ある地方都市に本社がある従業員が200人程度の製造業の会社に訪問した時のこと。
その会社は10数年ほど前にISOマネジメントシステム規格の品質マネジメントシステムを導入し、数年前に環境マネジメントシステムも導入している。
その会社の創業家の血筋を引く女性社長に対してトップインタビューをして、雑談をしていると、その社長さんから「うちの専務は、“うちの会社はISO規格に基づいた仕事をしているから社員はISO規格を特に勉強しなくても大丈夫です”というんですが、本当ですか?」と聞かれた。
ちなみに、その会社の「専務」とは、ISOを導入した当時の事務局であり、当時の管理責任者である。
わたしは、その会社に訪問したのは初めてだったが、なぜその社長さんがそんな質問をしてきたのかには、伏線がある。
現在のマネジメントシステム監査は、プロセスアプローチ、つまり、
a)プロセスは明確にされ、適切に定義されているか?
b)責任は割り当てられているか?
c)手順は実施され、維持されているか?
d)プロセスは要求された結果を達成するのに効果的か?
といったように業務プロセスをベースにしたインタビューを行ってマネジメントシステムを評価している。
つまり、一条一項の要求事項を逐条的にインタビューする審査はしていない。
したがって、インタビューを受ける側の多くの職員は楽だ。
15年ぐらい前の一般的な審査であれば、審査員から「ISO規格の何項ではこのような要求がありますが、あなたの会社ではどのようなルールを決めていますか?その手順と実施記録の事例を見せてください」という質問を受けただろう。
だから、一般的には、「まずは、ISO規格を覚え、それに適合した手順を作成し、その規格の要求事項に沿った記録を作って見せる」という会社が多かった。
しかし、そのような「逐条的な審査の弊害」により「会社業務をISO規格の要求に合わせる」会社が続出し、手順書や記録が業務実態とは合わない形骸化していった会社が増え、「ISO規格は会社業務をダメにする、使えない」とか「審査をパスするためのルール作り、記録づくりが増え本末転倒である」といった声がISO登録企業から聞こえるようになった。
その後、審査の主流が「プロセスアプローチ」となり、受審側は、「ISO規格の各要求事項」を知らなくても審査員のインタビューに回答できるようになった。
しかし・・・である。
ISO登録から10数年も経過した組織においては、ISO導入時の事務局メンバーは完全に代替わりしている。
したがって、「ISO事務局」のメンバーですら、「ISO規格の要求事項を知らない会社」がたくさんある。
つまり「ISO規格の勉強なんて一度もちゃんと受けたことがありません」という会社ばかりなのだ。
だから、冒頭の女性社長さんから質問を受けた「ISO規格を勉強しなくても本当にいいんでしょうか?」という疑問に繋がるのだ。
私の、その女性社長さんとの雑談の時の回答は、こうだ。
「社長さんが、ISO規格を活用して、対外的に、組織が一貫して製品やサービスを提供する能力を満たしていることを、自らきちんと説明できるよううにしたい、あるいは、ISO規格を活用して“仕事のヌケ・モレ”を管理し、仕事の基本姿勢を社員に身に付けさせたいと考えるのであれば、ISO規格を勉強させてください」
と話した。
そもそも、「ISOマネジメントシステム規格」の要求事項は、「顧客重視の方針で仕事をする真っ当な組織が実施すべき最小限の仕事のルールを体系化した組織モデル」である。
例えば、【お客さんの要求を確認する際の基本姿勢(要求事項)】であれば、
◆お客さんと約束をする前に、その約束の内容を確認して下さい
◆確認が必要なのは、例えば次の場合です。
・見積書、提案書、入札などを提出する際は、お客さんに渡す前にその内容をよく確認して下さい。
・契約をする前に、その内容をよく確認して下さい。
・製品またはサービスの注文を受けた場合は、その内容を確認してから承諾の返事をして下さい。
・契約や注文が変更された場合にも、同じように確認をして下さい。
◆お客さんとの約束(見積書、提案書、契約、受注など)を確認した記録を残して下さい
◆お客さんから口頭で注文を受けた場合も、その内容を確認して下さい
◆確認をした結果として、内容の変更を行った場合には、変更の記録も残して下さい
といったことが「組織が実施すべき最小限のこと」として規定されているのだ。
もちろん、真っ当な会社であれば、上記の事項を「無理に意識せずとも、無意識のうちに実施できている」であろう。
ただ、仕事をする上での「ヌケ・モレ防止」や「仕事の基本的思考と行動パターンを身に付ける」という意味においては、ISO規格で要求されている事項を「仕事をする上での拠り所(基本姿勢)」として、頭に叩き込んでおく必要がある。
つまり、「ISOマネジメントシステム要求事項」を「日常の仕事の中で活用する」のであるならば、「自社で決めたルールを覚える以前」に「ISO規格で規定されている要求事項の意図」を理解して「仕事をする上での基本事項」として無意識で行動できるレベルになるまで意識的に頭の中で反芻しておかなければ、決して真の意味では使えないものなのである。
繰り返すが、『「仕事の基本姿勢」を体系化したのがマネジメントシステム規格』である。
したがって、ISOマネジメントを活かすためには、ISO規格を頭に叩き込んで、自らの実業務に投影できなければ、本当の意味で絶対に使いこなせないものなのである。
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