組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISO認証制度がある。
このISOマネジメントシステム審査について、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。
今回のテーマは、「説明責任」について。
審査における「説明責任」については、昔から議論がある。
「議論」とは、「組織は自分たちの仕組みを審査員にきちんと説明できなければダメでしょう」という意見と、「手順書や検査記録、目標管理などを確認して実態がきちんと実行されていれば説明ができていなくてもOKでしょう」という意見です。
もちろん「説明がうまいか下手」の「下手」については、審査員の聞き方や理解力の問題もあるので、審査側が努力し、改善すればいいでしょう。
問題は「きちんと説明できないけど、記録等からは、手順書で決められた仕事がされている」場合の審査上の扱いです。
「説明できないとダメ派」は、
「そもそも第三者認証制度は、顧客や利害関係者の代わりにマネジメントシステムを評価している訳であり、組織が自分たちの仕組みを説明できないのにOKするのはおかしいでしょう。例えば、決められた計測はしているけれど、それを計測する意味について作業者が理解していなかったらマズいでしょう」
(注:不適合とするか、観察事項とするか、口頭指摘のみとするかは、その時の状況による)は
と考えます。
一方、「説明できなくても、実態としてルール通りに仕事がされていれば問題ない派」は、
「仕事の良し悪しと説明能力は別問題。説明できなくても、結果として組織のルールに則って仕事がされていることを記録等で確認できればOK」
と考えます。
程度問題もありますし、その時の状況にもよりますが、私は、「説明できないとダメ派」です。
規格要求事項的にアプローチすれば、例えば、
品質マネジメントシステム要求事項の「リーダーシップ及びコミットメント」で、
“トップマネジメントは、・・・・、品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない”
という一文があります。
また、「認識」では、
組織は、組織の管理下で働く人々が、次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。
a)品質方針
b)関連する品質目標
c)パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む、品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
d)品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味
と規定されています。
つまり、「うちの社長はコミットメントを実証する能力はないけど、仕事に対する熱い想いはものすごいものがあります」とか「うちの作業員は職人気質で気難しく自分の考えを表現できる力はないですが、いい製品に必ず仕上げるんですよ」では、上記に挙げたような要求事項が満たされていることを審査側が「実証」できないからです。
したがって、説明が上手いか下手かは別にして、「説明自体ができない」は、審査的には×といえると思います。
ただ、現実問題としては、「説明されなかったから不適合です」と審査側が評価するのは難しいでしょう。
極論、担当者がしっかり説明できなくても「ルールに沿った業務運用」がされている証拠書類が提示されれば、「しっかり説明がなされたかどうか」は、主観的事実になるので、指摘としてはだしずらいでしょう。
2015年版では、ISOマネジメントシステムの過去の反省から、過度な文書化、記録化要求はなくなりました。
このことは、例えば、
「うちの社員はきちんと聞かれたことを説明する能力はあるし、他の人に質問しても、同じようにきちんと回答はできるんですが、それを“文書や記録で説明してくください”と言われるとつらいんですよね。だから、ISOの審査向けに手順書や記録を作っているんです」
という組織にとっては、「2015年版は、業務管理上、リスクを考慮して実態優先で最小限必要な文書化をしておけばOK」だから、「審査のために必要以上に書類を用意する」という必要はなくなりメリットがあるでしょう。
逆に言えば、「きちんと自部門の業務プロセスを説明しまくる」ことができればいいわけです。
しかし、「事務局が審査員がダメ出しできないほどの管理文書類を重厚に構築していて、極論、審査員に言われた資料を提示してきた組織」は、2015年版の審査では、審査側も業務プロセスを追いかけて確認していくから、「まずは仕事の説明、そして実証の証拠としての文書類確認」という方式になるので、「文書類は重装備でも説明ありき」なので、大変だと思います。
事務局によっては、審査のたびに、審査側に突っ込みを入れられ、それが悔しいから、マネジメントシステムを複雑に作り込みしているところもあります。
気づくと、組織の人も事務局に聞かないと仕組みが使いこなせなくなっているようなケースです。
そのような組織では、たいてい「うちのシステムは重たすぎる」とか「ISOで要求されてどんどん仕組みが複雑だ」と感じていたはずですが、そもそも「マネジメントシステムはその組織の状況を踏まえリスクと機会に応じて構築すればよい」ので「業務実態と乖離した仕組み」から脱却し、自らの業務プロセスを説明する能力を高めるいい機会であると捉えることが大事なのです。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ535号より)
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