新聞社であたためられているストックされている記事は突然記事になるようである。
1月11日の日経新聞に掲載された記事について前夜に知り合いの記者さんより「突然ですが記事が掲載されることになりました。取材させていただいたのに(名前入りの)コメントが掲載できませんでした」旨のメールが来た。

記事は「ISO認証 審査厳格に」「顧客満足など実効性を重視」「企業の偽装相次ぎ形骸化批判」「国際機関改革案」といった見出しとともに経済(5面)の広告を除いた紙面の1/4ほどのスペースを割いて掲載されていた。
内容的には、
1)IAF(審査登録機関を認定する機関の国際機関:国際認定機関フォーラム)が審査方法を見直す
2)現在の認証制度では産業界から「優良企業の目安にならない」という批判が高まっている
3)現在の審査は組織の体制や業務の仕組みがあるかどうかの確認が主体である
4)3)のような現状より取引先や消費者の満足度向上に効果を発揮しているかどうかまで確認する審査方法の導入を検討する
5)審査を受けた企業からどの項目の審査が経営改善に役立ったかといった意見を収集し、審査手法を改善する制度の導入も検討する
6)国内でも経済産業省がIAFに先んじて国際的なISO認証制度の枠組みから逸脱しない範囲で認証制度の改革案を検討している
といったことが記事となっていた。

ISO関連の記事がある程度まとまったボリュームで日経新聞の紙面を飾ることは少ないので、記事として取り上げられることは業界関係者として嬉しい。
記事が掲載されていた日に訪問した「ISOマネジメントシステム導入から数ヶ月の企業」でも「今朝の日経にISO認証の話題が出ていましたよね」と日常会話になるぐらいだから新聞での記事掲載効果は大きい。
メディアに取り上げられる頻度が高まれば、必然的にそのことに関する日常の中での意識や認識は高まり、理解は向上する。

ただ、記事の内容に関しては以下のような点が気になった。
(1)記事で使用されている用語に整合が取れていない部分がある
(2)「付加価値審査」の考え方が間違っている

(1)に関しては、
例えば「経営の質」、「経営品質」、「品質管理」というように「本文」、「解説記事」、「図表」で同じ事を指す部分で違った表現が使われていた。
想像の域ではあるが、全国紙の紙面を飾る記事は、その記事を執筆するにあたって複数の記者がいるのだと思う。

(2)に関しては、
「付加価値審査」(Value added audit)を記事では、
・組織の仕組みや制度が実際に効果を発揮しているか
・取引先の企業や消費者の満足度は高まっているか
について審査すること、と位置づけている。
しかし、これは「有効性の審査」であって「付加価値審査」ではない。
もちろん、記事にあるように「2007年10月のIAFの会議で審査方法の見直しに関する常設委員会を設置する事が決まった」のは事実であるが、記者がIAFの会議でIAF関係者(幹部)への取材した時に恐らく話題として出た「付加価値審査」は違う意味である。
「付加価値審査の意味」については知り合いの記者から「どういった審査を付加価値審査というのですか?」と聞かれて回答していただけに残念でならない。

それでは俗に言う「付加価値審査」とは何かである。
「付加価値審査」について整理すると、
a)審査員は審査において独立性・公平性を担保するためにコンサルタント業務は禁じられている
b)日本の認定機関(経産省の外郭団体であるJAB)は認定基準の指針において「問題解決方法を示唆すればコンサルタント業務になり、審査でできる限界は、問題点(改善の余地)を指摘するところまで」と規定している
c)したがって「審査を通じて明らかになった改善の余地を、それに関する具体的な解決方法を勧告することなしに明確にすること」(=審査における付加価値)はコンサルタント業務ではない
d)問題解決方法を示唆せずに「いかにして審査で企業経営に役立つ付加価値をつけるか」審査登録機関の課題であり、認証サービスの差別化につながる
といったことになります。

つまり、「付加価値審査」とは、「審査を通じて客観的事実から改善の余地がある領域を特定する」⇒「問題解決方法を具体的に示さずに審査を受けた企業に問題解決の糸口をつかんでもらう」⇒「審査登録機関は企業に“気づかせる”ことに力を入れることになる」というプロセスで成り立っているものなのです。
記事で「付加価値審査」として紹介されていた部分は「マネジメントシステムの有効性に関する審査」というもので、「組織にISO規格にそった手順が確立しており、実施されていることの確認だけでなく、その手順が仕事の目的に対して有効に機能しているかの観点で実施する審査」を指している。
ちなみに、そういった観点では現在のISO認証制度の枠組みでも、十分か否かは別にして、ISO審査において実施することになっており、記事で書かれていたように「新たな審査方法や制度」ではない。

また、機会を作って日経新聞は「ISO特集記事」を組んで欲しいと思う。
日経新聞以外の新聞社の方で「ISO認証制度」に対する興味があり、将来的に記事にしたいと思われている記者さんがいたら、喜んで取材を受けたいものだなぁ(笑)と思うのである。

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