触れてはいけない。

話しかけてはいけない。

その存在を確認してもいけない。

それらの罰は彼が自ら望んだ事。


「僕は  彼女を哀し過ぎた。」


彼はそう言った。

その瞳はどこを見ているのか、

何を映し出しているのか、

全く 分からず

何を考えているのかも

もちろん

読み取れなかった。

「哀?愛じゃなくて?」

「・・・はい。

僕は哀し過ぎたんです。

あの子を。

そして

あの子も僕のことを。

・・・

・・・

哀し過ぎたんです。」

だから 引き裂かれた・・・。

・・・と彼は薄く笑った。

・・・。

分からない。

彼の考えている事が。

何を考えているのか。

何を想っているのか。

何を願っているのか。

何を思っているのか。

何を望んでいるのか。

その当時、その世界で最も優秀と評価されていた心療外科医 

兎羅偽 このみ。

彼女にさえ彼の思考が理解できなかった。

「僕はね 先生。」

彼が初めて自ら話を始めた。

今までとは声のトーンも違い、

兎羅偽には、それが不審に思えた。

そして 

彼は驚くべき事実を口にした。



「僕はあの子の事が嫌いなんですよ。」



・・・。

衝撃的だった。

それしか感想がなかった。

そして

もし その事が

事実ならば

私達は  今まで

何をしていたのだろうか―――・・・。







成功作と失敗作。

勝者と敗者。

成功例と失敗例。

勝ち組と負け組。

成功者と失敗者。

勝ち馬と負け犬。

名前無と愁善 哀。

この二人に接点を持たせ、

その結果

二人にどの様な変化があるのか。

人間が作り出した

最高物質と最低物質。

名前無の実の母親や

表面的ではあったが兎羅偽 このみ

が所属していた組織は

この変化を観察していた。

しかし

思いの外

その実験は失敗に終わった。

二人は

お互いを必要とし過ぎて

逃げ出した。

二人の持ちゆるあらゆる手段を使い、

私達の手から逃げて行った。