出すと組織が抵抗するので、できるだけ衝突を避けたい

(衝突し時間を要すると、予定時間内に審査を終えられない)

◆仮に、審査員の指摘が正しくとも、組織とわだかまりがあれば顧客満足度が下がる

(顧客満足度が下がると、審査員に今後、審査が割り当てられなくなる恐れがある)

◆不適合は、組織に是正要求することになり手間が掛かる

(是正処置の確認に要する報酬がない認証機関もある)

◆不適合に対する組織の是正処置回答レベルが低く、その処理が大変

(組織との是正処置のやりとりが増え、判定委員会等で指摘を受ける可能性が高まる)

・・・

 

組織のISO認証の目的が、

・同業他社も取っているから。。。

・発注者からの要求事項があり仕方なく。。。

といった理由が多かった時代は、組織の事務局の立場で考えば「認証審査で指摘されないこと」が目的化していました。

つまり、「不適合」指摘を受けることは、自分の組織内での評価を下げることにもなるので、「審査員の不適合指摘に対して抵抗する」ことが多かったわけです。

 

しかし、現在、認証を受けている組織の多くは、「発注者からの要求」だけでなく、「組織の仕組みの改善」のきっかけに認証審査を利用している経営者が多いので、指摘が逆にないと、審査後のアンケートで「ここ数年、審査で不適合指摘がなく、マンネリ化しているので審査員を替えて欲しい」という評価をする組織が多いようです。

 

つまり、ソフトグレーディングの理由は、「組織との衝突」よりも、「不適合を検出した後の是正処置などのやりとりの面倒くささ」が審査員に「できるだけ不適合指摘は出したくない」という気持ちや行動となるのです。

 

前記したように、不適合として指摘を検出すると、是正処置を組織に要求しますが、

・組織の是正処置が不十分なケースが多い

・組織の是正処置が不十分だと、適切な是正処置とするためやりとりが増える

・組織の是正処置が不十分だとその後のテクニカルレビューや判定委員会で指摘される

・是正処置に対して、審査員に適切に報酬が支払われていない

(例:審査報酬が、不適合があってもなくても同額)

・・・

といったことになるので、ひと言で言えば、「指摘するほど損」という審査員の思考や行動になるわけです。

 

組織としても、認証機関から「不適合があった場合は、追加料金が生じます」という審査契約になっていれば、「指摘をもらわないように抵抗する」のは当然です。

そこで、認証機関は、あらかじめ、こうした是正処置費用も含めた審査料金設定をしているのですが、審査委託費用をアップさせたくないので、審査員に支払われる報酬自体も予め設定された料金のままで、追加支払の仕組みがない認証機関も多いようです。

 

本来、不適合なのに、不適合としない審査を続けていることは、ISO認証審査制度の信頼性を長い目で見れば損なうし、認証機関としてもそれが常態化すれば、よくないことは明らかです。

認証機関経営者、認定機関は、このあたりをしっかりと認識し、ISO認定認証制度の信頼性向上と認証機関、認定機関の矜持としてこの問題に取り組んでいかないといけないでしょう。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ736号より)

 

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