私の場合、【組織の仕事の質を継続的に向上させて顧客満足度を高める】といったことを主題とした講演や講習依頼が多い。
おそらく、バブル以降の経済低迷で、各企業が取り入れてきた成果主義の反動から、このようなニーズが生まれてきたのだと思う。
個人的には「成果主義自体は決して悪いものではない」が、実際に「多くの企業で導入した成果主義は失敗」というケースが多かったのだと思う。
つまり「成果主義が悪いわけでなく、その成果主義に基づく制度設計」に問題があったのだと思う。
その結果、多くの企業では、「結果だけを重視する風潮」がビジネスマンの中にまん延し、
◆目先の売上や利益に直結する仕事に高い優先順位をつける
◆「部下の育成」、「組織の仕事の仕組みの改善」など長期的な仕事に手をつけない
◆「自分だけが知っていてできればいい」という個人プレーが横行する
◆チームワークをおろそかになる
◆「仕事のプロセス」など結果がみえにくい定性的な部分が評価されないからやらない
というような考え方で仕事をする人が増えたのだ。
このような状況になると、仕事の本質的な部分が属人化する傾向になる。
「業務が属人化」すると、
◆自分の能力を鼓舞し、自らの価値を維持するためにノウハウを他人に見せない
◆自分だけの「管理ルール」をつくり、他人にはその仕事ができないようにする
◆「その人しか知らない仕事」は業務停滞、不祥事発生など組織のリスクが高くなる
◆組織に仕事を通じて得られた知見が蓄積されない
など、長期的に組織運営を捉えるとまるでメリットがない。
こうした反省から、冒頭で述べた趣旨の講演・講習依頼が増えているのだろうう。
ただ、講演・講習会主催者がこうした依頼をする一方、受講する企業では、まだまだ「目の前の業務をこなすことで精いっぱいで業務改善は2の次」という現状の多いようだ。
「業務改善は2の次」と受講者が考えているかどうかは、講師側には、意外とよく伝わってくる。
以前、中小零細企業向けに講演をした際には、主催者事務局は興味深そうに、受講者は、関心が低そうに話を聞いていたのが演壇側から見ているとよくわかった。
ただ、その時に、ドイツの軍人であったハンス・フォン・ゼークト(1866年4月22日~1936年12月27日)の話をしたら、少しだけ興味を持ってきたのが印象的だった。
個人的には「ゼークトの組織論」は、半ば都市伝説化していて、本当にゼークト自身が述べたのか微妙であるが、それはそれとして、私が話した内容は、以下のような感じだ。
(講演の内容、ここから)
ゼークトによれば、軍人は4つに分類される。
◆有能な怠け者
これは総指揮官に向いている。
この理由は主に二通りあり、一つは怠け者であるために部下の力を遺憾なく発揮させるため。そして、どうすれば自分が、さらには部隊が楽に勝利できるかを考えるためである。
◆有能な働き者
これは参謀に向いている。
理由は、勤勉であるために自ら考え、また実行しようとするので、部下を率いるよりは参謀として司令官を補佐する方がよいからである。また、あらゆる下準備をするからである。
◆無能な怠け者
これは連絡将校もしくは下級兵士に向いている。
理由は自ら考え動こうとしないので参謀や上官の指示どおりに動くためである。
◆無能な働き者
これは処刑するしかない。
理由は働き者ではあるが、無能であるために間違いに気づかず進んで実行していこうとし、さらなる間違いを引き起こすからである。
つまり、今日、お集まりの皆さんは中小零細企業の経営層の方が多いですが、現状は、みなさんが「有能な働き者」になっているのではないでしょうか。
経営層が「有能な働き者」では組織は成長しません。
これからは「“有能な働き者”から部下を育て能力を最大限引き出す“有能な怠け者”」をみなさんは目指さなければ、組織は継続的に成長しません。
(ここまで)
それにしても、世の中「無能な働き者」は、意外と多い。
先日もある打ち合わせで、
【自分は一生懸命やっている】
と主張する人がいた。
しかし、この人は、
◇自分が無能だと思っていない
◇人の意見を聞かない、あるいは誤解して理解する
◇折衝すべき内容について自らはリスクテイクしない
◇関係者が「これはだけはやってもらいたい」ということを明確に約束しない
◇自分勝手な判断で行動する
◇どうでもいいことにこだわりトラブルを作る
といった人だ。
ゼークト的には、この人は「無能な働き者」に属すると思うが、こういう人と仕事をすると、余計な神経を使ってストレスがたまり、仕事がはかどらない。
したがって、経営層は「組織人を4分割」して、自分自身は「有能な働き者から有能な怠け者への脱却」を図り、「有能な働き者」「無能な怠け者」にしか成りえない人は、その役割をきちんと伝えて職務をまっとうしていただき、「無能な働き者」は、教育やチャンスを与えて「“有能な働き者”にならないのなら“無能な怠け者”としての役割に徹してもらう」ことを的確に社員に伝え、理解して職務に励んでもらう必要がある。
こういうタイプの人を野放しにして「無能な働き者」状態にしておくと、組織業務にロスが生じ、うまく機能しないといえるのだろう。
(【復刻版シリーズ】自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ202号より)
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ280号より)