「out of noise」 | 風の吹くまま

風の吹くまま

怪談を語り、ウクレレ漫談で世相を切り、落語を演じる・・・実は「聴き屋」です。

先日は村上さん(村上春樹さん)の「謝肉祭」のことを書きましたが、

今回は龍さん(村上龍さん)が衝撃を受けたというアルバムのお話

(どうでもいいこだわりですが、私は、村上春樹さんのことは「村上さん」、

村上龍さんのことは「龍さん」と呼んでいます)。

 

それが(クラシックではないのですが)、教授(坂本龍一さん)の「out of noise」

龍さん(村上龍さん)は2009年の発売当時、このアルバムについて、

 

『BGMとして聞き流すことのできない、「極めて厳密で抑制された」音楽で、衝撃を受けました。わたしは、坂本龍一が組み合わせた音に、「酔いしれる」のではなく、「立ち向かう」ように

聞きました。いまだ、このアルバムを評する言葉が見つかりません。』

 

と書いていましたが、まったくその通りの作品でした。

 

初めて聴いた2009年3月9日の日記に、私はこう記していました。

 

『心が震える・・・という感じで、感動。音楽を聴いてこんな気持ちになったのは初めて。

私の貧しいボキャブラリーでは書き表せない感情が沸き起こる。「感動」と書いたが、

そんな簡単な安っぽい感じではない。なんだろう、この気持ちは。

とにかく「行き着くまで行った」という感じ。音楽としての究極のカタチというのか・・・。

何かをしながら聴くということが出来ない、聴くことだけに集中して真正面から受け止めて

聴く音楽だと思った。美しい音楽とか、そういうのではないんだよなあ。すごかった。

音楽の持つ力のすごさ、音のひとつひとつの重さが全然違う』。

 

解説によると、

 

「音楽に関わる全ての要素を脱構築し、繰り返し演奏、不協和音、環境音など、

現代音楽的な手法を全面的に取り入れ、結果として、音楽の三要素である旋律、和音、拍子の

何れもが存在せず、楽器音、環境音、電子音が聴き分けられない程に融合している。

2008年10月に北極圏で録音した「氷河の下を流れる水の音」「そりを引く犬の鳴き声」

「氷の洞穴で鳴らしたベルの音」などの音が含まれている。」とされ、

 

教授自身は、

「茶道、華道に通じる日本的なもの、禅的なものとつながっているのかもしれません」

語っています。

 

無意識下の音楽というか、音楽だけど音楽ではないものというか、

もうその範疇を超えて存在する「音」。

中にはただの不協和音のような曲もあるのですが、その調和の無さの中に、

妙な落ち着きを得られたりするのです。

 

音楽を超えた、哲学、心理学、宗教、そしてスピリチュアル・・・

いろいろな意味がこのアルバムの曲の中には含まれているように感じられます。

 

このアルバムを聴いていると、教授も何か一線を越えた「悟り」のようなものを感じたのではと

思えるのです。

 

是非聴いてみてください。

そして、聴かれる方は、ぜひ部屋の電気を消して、音だけに集中して聴かれることをお勧めします。

 

追記:2009年に初めてこのアルバムを聴いたとき、聴き終えた後、クタクタに疲れていたことを

思い出しました。

身体器官としてはもちろん耳で聴くわけですが、

その時は「音」を心と身体ですべて受け止めていたからだと思います。

音楽を聴いてリラックスするというのはありますが、

音楽を聴いてあんなに疲れたのは、後にも先にもあの時だけです。