依頼人(18)知らない場所を知る時間(中編) | 小説家・井越歩夢は書く語る=IGOSHI/WALKER's THIS IS ME=

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小説家・井越歩夢(IGOSHI・WALKER)

ライトノベル作家・小説家・AI生成イラスト・AI生成文書技師

そんなこの私の短編小説と、日々つらつらと思うことを思うまま徒然なるままに何か何かを書く語っています。


霊カウンセラー

黄泉野カレンは悪気を捌く
依頼人(18)知らない場所を知る時間(中編)

 

旅脚橋。世界に僅か5つしかない特異な吊り橋という話なのだが、私はもう何のことかわからなかった。元々私は観光というものにとても向かない性格をしている。そのため、様々な観光地、観光名所、そういった様々な場所の名称をほとんど知らないのだ。

そんな私なのだが今、その旅脚橋に向かって彼と、GSX250Rと一緒に、友人原アイラ、そしてバイク雑誌のライターでありYouTuberであるアイラの友人、川崎ハルナさんと一緒にそこに向かって走っている。

 

私は黄泉野カレン。某国某都某市駅前でヨミノカウンセリング室を営む心理カウンセラーだ。そんな私なのだが先日元同僚でありできれば会いたくないと思っていたアイツと顔を合わせたことでなんというかモヤモヤした気持ちになっていた。

それを気遣ってくれたのだろう。友人原アイラは私の休日、月曜日にツーリングに行かないかと誘ってくれた。正直いうとあまり気分は乗らなかった。だが、そうであったとしても部屋にこもって考えていてもそれはそれで仕方ない。過去は変えられないのなら、今楽しむ方を取ればいい。私はその誘いに乗って、そして今こうして3台のバイク、ハルナさんのニンジャ650、私のGSX250R、アイラのシャドウ400の順番で連なって最初の目的地「お肉屋さん」にむかって走っているところだ。

 

ハルナさんの話、今日の目的地である旅脚橋について、出発前に軽くその話を聞いた。

1954年に竣工されたこの橋は、世界に5つしかない特異な構造をした吊り橋で、構造は・・・下路型単径間補剛トラス吊橋?うん、そういうものなのだそうだ。現存するこの形式の橋は3つ。そしてそれは2029年に竣工予定の新角山ダムの建設で水没するというとのこと。それもあり、そして私たちの住む某市から比較的ちかいばしょでもあるためハルナさんは来月のコラムの記事の取材と自身のYouTubeの撮影をとここに行く計画をし、その撮影の手伝いを私の友人原アイラに依頼した。そしてアイラは、ハルナさんのファンだと言っている友人も一緒に行ってもいいかと提案し、それをハルナさんは快諾。今日のツーリングに繋がった、というわけだ。

 

私の前を先頭で前を走るハルナさんのバイク。やっぱり大型バイクの排気音は迫力あるなと感じる。低めの心地よいいい音だ。それと、あの短いマフラー。その見た目それがとてもいい雰囲気を出しているように感じた。そしてさらに後ろから聞こえるアイラのバイクの奏るVツインの音にも追いかけられながら、私は久しぶりに賑やかな音の中で彼とのGSX250Rとの対話を楽しんでいた。

それにしても、最初の行き先と言われた「お肉屋さん」というのは一体どういうことなのだろう。これについてはアイラも知っているようで、彼女曰くついてのお楽しみとのことだ。

それじゃあ、楽しみにしてついていきましょう。

 

1時間ほど走っただろう。アグレッシブな雰囲気のハルナさんの印象からは意外で、彼女はゆっくりとしたペースを保って走る。

自然と私たち3人のバイクの列をまとめている印象のその走りは紳士的な走り、いや淑女的な走り。正直言うと私はマスツーリングを苦手にしている。苦手にしているのに、今日はそれを、苦手意識を全く感じることなくとてもリラックスした気持ちでその輪の中に入っていられた。

