研修会やコンサルティングさせていただいているある中小企業(製造業)にお伺いした時のこと。

その企業の実質的なナンバー2の立場の方に「最近、何か変わったことはありましたか?」と私が聞くと「面白い現象が起きたんですよ」という。

詳しく聞くと、現場の生産効率が上がったのだと言う。

「何が面白いのか」と、さらに、詳しくお聞きすると、「現場の作業者が減ったのに残業時間が減り、生産計画通りの工程管理ができるようになった」のだという。

具体的な内容は、差し障りがあるので、詳細は割愛させていただくが、ここ数カ月の人事的な変化としては、

◇設計・製作図作成担当のベテラン職員が突然退職した

◇現場の作業員(パートの女性が多い)が立て続けに3人退職した

という状況が発生した。

組織規模からして、本来であれば「補充要員」が必要な人員減なのだが、社長の「みんなで、数ヶ月総力戦で頑張ってみよう!」という意向より、人を補充せずに業務を継続することになったのだと言う。

すると、冒頭で述べたように結果として「生産効率が上がった」というのだ。

人員減後の状況と実際の生産計画と実績などを見せてもらった。

おそらく、退職者の発生により、

◇現場のコミュニケーションが良くなった

◇手直し・やり直し作業など伝達ミスによる「2度手間的仕事」が減った

という変化が社内に生じたのであろう。

この状況をお聞きして、ある「昔話」を思い出した。

それは、うろ覚えであるが、こんな内容だ。

(ここから、ある昔話)

ワインが名産である村がフランスにあった。

この村は貧しく、名産であるワインは、お金を得るために出荷され、村人たちは、名産であるワインを飲むこともままならなかった。

そんなこの村で、まもなく100歳になる長老のお爺さんがいた。

このお爺さんはワイン好きで、村人たちはお爺さんの100歳のお祝いに名産のワインを贈ることにしました。

しかし、どこの家も貧しく、ワインを贈る余裕などありません。

そこで、みんなで、少しずつワインを持ち寄って「ひと樽分のワイン」を集めてお爺さんに贈ることになりました。

そして、村の広場に空(から)の樽を置いて、各家庭が順番に樽にワインを入れていきました。

そしてワインを入れた樽が一杯になり、村長以下数名でお爺さんの家に持っていきました。

村人たちから贈られた、そのワインの樽を見ておじいさんは涙を流して喜びました。

しかし、お爺さんがその晩、樽を開けてワインを飲んでみると、なんと、ワインではなく水だったのです。

・・・・。

(うろ覚えの昔話、ここまで)

つまり、村人たちは、『自分ひとりぐらいなら大丈夫だろう』と、順番で樽にワインを入れていく時に、「水」を入れたのです。

確かに、「ひとりぐらいなら」ワインに水が混ぜられていることはわからなかったでしょう。

しかし、「じぶんひとりぐらいなら」と考える人が5人、10人、100人といたら、どうなるでしょう。

冒頭で話題にさせていただいた中小企業では、この「昔話」のような状況があったのかもしれません。

つまり、

◇自分ひとりが少しのんびり作業をしたって工程(納期)に影響はないだろう

◇自分ひとりが伝えなければならない社内情報を半日先延ばししたって影響はないだろう

という発想です。

「自分ひとりくらいなら」と言う発想が、実は「ものすごく不効率な現実」になっていることということをあらためて感じた次第です。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ281号より)