履物製造業における環境パフォーマンスとは、原材料の仕入れから製造、加工、出荷に至るまでの各段階で生じる環境影響を把握・管理し、設定した環境方針・目標に対して、どの程度成果を上げているかを示すものです。
環境パフォーマンスの測定・改善は、ISO14001において中核的な要求事項であり、企業は環境側面の特定、KPIの設定、定期的モニタリングとレビュー、継続的改善を通じてこれを実現する必要があります。
履物製造業は、合成樹脂、革、ゴム、接着剤など多種多様な素材を使用し、複数の工程(裁断、縫製、成型、接着、仕上げ)を経て製品が完成します。
これらの工程では化学物質の使用、エネルギー消費、廃棄物の発生、排気や臭気の排出といった環境影響が複合的に発生します。
《環境パフォーマンスの具体例と取組み方》
(1)化学接着剤の使用とVOC排出
<課題>
接着工程では有機溶剤系接着剤が使用され、揮発性有機化合物(VOC)の排出が問題となる。
<取組み方>
・水性接着剤やホットメルト方式などの低VOC技術への転換を推進。
・換気装置の増強や作業エリアの分離により作業環境への曝露を低減。
・使用量・排出量をkg/月単位で記録し、削減目標を設定。
(2)端材・廃材の発生とリサイクル
<課題>
アッパー用合成皮革、ミッドソール用EVAなどの材料端材が多量に発生し、産業廃棄物となっている。
<取組み方>
・CADによる効率的な裁断配置で歩留まりの向上を図る。
・発生した端材は再粉砕してEVAチップ素材にリサイクル、またはスポーツ用品素材に転用。
・廃棄原単位(kg/100足)をKPIとして設定し、年度目標を策定。
(3)エネルギー使用量とCO2排出
<課題>
成型・乾燥・プレス工程では電力・蒸気を大量に使用し、CO2排出につながる。
<取組み方>
・成型機をインバーター制御付き機種に更新し、電力使用量を15パーセント削減。
・熱回収装置による乾燥炉の排熱再利用でガス使用量を抑制。
・kWh/100足やCO2排出量(kg/足)を定量評価。
(4)包装材の環境負荷
<課題>
プラスチックトレー、ラッピングフィルム等の使用量が多く、使い捨て廃棄物の削減が課題。
<取組み方>
・再生PETや紙素材を活用した環境配慮型包装材への変更。
・包装仕様の標準化と梱包サイズの最適化により、資材使用量を20パーセント削減。
・包装材使用量をg/足で記録・評価。
(5)水使用と排水処理
<課題>
染色や洗浄工程が含まれる場合、排水負荷(BOD、色度)が懸念される。
<取組み方>
・クローズドシステムによる洗浄水の循環再利用を導入。
・排水処理設備(沈殿+膜処理)の導入で、放流水質を法令基準以下に維持。
・月次で水使用量/100足および排水負荷を記録。
《環境パフォーマンス管理の実践ポイント》
・環境側面の評価基準を見直し、高リスク領域(化学物質、廃棄物、エネルギー)を優先管理。
・KPIは具体的かつ数値で比較可能な単位(例:kg/足、kWh/100足)で設定。
・マネジメントレビューで、達成度・未達要因・是正措置を確認。
・現場との対話(現場ラウンド、作業者ヒアリング)を通じて改善案をボトムアップで抽出。
<まとめ>
履物製造業における環境パフォーマンスは、見えにくいが確実に環境と事業の両面に影響する「実効力ある経営指標」です。
ISO14001の仕組みに則り、環境側面を工程ごとに分解し、数値で管理し、改善につなげる。
この地道な取組みの積み重ねが、企業としての持続可能性を支え、消費者・取引先・地域社会との信頼醸成へとつながります。
(※ 自分を変える“気づき”ロジカル・シンキングのススメ メルマガ968号より)
 
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