もう数年前になるが、他の認証機関から移転してきた企業の審査のリーダーを担当することになった。
認証機関より送られてきた資料を確認していくと「業種特性を考慮して、売上規模の割に対象人員が少ない」ということに気が付いた。

実際、審査で企業を訪問してみるとすぐに、
・事務所の机の数が申請された人数より多い
・タイムカードの名札が申請された人数より多い
・社員の通用口にある下駄箱に入っている靴の数が多い
・社員用の駐車場のスペースがやけに広い
ことに気が付いた。

「対象人員を過少に申請して少しでも審査費用を減らしているのかな」と勘ぐってしまう。
ただ、ISOの審査は「真っ当な企業を評価するため」かつ「前向きに仕事の仕組みを改善したい企業のため」に存在する。
つまりISO審査員には強制捜査権が与えられているわけではないので「鼻から不正をしようとしている企業に対しては無力」である。
もちろん、「あの~、机が(対象人員より)たくさんありますけど、使用されているんですか?」などの「突っ込み」を入れることは可能である。
しかし、「確信犯」の企業の場合は「臨時のバイトが来る事がありその時に使わせています」とか「構内外注扱い(対象外人員)の作業員が使っています。作業着は当社従業員と同じものを着せていますが・・・」など、どうせ、言い訳するに決まっている。

しかも、この企業は審査していてもっと「ひどい」ことに気が付いた。
審査員のインタビューに回答しているのが「コンサルタントサイドが用意したダミー社員」なのだ。
審査員が質問すると、部長や課長を差し置いてこの平社員役の「ダミー社員」が横からバンバン回答してくる。
「ダミー社員」ではないか、と気が付いたのは、昼食時に食堂を覗くと、他の社員が「工場向けの仕出弁当」を食べているのに、このダミー社員は我々審査員と同じ「ちょっと高めの仕出し弁当」を食べていたからだ。

ISO黎明期の以前の審査では「実質的にISO構築や審査のために雇われた専属の顧問(対象人員扱い)」と呼ばれるような人が審査に行くと結構いた。
そういった方は審査員に「まだ、この会社はISOに関してよちよち歩きなんで、私が顧問という立場で、メインで審査員の質問に回答しますが、ご了解下さい。すんません・・・」といういう姿勢で「仁義」を事前にきってきた。
こういわれると審査員としても「システム導入初期の段階はしょうがない。徐々に企業自ら回答できるようになってくれればいいよな」という気持ちで審査ができる。

極めつけは、この審査では「是正処置が必要な指摘を2件」検出したのであるが、受審企業の社長さんや専務さんと審査終了後に帰りの電車の時刻まで応接室で20分ほど雑談していたら「是正処置回答はこんな感じでよろしいでしょうか」と審査のときはまるで回答していなかった部長が是正処置回答書を持ってきた。
是正処置回答書の内容はすばらしいもので、申し訳ないが、審査時のこの部長の様子からはとても20数分で書き上げられるものではない。
この企業は、他の認証機関でまる3年認証を維持してきた企業だ。
「ずっとこんなことを続けて認証を継続していくのかな」と思うと、なんだかなぁ、と思う。

このような企業がある一方、審査の後に以下のようなメールを受審企業からいただくこともある。

(引用ここから)
いつも、審査員に質問や指摘を受けると、とても良い勉強になります。
「不適合はないんですか?」と聞かれたときも、審査員のような聞き方をされると、当社にはたくさんの「不適合」が山ほど有る事に気づきました!!
日本語は難しいですね!(これはISO規格の勉強不足を棚に上げたただの言い訳でしょうか?)
たとえば、仕事を改善すべき点・お客様からの要望等も「不適合になる可能性」として考えると沢山の「不適合」がでてきます。
今年度は、原価や価格体制の見直しや、法規制の変更など規制緩和もあり社内は色々な問題が発生してくると思いますので・・・ (中略)
また、色々とご指導願います。
(引用ここまで)

審査なので「色々とご指導」する訳にはいかないが(笑)、受審企業が自ら「気づき改善する」ところがあれば「貴社は適合しています」というお墨付きを与える以外の、審査の価値を審査員も実感できる。
ISO審査とは受審企業にとっても、審査員にとってもこういう関係でありたいものである。

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