消費者金融のコマーシャルで「マネーにはマナーを」シリーズの社会人の常識をテーマにしたものがある。タクシーの座る位置やエレベーターに乗るときの立ち位置、人を紹介する順番などがある。その殆どのマナーについて社会人として自然に目上の人からそう教わってきたので、なるほどなるほど、という感じで見ている。個人的には、ちょっと「ん?」と思ってみているのが、初対面の人と名刺交換をしたあとの名刺の扱い方である。


CMでは、複数の人と名刺交換をした後に、相手が座った位置に合わせて名刺をテーブルに並べて、名刺で名前(または肩書き)を確認しながら相手に話しかける作法を説明している。しかし、「これでいいなら、助かるけど、どうなんだろう?」と思っている。相手とそこそこに打合わせの時の距離があるテーブル(例:小会議室の机)ならいいが、名刺交換したそばから、例えば応接テーブルのような相手との距離が近い机で名刺を並べて、名前を確認して話を進めるのはどうかと思う。 もちろん名刺交換後に、記憶違いで違う名前や肩書きで呼びかけることや、名刺入れにしまった名刺を再度取り出して確認するのは失礼なので、「相手を間違えてしまうぐらいなら名刺を机に並べて確認する」ことはマナーとして許されるというのは、ありがたいく、よく理解できる。


しかし、名刺交換する相手の人数が3人以下の場合は、名刺交換したその場でちゃんと苗字と肩書きを頭に即行で叩き込んで席に着くのが常識じゃないのか、と思ったりもしている。 話は変わるが、以前の私は、初対面の人を紹介される人数が一度に10人ぐらいまでならその場で問題なく覚えられた。名刺交換して、話し合いが始まるとすぐに肩書きまたは苗字で名刺を再確認することも無く相手に話しかけることが出来たので、早く好印象や親近感を持ってもらうことが出来た。この「技」は学生時代に鍛えられた。部活や学生会の活動で多くの先輩や他大学、社会人の関係者を紹介されることがあるが、相手の名前をまたたく間に頭に入れて話しかけることは、その後の人間関係がうまくいく、というのが経験則でわかっていた。


したがって極論を言えば、初対面の相手を紹介される瞬間が一番頭をフル回転させて集中していた時もあった。学生だから、組織(部活や学生会)の幹部は名刺を持っているが、全員が持っているわけじゃないから、名刺を確認することはもちろんできない。それでも当時は、若さもあったのでなぜか出来た。その結果、結構相手に「この人もう全員の名前を覚えたの?」と驚かれるケースが多かった。


その他に当時驚かれたのが、「相手に対するデータ」をよく知っている点だ。周りからすれば、相手の住んでいる地名、生年月、身長・体重、趣味、出身地、兄弟の有無、親の仕事などなどの情報がポンポン出てくるので、驚かれ、喜ばれることもあったが、場合によっては気味悪がられたりもした。つまり「事前のチェック魔」ではないかと。しかし、種明かしをすれば、実は会話の中でかなり引き出してしまっているケースが多い。干支を間接的に聞き出せば学年はわかるし、「小さい頃、夏休みと誕生日が重なっていたので学校の友達を招待して誕生会をしたことが無かった」というエピソードを聞けば8月生まれかな、と想像がつく。


つまり、話の流れで情報が得られるように話を進めて、その会話を覚えておくだけのことなのだ。よって、殆どの情報をその場で把握し記憶しておくだけだ。だから、「よく相手のそんなことを知っているよね」と友人や知人から後で言われると、「そんなことないよ、会話の中で相手が自分から言っていたじゃん。意識して聴いていないから記憶していないだけで受けた情報量はみんなと同じだよ」と返す。


しかし、最近は悲しいことに、その自慢のハードディスクもかなり落ちぶれてしまった。 5人ぐらい一度に紹介されたら確実にアウトだから、机の上に名刺を「マネーにはマナーを」方式で並べてしまう。この社会人としてのマナーはありがたいな、と感じるのである。