さすが毎年毎月全国を走り回っている旅ライダー。そんなことを思いながら走っているうちに、ハルナさんは道中右にウインカーを出した。その目線の先に見えたのは・・・・

「肉の皇帝(エンペラー)!?」

思わずその看板を見て私は、私は思った。どういう店名ですか、と。ま、まあまあ最近インパクト強めの店名を掲げるお店、パン屋さんに多いかな、そういうお店をよくよく見かける。きっとこれが今という時代の流れなのだろう。

私たちはそこの駐車場にバイクを並べて停車し、そしてヘルメットを外した。

「お肉屋さんって、何だかすごい名前ですね。」

「面白い名前でしょう。お肉屋さんですけど、揚げ物も扱っていて、ここでお昼ご飯の買い物です。あ、私のおすすめは「とりかつ」ですよ。」

初めて会った川崎ハルナさん。彼女は美人さんでスタイルも良くて、そしてアクティブでワイルド。ここまででの私の感じた彼女の印象だ。

「アイラはここ、来たことあるの?」

「ああ、あるぜ。前にハルナに教えてもらってから近所を通ると何となく寄るというか、何だか吸い込まれるんだよなーこれが。」

吸い込まれる。大食漢のアイラにそう言わせるということ、それでもう想像はついた。

ここの揚げ物は「大きくて美味しい」のだと。

 

入り口を入ると、「肉」の列と「揚げ物」の列それが左右に分けられていた。それなりに行列ができており、そしてその大半は左の肉の列なのだが右の揚げ物の方も少し待ちのあるそんな状況だった。ハルナさん、アイラ、私の順で揚げ物の列に並びまあ少し待つ。少しといってもほんの少しだった。順番はすぐに回ってきてハルナさんは彼女のおすすめと言っていた「チキンかつ1つ」。アイラは「とんかつ2つ」と「チキンかつ2つ」。私は・・・ハルナさんのおすすめ「チキンかつ1つ」を買うことにした。それをお願いすると店員さんは手早に手慣れた手つきでそれを持ち帰り用のフードパックに入れて輪ゴムで止め手渡してくれた。

「230円です」

「はい。」

安い!この大きさでこのお値段は、とても安い!少しそれに驚きながら私は、現金を渡しレシートをもらってそして先に出ていたハルナさん、アイラを追うように店の外に出た。

駐車場の区画はほぼ車で埋まっており、その様子からこのお店の人気ぶりを感じられる。そしてもう一度私はこのお店の看板を見た。

肉の皇帝(エンペラー)うん・・・やっぱりこの店名、何というか、ジュワジュワしみてくる印象。

「すごい名前のお店ですね、ハルナさん。」

「名前もそうですけど、味もすごいですよ。」

「そうそう、この店たまにだけど、市内からでも俺を吸い込んでくるんだよなぁ」

・・・引力もすごいということらしい。

「さて、でわここからはカメラ動かしていきますよ。」

ハルナさんはそう言うと、バイクにカメラを取り付け準備を始めた。そしてアイラもバイクにカメラを取り付け後ろからの録画の準備をしているようだった。

お昼ご飯の揚げ物と、外の自販機でお茶を買ってそれをトップケースに入れた私は二人より一足先にヘルメットを被り出発の準備をすませた。

 

「さあ、行きましょうか。」

カメラの取り付け、出発の準備の整ったところでハルナさんはそう声をかけ、私たちはそれぞれバイクのエンジンをかけた。3台一緒にそれをすればまあまあ、それなりにそれなりの音を出すことになる。外にいるお客さんたちの視線、それが一斉に私たちの方に向いたような気がしていた。

それはまあそれとして私たちのツーリングは、ハルナさんのYoutube動画の撮影はここから始まったのだった。

 

 

なんというか、少しなんというか、緊張?アイラのカメラで後ろから撮影されている、ハルナさんのカメラにも少し入るような形で列を組み私たちは今日の目的地「旅脚橋」へと進み始めた。

 

 

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13時〜20時(メールにて要予約)

定休日 毎週月曜火曜

カウンセラー 黄泉野カレン

 


 

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 5月16日(木)投稿予定