ここのところ、国や自治体が実施している業務について信頼感を揺るがすニュースが多い。例えば、政府税制調査会の本間正明委員長は官舎に不適切に入居しているとして、また石原慎太郎東京都知事は、ダボスの国際会議で必要になった芸術作品を子息に発注したことが発端となり出張旅費の無駄遣い疑惑など、激しくメディアから糾弾されている。
本間委員長の話題で考えると、「税金をどういただくか」を議論する会の委員長のふるまいだけに、本人の要望なのか、入居を承認した役所側の問題なのかは別にして、報道されること自体が国が実施する仕事に対する国民の信頼感を著しく損なってしまっていると思う。
「サービスを供給される顧客の信頼感、安心感を担保する制度」としてISO9001認証制度がある。これは簡単に言えば、継続して要求事項を満足した製品やサービスを顧客に提供する仕組みがあることを保証するお墨付きである。もちろん、国の仕事(サービス)における顧客は「国民」である。
仮に、国がISO9001を取得していたら、認証機関はこのような報道があった場合、臨時監査を実施するかもしれない。(注:国が認証されるための仕組みを構築するとなると、「サービスの範囲や組織要員の定義」など難しい問題があるので、そこは無視して単純化して考えることにする)臨時監査を実施する理由は、認証中の組織のマネジメントシステムの信頼性が危ぶまれるからだ。
つまり、このような報道があったにもかかわらず何もせずに放置しておくと、「認証」は認証機関の顧客の顧客、つまりこの場合の顧客の顧客である「国民」(注:認証機関の顧客⇒国、顧客の顧客⇒国民)に対して、認証というお墨付きの信頼感が低下してしまう。 認証機関が臨時監査を実施した場合、官舎への入居基準がない、または入居基準通りの適用がされていなかったことが判明すれば、認証機関は不適合として「是正処置」を国(被監査組織)に要求することが出来る。
是正処置とは、不適合の処置と不適合原因の究明と再発防止の適切な実施をいう。この場合でいえば、不適合原因は、例えば「なぜ入居基準に適していない人を入居させたのか」や「入居基準に適していない人が数年に亘って入居できたのか」の理由になる。
この理由が発生しないように仕組みレベルで再発防止を適切に実施しなければ、認証の継続はできない。
是正処置が完了しなければ、ケースによっては、認証機関は顧客の顧客(今回は国民)に対して信頼感・安心感を保証できないから認証取消しとなる。
ただ、認証機関は、臨時監査の結果、国が定めた基準どおりに入居手続き等がなされていた場合は、「臨時監査結果は適合」となり「認証継続」を決定する。国が定めた基準が適切か否か、つまりこの場合は現在の国民感覚・感情に対して適切な入居基準なのかどうかは認証機関が判断する範疇ではない。国や自治体が定めた基準が現状に即しているのか、そうでないのかは、ISOの世界では「内部監査でチェック」ことになっている。 しかし、自分達で決めたルールを自分達で「適切ではない」というのは、実際は難しいだろう。
メディアを通じて「現在の基準は適切ではない」と世論が高まっても、身分保障されている役人が「基準は妥当で適切に運用している」となれば、認証機関は「ルールを決めたのは組織自身だし、その手続きは間違っておらず、その手続きどおりの運用がされている」としか評価できないから、何も手を出せない。そうなると、この部分にメスが入れられるのは認証機関は無理で、国民が裁判に訴えるか、選挙があり国民の声を無視できない内閣総理大臣しかいない。
もちろん、内部監査をする内部監査員が「現在の運用基準は国民感覚からすると問題があるかもしれません」と内部監査報告書を経営トップ(内閣総理大臣)に挙げて、内閣総理大臣が予防処置的に運用基準の見直し指示を活発にかけていれば、メディアが騒ぎ立てるような問題は起きない。
これが真っ当な内部統制である。 以上のことを整理してみると、国民の信頼感や安心感を保証し継続するためには、内容によって以下のような範疇になる・基準どおりの実施の適切性⇒認証制度で是正処置要求できる・基準が適切か否かの監視システムの改善⇒に認証制度で改善提案はできる・基準が適切か否かの評価・判断⇒組織自身が自助改善するしかない(例:内部監査員、職員、管理職、経営トップ)・組織自身の評価・判断が適切か否か⇒国民が監視・評価するしかない(例:選挙や裁判) 国の業務に対する国民の信頼感・安心感は組織自身と国民がちゃんと評価できれば、揺らぐことはない。ただ、そのための情報として、また日常の仕組みが機能しているかどうかのチェック機能としては認証制度はそれなりの意味があると思う。
しかし、現在の認証制度では「組織が決めたことをルール通り運用していれば認証機関は適合」と判断せざるを得ないから、「認証は認証機関の顧客の顧客への信頼感・安心感を保証するもの」というのであれば、認証機関の監査報告書は顧客の顧客つまり国民に開示されるべきものであろう。そんな風に思った。