組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISOマネジメントシステム認証制度がある。
このISOマネジメントシステムについて、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。
今回のテーマは、「withコロナの時代の審査」について。
日本における適合性評価機関の認定や国際及び国内の適合性評価に係る規格制改定、各国の認定機関間の相互承認などの役割を担う「公益財団法人日本適合性認定協会(略称JAB)」という組織があります。
要は、JABは、ISOマネジメントシステム認証機関や各試験所等の認定業務を実施するのですが、新型コロナ感染拡大に伴う外出自粛が始まった2020年4月~5月は、原則的に、一切の認定審査が中断し、都内にある事務所も概ね閉鎖となり、事務方職員は在宅勤務となっていました。
5月下旬に全国的な緊急事態宣言が解除されましたが、JABは6月に、適合性評価機関向けに「新型コロナウイルスの感染拡大防止にかかるご対応のお願い」という通知文を発行しています。
この通知文によると、
(以下、通知文より抜粋)
1)審査現場では、審査参加者を最低限に絞ってください。(不要な方は初回/終了会議など
への参加もご遠慮いただき、ガイドも最低限としてください)
2)審査現場では、できれば、換気が可能な会議室をご用意願います。(審査員から窓や扉
の開放をお願い差し上げる場合があります)
3)審査現場で使用させていただく会議室では、できるだけ1.5メートルを目安にソーシャルディスタンスを確保できるような会議室をご用意願います。
4)審査中はマスクを着用願います。(認定審査員も着用させていただきます)
5)審査中、適宜休憩を挟ませていただきます。(通常より少し長めに取らせていただく場
合があります)
6)審査開始時間については、オフピークを考慮し、午後からの開始、早めの開始・終了など、調整させていただく場合があります。
7)昼食については、対面や、狭い場所で大人数にならないよう、審査員との同席はご遠慮願います。
8)名刺交換は最小限とさせていただきます。
(以上、通知文からのの抜粋)
といったことが記載されています。
新型コロナウイルスの「実態」がまだ未解明な現状ですから、上記事項は「当たり前の措置」であると、少なくとも現時点の「常識」で、大きく異論をはさむ人はいないでしょう。
私は、適合性評価機関のひとつである「ISOマネジメントシステム認証機関」で以前、職員として勤務していた経験から、
『審査現場となる会議室で、1.5メートルを目安にソーシャルディスタンスを確保した組織審査立会における認定審査』
がどうなるか、考えてみました。
《何を会話しているのかわからない?!》
組織立会審査における認定審査のイメージがわかない方もいるかもしれませんが、通常は、ISO認証機関(以下、機関)の審査員が組織を審査する場面を機関審査員の真横に着席等して、観察しています。
機関の審査チームがひとり、あるいは、会議室に機関審査員が1人の場合はいいですが、多くの組織では、会議室内にいくつかのテーブルの「島」を作り、審査員は「島」で組織に対してインタビューや記録の検証を実施します。
しかし、1.5m以上認定審査員が「島」から離れた位置に着席すると、他の「島」でやり取りするインタビューの声がまじり、「何を会話しているのかよくわからない」状態になります。
しかも、機関審査員も組織側担当者もマスクをしているので、声がこもります。
したがって、例えば、「いま、不適合製品が発生した場合の手順と記録を機関審査員は、確認しているな」ということはわかっても、細かいやり取りはわからないでしょう。
《勧進帳の世界がまかり通る?!》
認定審査において、認定審査員は、機関が実施する「認証審査」にできるだけ影響を与えないように立ち会うのが基本です。
したがって、理想は「認定審査員は機関審査員の審査場面を観察しつつも、機関審査員や組織側の担当者にとっては、“やり取りを見られていても全く認定審査員の存在が気にならなかった」という状態です。
私が機関審査員として認定審査を受けた際は、「奇をてらった質問や調査・検証」は避けて「オーソドックスな審査に徹した」ので、「どうぞ、真横で私が実施する審査を見ていてください」と、あまり気にすることはありませんでした。
しかし、本音を言えば、「真横で審査場面を常にみられている」と困ることもありました。
例えば、組織側の理解が明らかに間違っているな、という時に、認定審査員が居なければ、もう少し具体的な説明をしますが、認定審査を受けていることを意識して、「やや抽象的な説明」になります。
また、誤解を招くかもしれませんが、記録を確認していると「これは不適合指摘をせざるを得ないが、組織の状況を鑑みると今回は観察事項でとどめ、次回審査で不適合指摘とした方がよいケースだな」という場合も現実にはあります。
しかし、真横で組織へのインタビューシーンや記録の確認シーンをつぶさに見られていると、「不適合とジャッジしなかったら、認定審査員は、明らかに、なぜ指摘しなかったんですか?」と聞かれるよな、と機関審査員の立場では感じます。
しかし、1.5m以上の距離があれば、組織が作成した記録の中身をつぶさに、認定審査員は見ているわけではありません。機関審査員が確認済みの記録を後で認定審査員が確認することは可能ですが、全ての記録についてそれは不可能です。
となると、例えば、「是正処置報告書の不適合の原因欄が空白であっても、機関審査員が、“不適合の原因がしっかり究明されていて問題ないですね”とつぶやきながら審査をする」なら、1.5m以上離れた場所からそのシーンを観察している認定審査員にとっては、「適切な是正処置確認を機関審査員は実施していた」とジャッジすることになるでしょう。
《組織立会審査の認定審査とはそもそもそんなもん?!》
そもそも組織立会審査では、
・認定審査は、性善説で実施すべきもの
・認定審査は、組織審査における機関審査員の判断そのものを深掘りすべきじゃない
といった考え方もあります。
要は、認証審査に機関審査員として力量を持った適切な審査員が配置されて審査を実施する仕組みが担保されているのなら、客観的に見て、あまりにもあやしげな審査をしていない限り、機関審査員が実施する審査に、いちいち茶々を入れるべきじゃないでしょ、という発想です。
私が、認証機関の審査員として、認定審査を受ける立場の際は、「基本、信用してくださいね。あんまり厳密に場面毎に判断されると、審査全体で帳尻を合わせたいのに、気になって審査がうまくできないから」と内心、思っていました。
しかし、1.5mの距離を取ることで、具体的な記録の中身は、ほぼ見れませんので、性悪説で考えれば、「うまくその場を機関審査員がパフォーマンスすれば、やりたい放題」です。
ISO認証された組織と取引を望む「市場」は、認定審査に何を期待しているのか?で、このあたりの程度は考えなければいけない問題かもしれないです。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ702号より)
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