「無名で練習環境に恵まれていなかった公立高校のラグビー部を熱血指導で全国制覇を成し遂げるドラマ」といえば、1984年に放映されたTVドラマ『スクール☆ウォーズ 』である。

このドラマのモデルは1980年の全国大会(花園)で初優勝した京都市立伏見工業高校と当時監督だった「泣き虫先生」こと山口良治氏である。

山口良治氏の座右の銘は「信は力なり」である。

(※山口氏は、1998年に『信は力なり ―可能性の限界に挑む―』旬報社を上梓している)

「信は力なり」とは、『信じれば何事も実現できる』と言う意味である。

山口氏は「生徒たちに、どんなに裏切られても、信じること、好きになること」を貫いた。

そして、その結果、その想いが生徒たちに伝わり、「ワンフォアオール、オールフォアワン」(ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために)の精神が身に付き、力を向上させていったのだ。

この山口氏の「信は力なり」の精神と指導法を最も参考にして成功したひとりとして知られるのが、長崎県立清峰高校の野球部監督の吉田洸二氏である。

清峰高校野球部と言えば、吉田監督が赴任する2001年以前は「初戦敗退の常連校」であった。

しかし、8年後の2009年春のセンバツで今村猛投手(現広島)を擁して初の全国制覇を成し遂げた。

吉田監督の指導の基本精神は『やらされるのではなくやる気にさせる』である。

話は少し逸れるが、私は高校野球ファンなので「吉田監督」については存じ上げていたが、吉田監督についての存在を教えてくれたのは、中小企業を中心に環境経営の指導をされている田坂東氏である。

http://www.tasaka-environmental-management.com/

田坂氏からのアドバイスと情報を基に吉田監督について調べてみた。

すると、吉田監督は、

◇目に留った優秀な中学生をスカウトする際に笑顔だけ見せて言葉を掛けない

◇甲子園常連校の練習に参加し生徒に意識の高さや練習方法を学ばせた

◇生徒をやる気にさせるために、全員に「居場所」を与えた

◇わざと突き放して、不安にさせて、しばらくして声を掛けた

(農家の人に聞いた稲の栽培法を参考)

◇生徒をバカ呼ばわりせず、常に諭していた

◇「生徒にやる気がないのは自分の言動に問題があったから」と考えた

(「鏡の法則」を参考)

◇伝えたいことは、大声を出さずに囁きかけた

◇「並」の自分は、「何事もひとりで解決しようとせずに人の力を借りる」と考えた

(何事にも謙虚な姿勢と地元に人を大切にする姿勢)

といった考え方とエピソードを持った方であった。

上記のひとつひとつは「組織マネジメント」にももちろん応用できる。

例えば、「生徒全員に居場所を与える」という考え方は、重要だ。

誰しも「野球」をやろうとするならば「レギュラー」になりたい。

しかし、組織と言うものは、レギュラーがいれば補欠もいるし、マネージャーも必要だ。

「使えない」からと言って「干してしまう」ことをすれば、組織全体の活力は低下する。

そこで「スコアラーとして対戦相手の分析役」や「チームのまとめ役」などの役割とその重要性を伝え「お前しかできない」とささやき、やる気にさせるのだ。

また、「何事もひとりで解決しようとせずに人の力を借りる」と言う考え方も「組織マネジメント」として大事な考え方である。

「指導者は部下を指導する上でなんでもできなければならない」と考えがちだが、中途半端になんでもできると、結果的には「指導やサポートも中途半端」になる。

しかし、優秀な管理者は「得意な人に相談してその人にお願いすればいい」と考える。

要は「できない事は、どのようにやっているのか把握して、任せればいい」と考えるのだ。

吉田監督もまさにそうで、生徒のスカウト、生活サポート、練習環境整備、野球の技術指導(投手、打撃、守備、機動力、戦略、練習方法など)などの各分野について、吉田監督の持つ「謙虚な姿勢と人懐っこさ」で得意とする人に協力要請をしていったのだ。

吉田監督は、同じく長崎の県立高校で、サッカーで全国優勝6回の国見高校の元監督の小嶺忠敏氏(現長崎総合科学大学教授)にも教えを乞いに行ったという。

その時に、小嶺氏は、吉田監督に、

「出る杭は打たれる。しかし、出すぎた杭は打たれない。打たれないくらい、思い切り出なさい」

とアドバイスしたという。

これは、全国制覇して、地元はもちろん、マスメディアによって全国的に注目され「光と影」も報道され、指導法など賛否の意見が数多く挙がり、いい意味でも悪い意味でも「精神的に苦痛を味わった」ものだけがその言葉の意味を実感し、乗り越えなければいけない壁なのでしょう。

それにしても、吉田監督の軌跡をたどっていくと『なんでも応用できそうなものは吸収して試してみよう』の精神の持ち主だ。

よく「他業界や他社事例」を取り上げると「それはうちでは使えない」と話し半分でそっぽを向く人が意外と多い。

しかし、「自分達の環境下において共通することは何か?」「考え方のエッセンスを知り、アレンジして応用できることはないだろうか?」と考えられる人が、管理職としても専門の技術職としても成功を勝ち得ることができる人なのだろう。

(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ279号より)