依頼人(14)死者の戯言 | IGOSHI・WALKER’s THIS IS ME =井越歩夢は書く語る=

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IGOSHI・WALKER49歳

今日は今日とて今日だけにつらつらと思うまま徒然なるままに書く語る。
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井越歩夢は書く語る
私の私的進行術です


霊カウンセラー

黄泉野カレンは悪気を捌く
依頼人(14)死者の戯言

 

今日最後の、木曜最後の依頼人は25歳男性。職業は一般職の会社員ということだった。見た目中肉中背。短く切り揃えられた髪。少し日に焼けているように見える。聞いてみると趣味はスノーボードらしく週末は友人とスキー場へ行くことを楽しみにしているそうだ。4月初めとるともうこの某市からはかなり遠いスキー場しか営業をしていないのだがそれでも好きなものは好きであると友人とそこへその遠くまで出かけているそうだ。

 

そんな彼の見た目からは「悪気」を感じることなどまるで無い印象。まあまあ外見上はだ。だがしかし、悪気というものは外見に滲み出ていることももちろんだが、それをとても巧妙に内面へと隠すしてしまう、そういう人もいる。

そして今日のこの依頼人は、そんな人なのだろうと今この時点ではそう理解し向き合っていた。

 

毎度毎度ではあるが、私は黄泉野カレン。某国某都某市駅前でヨミノカウンセリング室を営むカウンセラーだ。この場所で仕事を始めてまあそれなりの期間になり、そして良くも悪くもまあまあそれなりに名前と顔を知られる存在にもなっているようだ。それは、私に付けられた「心霊カウンセラー」というイメージだろう。それは仕方ないと思っている。まあ、仕方ないだろう。私のここまでの39の記録を全て読んだ方ならお分かりだろう。

私はの仕事は「昼の依頼人」と「夜の依頼人」、「生者」と「死者」に向き合い、彼らの抱える「悪気」を和らげる、時に消す。という世間一般大多数の意見として表現するのならば「見えるひと」とか「霊能者」という見られ方をしている。それは私も認識しているし、それはまあまあ仕方ないことだと理解はしている。だがしかし、毎度毎度だがこれは言っておかなければならない。そしてこれは知っておいてもらわなければならない大切なことだ。

私は所謂「見える人」ではある。わざわざ人にその事実を言ってはいない。だがそれについては百歩譲って認める。だがしかし私は「霊能者」ではない。私の仕事はあくまで「心理カウンセラー」なのだ。

もう一回、念を押して言わせてもらう。

この私、黄泉野カレンの職業はあくまで「心理カウンセラー」である、と。

 

さて、依頼人の話に戻そう。彼の語った話はこうだ。

 

彼は今から4年前、仕事上で大きな失敗をした。細かく内容も聞いたの上で私もそれを大失敗だと理解し言わざるを得ない。しかし、なぜ彼はその失敗をしてしまったのか。それは彼の失敗というよりも組織の失敗なのでは無いかという内容だった。だがしかし、担当していたのは彼だ。それは事実であり彼はとても落ち込み、大いに反省し、そして彼はその時彼を「失った」。彼という人間の、彼自身としての認識。自尊心だ。

 

仕事を始めて2年目。彼の部署へ異動の辞令を受けた新しい上司に彼は初日から人格的攻撃、不合理、そしてこういう時の決まり文句「お前のため」発言は始まった。それは毎日毎日続くことになり彼は毎週就業時間の終わりを、休日を、上司から離れられる日を心待ちにする日々だった。だが休日の過ごし方にまで介入し始める上司。彼はどんどん萎縮し、そして追い詰められ細かな失敗を繰り返すことになり、それが大きな失敗へとつながっていくこととなった。

 

その大きな失敗も、彼の話では誰もがそのことにそれに気づけないほど分かりづらい書類から始まるものだったらしく、それの記述を実際にメモで書いて見せてもらったのだが・・・確かに、これではまるで間違いを起こさせるための罠じゃないか。そして彼はもうすでにこの時、本来であれば病院に行くべきまで追い詰められていたのだと私はそう感じていた。

