2018年10月30日に、東京地裁で、東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪に問われた東電旧経営陣の公判が開かれました。
裁判の中で、東京電力の勝俣恒久元会長(78)は、
「福島県に大津波は来ないと聞いていたので特に問題意識はなかった」
と主張したそうです。
この裁判については各メディアが報じていますが、備忘録的に、ポイントを以下に整理しておきたいと思います。
【公判でのポイント】
◆2008年2月に、勝俣会長含む3被告が出席した会議で、7.7メートル以上の津波の予測を報告したとする元担当者の供述を、勝俣元会長は「記憶がない。勘違いと思う」と否定した
◆社内で4本部と30の部に分かれた東電の業務をすべて把握できるかと問われ「不可能に近い」と発言した
◆当時の会長職について「社長が助言を求めたら補佐し、対外的な仕事や付き合いをしていた」とし、原発の業務は原子力・立地本部に任せていた
◆2009年2月の御前会議で、当時原子力設備管理部長だった吉田昌郎元福島第1原発所長(故人)が「14メートル程度の津波が来る可能性があると言う人もいる」との発言については「聞いた」とした上で「半信半疑のムードだった」と重視していなかった
◆東電は2008年3月、太平洋側に大津波の危険があるとの国の長期評価(02年)を受け、子会社が試算を行い、最大15.7メートルの報告を受けていた
◆検察官役の指定弁護士側は、2007年の新潟県中越沖地震の影響で東電柏崎刈羽原発が停止しており、「15.7メートル」を公表すれば、福島第1原発も停止せざるをえず、津波対策を先送りしたと主張した
◆「公表せず情報を隠し持っていた」と指摘された勝俣元会長は「試算値でしょ」と声を荒らげる一幕もあった
(以上、10月30日付の日刊スポーツより)
この公判でのやりとりを聞く限り、素人意見ですが、
・会長といっても、当時勝俣氏は、代表取締役会長であり、原発の業務権限がないといえるのか
・津波に対する国の長期評価を受け子会社が試算した15.7mの報告を受けていたのに対策をしなかった責任はないのか
・2008年2月の御前会議で7.7m超えの津波を指摘した元担当者の報告は、記憶がないと発言したがそれでいいのか
といったことが気になります。
もちろん、裁判の中での「戦略・戦術」もあるのは承知ですが、
「70を過ぎているので記憶がない」
戦術は、ズルいです。
「記憶がない」=「責任がない」にすり替えられるのでは、経営者責任が問われる殆どの裁判において「経営者責任」は問えないことになってしまいます。
議事録や同席していた出席者の証言で「経営陣に報告されていた」認定をしなければ、なんでもかんでも「記憶がない」で逃げ切れてしまいます。
また、津波について子会社が試算した15.7mを公表しなかったことも、柏崎刈羽のこともあり、福島第1原発を停止に追い込まれることになることを恐れたのは、明白と考えるのが普通であり、これを旧経営陣が「公表しなかったのは試算値だから」、「15.7mの試算値に対する対策をしなかったのは元担当者の報告も懐疑的だったから」と主張するのは、客観的に無理があるように思います。
それにしても、勝俣元会長の主張では、原発業務については「原子力・立地本部に任せていた」という主張ですが、この主張が認められるならば、今後、他の原発でも同様の問題が発生した際に、日本の裁判では「経営陣の過失責任は問えない」ことになります。
また、現在、各地の原発の安全性が原子力規制委員会により確認されたことになっていますが、「安全性が確認できた」とする事項に関する問題が発生した場合は「原子力規制委員会と各委員の責任」を問うことはできるのでしょうか。
日本の組織の場合は、結局、「責任を取る人がいない」ということになってしまうのでしょうか。
これでは、被害者となった場合、やりきれない気持ちになるのは必至です。
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