イッセー尾形さん（改題版）

一人芝居の大家とも言うべき俳優のイッセー尾形さんは数百人ものキャラクターを演じると言う。

キャラクターを演じる際に、演出家はいるが、基本的には「自分の経験の中での記憶と、後は想像で、例えば、なんとなく漠然と知っている職業の人がいて自分の記憶を元に再構成してキャラクターを創る」と言う。
本人は「人間観察はしない」と言っているが、それは「忠実に経験の記憶を再現しない」と言うだけで、「常に色々なものに興味・関心をもって接している」のであろう。要は、「経験から想像して演じていることを何らかの形で検証して創造している」から見ているものに感動を与えているのだと思う。経験からの再構成による想像力だけでは、お芝居とはいえ、「あり得ない事」ばかりの現実と極端な乖離が生じれば、受け手側に受け入れられないはずである。

人は何かを伝える時、自らの実体験のみで伝えてはいない。
何かを感じる時は、自分の経験があれば比較して想像し感じることができるが、仮に経験が無いとしたら全く感じることは出来ない。けれども、すべての事象を「自らが経験している」から想像し、感じているわけではない。自らが経験していないことを理解する際には、「今までに経験した類似体験または、人との会話や書物、ニュースなどから得た疑似体験に当てはめて想像」している。

例えば、「オリンピックで優勝した人の感激」を私達は、「運動会の徒競走で1番になった時の心境」や「県大会で優勝した身近な友人の感激している様子」から想像して感じている。

一般的に社会人になった時に、「色々なことを若いうちに経験した方が良い」と言われるが、限られた業務、偏ったモノの見方を日々重ねるだけでは想像の元になる「経験値」と言う栄養が不十分で、自分の狭い価値観の中で判断せざるを得ない状況になるからである。怖いもので「理解できない理屈・価値観」は判断する以前に想像することすらできない。

また、「経験値」と言う栄養を若いうちから積み重ねていないと、いわゆる「やわらか頭」が出来上がっていないので、いくら努力して理解しようとしても今まで創り上げてきた価値観が大きすぎて、理解できないから、「受け入れない」、「わからない」ものとして拒絶してしまう。
結構、テレビの討論番組を見ていても、お互いが同じ土俵の上に立った上で議論が出来ていないと感じることがあると思う。

コンサルタントや審査員と言う仕事をやっていると、月並みな言い方かもしれないが、つくづく、「多様な業界・業務（業種・業態）をコンサルティングや審査の中で擬似経験して、価値観を理解できる土壌を創っておく」ことが、お客様を効果的に、客観的に見ることが出来るを条件だな、と感じる。
もちろん、自らの実体験の経験に基づいて客観的にものが見られる事がベストではあるが、たいていは、主観的な見方になる。
以前、コンサルタント仲間と話していて、「専門外の仕事の方がシステムで業務を捉えようとするので、客観的に判断できるよね」と話したことがあったが、まさにそうである。
ただ、類似経験や疑似経験がなく、多様な価値観を理解しにくい方であれば、「単なる無知」なので客観的な判断以前となってしまう。

相手の状況を「的確」に理解して評価し、「気づき」を与えるのが、第3者（マネジメントコンサルタントや審査員）の役割と考えれば、多様な価値観を理解できる「想像して創造出来る」状況を計画的に作っていく必要がある。

人間、限られた業務経験のみでは、異業種のみならず、下手をすると自らが直接経験した業種・業態をも客観的な評価が出来なくなってしまうのである。

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