文章に合ったイラストを描いてもらう必要があって、芸術系大学を卒業してサラリーマンになった知人にイラストをお願いした。
当初は、出版社や雑誌社の人にお任せして本文のイメージに合う適当な用意された絵でうまくまとめてもらうつもりでいた。

しかし、イラストを担当するデザイナーさんと文章を書いた本人は面識も無く、また直接イラストの打合わせをするわけではないから、機械的とはいわないが仕事として無難に当たり障りのないものにまとめられてしまうのも、ちょっとさびしいなぁ、と思った。

そこで、私の性格を知り、普段からどんなことをいいたい人なのかわかってくれる人にイラストをお願いしたい、と考えた。
イラストが素晴らしくても、文章の内容や主張とイラストがマッチしなければ、文章もイラストも死んでしまう。

友人、知人の中から画家、イラストレーター、芸術家になっている人を頭に浮かべてみる。
大手電機メーカーで広告のイラストを担当している友人やポストカードやアクセサリーを作っている芸術家の友人が浮かんだ。
しかし、前者の友人は今では管理職をしていて仕事が忙しいく頼みにくい。
後者の友人は自分の主義主張で作品を創作する人なので、こちらの要求に合わせて作ることはおそらく慣れていないだろう、と思った。

「文章を活かしマッチしたイラスト」となると、絵がうまいだけではダメで、文章に対する理解力やそこからイメージを膨らます想像力が必要だと思うのだ。
そんなことを考えていたら、私の文章を読んだことがある読者の中でピッタリの人がいることに気がついた。
その人が今までに描いたイラストを拝見すると絵もほのぼの感があって個人的に好きな作品である。

恐る恐るイラストの相談すると「私でよければ、ぜひ描かせてください!」とふたつ返事が返って来た。
こちらがイメージするイラスト内容を伝え、文章を数編見てもらい、ラフ画を数点作ってもらうことにした。
すると、少しして文章のイメージに合った作品案が数点が仕上がってきた。
イラストの担当を引き受けてくれたのもありがたかった、なによりも文章の主張を理解してもらっているようでそれが本当に嬉しい。
編集の人にそのイラストを見せると「作品のイメージにとても合っているし、器用なアーティストさんですよね。いい人にお願いできましたよね」との感想をいわれた。

以前、通訳をしている友人が「英会話が得意な人はたくさんいるけど、専門的または芸術的な話題になればなるほど単なる英会話能力ではダメで、その話題に対する正確な専門知識や背景、理解力が必要になる」といっていたのを思い出した。
ビジネス通訳の場合は、相手と専門知識が同じレベルの所にあるから「直訳しろ、変に相手の意図を理解して訳すな」という要求を通訳にするケースが多い。
しかし、講演会などで同時通訳をする場合は直訳のままだと文化や習慣の違う目の前にいる多くの聴衆に意図が伝わらない場合がある。
話はちょっとずれるが、オーケストラを題材にしたベストセラー漫画のドラマ化が決まったときに、ドラマの制作側がそのドラマの主題歌をJ-POPにしようとして、原作者と対立して企画が没になったという話を聞いたことがある。
つまり、わかりやすく多くの人に伝えるためにはその分野の専門性はもちろん、話し手や作者の性格や主張に対する理解が必要なのだ。

画家とイラストレーターの違いは、画家は創作意欲に基づいて独自のタッチや色使いで絵を描き、イラストレーターはある程度指定された事物の絵を描き始める点であるそうだ。
そう考えると、いいイラストを絵描いてもらうためにはイラストレーターにはイラストとセットになる作品への理解力と専門知識が必要になる。
今回はいい人にイラストをお願いできた、としみじみ思った。