経営管理やマネジメントについて学んだ人なら、『品質管理』という概念は「業種業態を問わずあらゆる組織で適用される」ことを知っていますが、世間一般では、いまだに「品質管理」という概念は「製造業のものでありサービス業には適用できない」と考える方が多い。


ある大手販売会社に訪問した際に、営業部門の役員と雑談する機会があった。

その時に、その役員は、会話の端々で、

◇サービス業は製造業のように業務をマニュアル化できない

◇人を相手に商売しているから、その人が求めるものを読む力は経験で鍛えられる

◇失敗も成功も自分自身で身に付けるしかない

・・・

といったいることを話題にしてきた。


その時の「雑談」は、表面的には極めて友好的であった。

しかし、おそらく、私の専門が「品質管理」や「業務改善」であることをその役員は知っていて、案に「製造業の手法はうちらのような販売会社では使えないんですよ」と「クギ」を刺されたのだろう。

確かに、雑談の中で役員が出した話題のキーワードは「業務の標準化」、「データの分析」、「情報の共有化と伝達」などであり、製造業ではお馴染みの概念である。

ただ、「製造業の管理=品質管理」と思い込んでいる人にとっては、「うちらのようなサービス業には関係ない」と考えるのも当然かもしれない。


決めつけはいけませんが、こういった方は、
1)外部の専門家から受けたアドバイスについて、その後、社内で議論し、当社に応用できる点があるのかを考えたことも議論したことも検討したこともない
2)外部の専門家には「自社のことはわからないはず」と決めつけ「学ぶ姿勢」がない
3)他業種の専門家の経験や事例は全く学ぶべきところがないと思い込んでいる
といった傾向があります。

私が思うに、つまり、こういった方は「自分たちは特殊である」「自分たちにすっぽりと当てはまらない話は参考にならない」と捉えている訳で、要は「ロジカルシンキング」でいうところの『置換力』が欠如しているのだ。
ちなみに「置換力」とは『成功事例や失敗事例から導き出された“法則”を自らの環境に置き換えて咀嚼し適用する力』を指す私の造語だ。
「自業種の常識は他業種では非常識(またはその逆)である可能性を知り、それを理解することで、気づきを得て新たな発想が創出される」ということを認識、理解して欲しいものである。


「置換力」といえば、数年前に大ベストセラーとなった「もしドラ」の愛称で有名な小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら」(岩崎夏海著ダイヤモンド社)でも同じようなエピソードがあった。

「もしドラ」をご存じない人向けに、簡単に説明すると、
◇高校野球部の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を間違って購入
◇「マネジメント」は高校野球のチーム作りに活かせると気づき、甲子園を目指す
◇作者の岩崎氏は東京芸術大学を卒業した元放送作家で、現在は芸能マネージャー
◇岩崎氏は、作詞家の秋元康氏に師事していた
◇小説のモチーフは、プロデュースで関わったAKB48の峯岸みなみさん
◇「もしドラ」は書籍だけでなく当時AKB48のトップスターだった前田敦子さんを主役にして映画化された
というものである。

話を戻すと、当時、「もしドラ」の世間の評判は、アマゾンの書評を分析すると概ね良かった。
「良い評判」の多くは、
◇『小説としては2流だし、ビジネス書としても稚拙であるが、非常に分かりやすい』
◇『一般には難解なドラッカーの経営論を分かりやすくする工夫がされている』
◇『分かりやすいのでマネジメントに対する興味が湧いた』
というようなもの。
要は「抜群の分かりやすさ」が大ヒットにつながった一要因である。

「悪い評判」を調べてみると、
◇文章が稚拙すぎて内容に入り込めない
◇ドラッカーを学びたいなら腰を据えて勉強するべき
◇実務では役に立たない
◇荒唐無稽で経営に役立てられない
◇この本の売り方があざとい
などだ。

これらの評判について、ポイントは「良い評判も、悪い評判も、それぞれ一理ある。しかし、作者の意図はちょっと違うよなぁ」というのが私の感想である。
作者の岩崎氏も、当時いろいろなメディアに語っていたが、「もしドラ」の狙いは「ドラッカー経営学全般の理解のための入門書」ではなく「ドラッカー理論の応用書」なのだ。
間違ってはいけないのは、ここでいう「応用書」とは、「岩崎氏なりにドラッカー理論を応用した活用事例の小説」と言うことである。

したがって、料理レシピのように「この小説で書かれたことをそのまんま活用して

も効果はない」のだ。
あくまでも「応用事例」であるので、自らの組織で使うためには「置換力」が必要になるのだ。
つまり、「もしドラを読んでも実務には役立たない」とか「荒唐無稽過ぎて経営には使えない」という書評は「その通りだけど、読みが浅いなぁ」と思う。


ドラッカーに限らず、「確立された理論」を実務に役立てるプロセスとは、
1)一般法則の本質を正しく理解する
2)一般法則を自分の状況に対する一般論に置き換える
3)自分に対する一般論を自分が役立てたい具体論に置き換える
というプロセスを経て、つまり「置換力」を発揮して、初めて「実務」として使えるのだ。

したがって、「もしドラ」は、ドラッカー理論の一部を岩崎氏流に具体論として置き換えた「一事例」に過ぎない。
意外と「一般的に頭がいい、頭の回転が速い、といわれる人」の中にも「一般法則を自分なりに咀嚼し、自らが直面する課題と取り巻く環境に応じて「自分なりの具体論」にアレンジして実務に役立てられない人(=置換力のない人)が多い。
「誰しもがそのまま使える一般法則などない」ということを認識・理解していないのだろう。

「ロジカル・シンキング」を学んだ人が「業務に役立っていない」「組織の中で使いきれていない」と感じ、日常業務に戻ると目の前の日々の仕事に忙殺され「ローカルシンキング」(行き当たりばったり、その場限り)に自然と戻ってしまい「挫折」してしまうのは、「置換力の欠如」が原因である。


「置換力」を鍛えるには、まずは、「論理的思考」(例:ミッシー、ロジックツリー、フレームワーク、ゼロベース思考、仮説思考など)を頭に浮かべつつ、日常の出来事について、絶えず、筋道を立ててものごとを考え、実践し、検証、改善を繰り返すしかない。

最後は少し「精神論」になりますが(笑)、「筋道を立てて物事を捉え、考え、問題解決できる人になるぞ!!」という強い想いを持って、日常のローカル思考をロジカル思考に、多くの人が変えて欲しいと思う。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ304号より)


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