ただ、ここまで聞いてそして今の彼を見て「表に滲み出ない悪気」の存在を私はまだ理解しきれていないと感じていた。その違和感は、この続きを聞くことで払拭され、私に彼の持つ隠れた悪気の理解へと至らせた。

 

その年、彼は本社から支社への出向となった。その支社は彼を追い詰めた上司の元出向先だった。異動辞令の出た時もその上司はどういう意味なのか「支社は厳しいぞ!覚悟しておけ!」と彼に言ったらしい。本当にどういう意味なのだろうか。

ただ、彼は出向先支社で上司、先輩に恵まれまあまあ仕事の中では小さなミスはあれども、明るく平穏な日々を過ごすことができていた。まあ小さなミス、人間は誰でもミスはする。そうでなければ私はその人間を、人間なのかと疑っていまうだろう。そして彼はその支社の中で「本社の元上司と一緒のところから来た人と思えない」という良い評価をされることになった。それは彼の人柄だ。彼はそれを深くは聞くことはなかったのだがそう言われることによって元上司はこの支社で余程の人物と認識されていたのだろうと感じ取っていた。

 

だがそんな期間も長く続かず24歳になった彼に再び本社に戻る事例が下った。3年間平穏の中、元々の社交的で明るい表情を取り戻した彼はそこに戻り、そしてそこで自分が「不真面目」「失敗の代名詞扱い」にされていることを知る。支社ではきちんと仕事をこなし、大きなミスもなく、上司同僚とも良好な関係を築いていた彼は、本社では後輩にも同僚にも上司にも「失敗の代名詞扱い」。そしてそれを社内に広めたのは、彼を追い詰めた元上司とその取り巻き達だった。そしてそれを聞いた後輩達も彼を失敗の代名詞と見て軽く扱う始末。

そして彼はまた追い詰められていき、小さなミスから小さなミスの連続、もう何をどうしたらいいか分からなく、混乱し、支社出向前の状態に逆戻りしつつあることを感じる中、私の営むこのヨミノカウンセリング室の話を聞き、そしてカウンセリングの予約メールを送信し、今に至っているのだった。

 

「そうなのですね。」

彼の話を時に頷き傾聴した私は、今までここまでの話をすませ、少しホッとしたように見える彼にそう声をかけた。

「このままあの会社にいたら、いくら努力しても声の大きいあの人達のために失敗の代名詞にされてしまうと思うと、小さなミスでも許されないと思えば思うほど・・・」

なるほど・・・ここまで彼と話をして気づいたことは彼は彼自身に彼の本当の今を隠すための「微笑仮面」を被せているということだった。

彼は強い悪気を抱えていながらそれを見えないように、見せないようにとしている。彼の気の許せる仲間、家族にそれを悟られないようにするための悪気を隠す微笑みを浮かべた仮面。

それが彼に対して最初に私の持った「悪気の滲み出ていない」という印象の正体へと繋がったのだ。

 

彼の話をまず静かに傾聴し、そして傾聴した私は今度は彼へと言葉をかけ始めた。

「それは本当にお辛いですね。でも、こう考えてみるのはどうでしょう。過去の失敗をあなたの全てだと言う人は、その過去と共にもうすでに死んでいる、と。」

「はい?」

彼は目を丸くしていた。まあまあそうだろう。普通に意味のわからないことを言っていることなど私だって理解っている。だがしかし、これは私の極論であり私の結論なのだ。この言葉の意味を私は彼に伝えた。

「過去の失敗があなたの全てなら、それを言う方々は、その時以降の時間は止まっている。今を見ていない、今を見られない、見ようともしていないということです。生きながら実はすでにその時に時は止まった。その時に止まったまま。その時すでに死んでいるということです。そして失敗が人の全てならば、誰彼も同じように自らの失敗が自らの人生の全て。貴方だけに失敗の人生を押し付けるのは、それをしている彼ら自身が彼ら自身のそれから目を逸らすため貴方を貶め、そして彼ら自身はそれを知ることを恐れている、そう思いませんか?」

