組織の仕事の仕組み(マネジメントシステム)が国際規格に適合し、有効に機能しているかを第三者が審査し、世間に公表するISO認証制度がある。
このISOマネジメントシステム審査について、最近、個人的に気になっている点を備忘録代わりに、何回かに分けて少しまとめておきたい。
今回のテーマは、「適用可能性のチェリーピッキング」について。
「チェリーピッキング」とは、一般的には、
「数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみを並べ立てることで、命題を論証しようとする論理上の詭弁術」
と言われています。
たぶん、その名の由来は、
「たくさんあるサクランボの中から、おいしそうなサクランボばかりをつまみ食いすること」
になぞらえているのでしょう。
要は、「都合のよいことだけを取り上げること」を意味します。
組織が、国際規格である「ISOマネジメントシステム」にそったマネジメントシステムを構築する場合もこのチェリーピッキングがあります。
ISOマネジメントシステムにおけるチェリーピッキングは、大雑把に「2種類」あると思います。
2種類とは、1つが「適用範囲のチェリーピッキング」です。
わかりやすい事例は、環境マネジメントシステムの場合ですが、環境負荷の高い工場や業務を除外して、総務や経理業務、商品企画や商品提案、設計・開発行為がない営業業務など環境負荷が低い事務所や業務のみを対象にして、環境マネジメントシステムを構築し、第三者認証や自己宣言をして、あたかも「組織全体で環境活動を推進している」ような印象を外部に与えることです。
ISO14001(環境マネジメントシステム規格)の2015年版では、適用範囲を正当なロジックをもって定めることが要求されているので、一般的には適用範囲が「事務部門のみ」といった認証は認証機関が申請を受理しませんので、第三者認証の場合は、ほとんど見られなくなると思いますが、自己宣言している組織の中には「やりやすい範囲のみ適用」というチェリーピッキング事例がまだまだみられるかもしれません。
2つめのチェリーピッキングは「適用可能性のチェリーピッキング」です。
こちらは、どういうことかといえば、ISOマネジメントシステム規格は、共通の箇条立て(章構成)からできています。
具体的な箇条タイトルは、
「序文、1. 適用範囲、2. 引用規格、3. 用語及び定義、4. 組織の状況、5. リーダーシップ、6. 計画、7. 支援、8. 運用、9. パフォーマンスの評価、10. 改善」
です。
詳細は、省きますが、さらに各箇条が詳細な項番で構成されており、例えば、品質マネジメントシステム規格でいえば、箇条8の「運用」だと、
8.1 運用の計画及び管理
8.2 製品及びサービスに関する要求事項
8.3 製品及びサービスの設計・開発
8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理
8.5 製造及びサービス提供
8.6 製品及びサービスのリリース
8.7 不適合なアウトプットの管理
という要求事項があります。
(※実際は、さらに3桁項番(例:8.2.1顧客とのコミュニケーション)まであります)
さて、「適用可能性」についてですが、ISO9001の場合「4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定」では、
(中略)
「対象となる製品及びサービスの種類を明確に記載し,組織が自らの品質マネジメントシステムの適用範囲への適用が不可能であることを決定したこの規格の要求事項全てについて,その正当性を示さなければならない。」
(以下略)
という要求があります。
つまり、例えば、「製品及びサービスの設計・開発に関するプロセスは、顧客側にあり自社には業務プロセスはもちろん責任もない」というような組織の場合は、それを文書化し、正当性を示す必要があるわけです。
ただ、組織が適用する「製品及びサービス」の種類が複数になる場合は、この「適用可能性」が「隠蔽される可能性」が出てくるので注意が必要です。
例えば、ある組織が提供する製品及びサービスが、
1)金属部品の設計、製造
2)金属部品の仕入、販売
3)携帯電話の販売
だったとします。
当該組織の品質マニュアルには「適用範囲への適用が不可能が要求事項はない」と記述されていたとします。
品質マニュアルを一見すると、確かに、要求事項全般について記述されています。
しかし、よく詳細を調べると、上記製品群の1)については、全要求事項が適用されているが、2)、3)については、例えば、「8.3製品及びサービスの設計・開発」や「8.5.5 引渡し後の活動」や「8.6 製品及びサービスのリリース」などが規定されていない、というようなケースがあります。
このような場合は、2)や3)の製品について、『組織』は「8.3や8.5.5、8.6」が「適用可能だけれども記述が漏れている」のか「適用不可能」なのかについて文書化し説明する責任がありますし、『認証機関の審査員』は、「認証審査でしっかりと確認しなければなりません。
現実問題として、組織がマネジメントシステムを適用する製品及びサービスが複数ある場合は、認証機関の審査員は、各製品及びサービスの要求事項が「適用可能か不可能か」を確認しきれていないケースが多々あります。
また、組織も、コンサルタントの指導の下にマネジメントシステムを構築することが多く、こうした認識が希薄です。
組織はもちろん、認証機関の審査員やコンサルタントは、組織が適用するマネジメントシステムの対象製品及びサービスが何か、そして、それらは要求事項に対してすべて適用しているのか、否かをきちんと理解できる能力を持つことが組織の直接の顧客やエンドユーザーに対する認証制度の信頼感にもつながる重要なことだといえるでしょう。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ533号より)
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