「あ、」

彼は、一言。一言だったのだが、私の話したこれだけでもうすでに何かを理解しているように私は感じていた。

「ただ悲しいかな、彼らはそれを理解することなく生涯を終えることでしょう。ですから貴方はもうそこにいるべきではないのかもしれません。」

「会社を辞めた方がいいということですか。」

「それも選択肢の一つです。または、再度支社への異動を希望してみるなどもですね。貴方を集団で批判することでしか自分の心を満たすことのできないような人たちに囲まれていては、貴方はこの先、いえ近いうちに本当に病んでしまうとおもいます。そうなる前に行動を起こすことです。病んでしまっても会社も、彼らも責任など取ってはくれません。なので、自分自身を守るための行動を起こすことを私はおすすめしたいです。」

「・・・・・」

彼は少しの間、考えている様子だった。だが私はその様子に否定的な雰囲気を感じてはいなかった。いや、否定的ではなく肯定的にとらえ考えているという印象を持っていた。その印象からもしかすると、彼は彼自身はもうそのことを考えていた。だが一歩踏み出すことができずに、誰かからの背中を押してくれる言葉を求めていたのかもしれない。

そのあと彼からの言葉を聞き、そしてそれを受け止めるというやり取りをしばし続け、相談の時間は終わりを告げるのだった。

 

「ありがとうございました。先生に相談してよかったです。」 

「それはよかったです。」

相談時間終了後の彼は彼の微笑仮面の裏に隠していた様々な辛み、悩み、悪気を洗いざらい話せたことからなのだろうと私は思っていた。

それにしても本心を隠すことの上手い依頼人だった。この私に隠し事のできる人間など、まずいない。メガネをつけているとはいえ私の目は対峙する人の全てを見切る目。元職場で培われた見定める目である。だがそれにもかかわらずだ。

それは今までの依頼人と対峙した時点で依頼人の話したいこと、その嘘本当もわかるほどなのに、何故?

 

何だろうか。そのことに私は少しの違和感を持っていた。もしかすると彼は何かを。まだ私の目で見切れていない何かを持っているのではないかと。

まあまあいい。今日の仕事はこれで終わりだ。

彼はまだ隠れた悪気を、その姿をまだどこかに隠しているかもしれない。だがしかし、少なくとも彼は「少し軽くなった」と言葉にしていたのだから、少なからずではあるのだが、その悪気は軽くなったものだと私は信じよう。私はそう自らに理解させそれを確認し、そして彼を見送った。 

 

 

私の今日の日記はこれで終わりにするのだが、それにしても・・・彼を追い詰め不真面目と失敗の代名詞と言い放ったその元上司とやら。今まで依頼者の話を聞いてきた経験上こういう人間は標的を無くすと次の標的を探し、そして次の標的を探す。そして標的にされた「不幸にも真面目な人」を増やし続ける。そう以前の「真っ黒な嘘男」のように。それによって悪気に取り憑かれ絶えきれなくなった者は、時として人界からの脱出という行動を選択してしまう。

「お勉強のできるだけのバカか、そんなフリをしている馬鹿か、ただのばか・・・か。」

興味本位。そう興味本位だ。世の中の真心を踏み躙るそういう者の喜怒哀楽を感情を興味本位で少し知りたい気分に私はなっていた。知るだけだ。知るだけで今回は処すことはしない。2023年末、里帰り中に見た元得意先の仕事に追われる惨状を見てから以降、そこに振り分けられる者を無闇に増やすことは、できるなら避けたい。元得意先の鬼部長に再び「君は鬼よりも鬼だ」と言われるのは、いくら何でも流石に私でもとても、とっても凹む。

まあまあこれは私の興味本位だ。それ以上は何もない。興味だけなのだが少し探りを入れてみようと私は友人、原アイラへの仕事の依頼メールを書き始めた。

 

だが数日後私はこのただの興味本位の依頼をしたことに大きな後悔と大きな気づきという2つの大きな収穫を得ることになろうとはこの時全くもって想像していなかった。

 

 

ヨミノカウンセリング室

某都某市駅前

13時〜20時(メールにて要予約)

定休日 毎週月曜火曜

カウンセラー 黄泉野カレン

 


 

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 4月18日(木)投稿予定