依頼人(12)壊れたそれは戻らない | IGOSHI・WALKER’s THIS IS ME =井越歩夢は書く語る=

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IGOSHI・WALKER49歳

今日は今日とて今日だけにつらつらと思うまま徒然なるままに書く語る。
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井越歩夢は書く語る
私の私的進行術です


霊カウンセラー

黄泉野カレンは悪気を捌く
依頼人(12)壊れたそれは戻らない

依頼人は20代後半の女性。20代後半女性である、のだが。そうなのだが、その雰囲気はその年相応と言っていいものかという印象だった。

水曜の最初の、水曜の13時の依頼人。今日最初の依頼人。彼女に関して少し話をした時点で、ここではなく精神科、心療内科を受診することを薦めようと私は心で理解しそれを決めていた。

今日の日記は、そんな彼女についてのそして私の思う「心の病」についての向き合い方、態度、スタンスと言って立場の記録である。

 

私は黄泉野カレン。某国某都某市駅前でヨミノカウンセリング室を営む心理カウンセラーだ。月曜火曜の休日を経て今日は仕事の週始め。まあ、今週は月曜に半分仕事のようなものを入れていたため1日休みの少ないような感覚の週始めではある。だが私は昨日とても耳に福を貰いしっかりとリフレッシュした気分でいる。よって仕事の週始めは世間一般の多数派論「だるい」という意見を多く占めると理解した上で今日の私は言わば「どんな悩みも40秒で解決してやる!」という強い意気込みだった。ただしかしこれは今現在「だった」、に変わってしまったのだった。

私の意気込みは今日最初の依頼人を前にし、そして40秒でボロボロと脆くボロボロと崩れ去ったのだった。

 

壊れたそれは戻らない。まずこの言葉を先に知ってもらった上でここから話を進めていこう。

 

彼女に関してまず、今の彼女を見てそして話を聞いてよく一人でここに辿り着けたと率直に思った。彼女の今の状態は所謂「激しい躁状態」だった。だがしかし、彼女の依頼メールを受けた時、その依頼の内容からして「強く悩み落ち込んでいる」という印象を受けていた。

そして私はこの時点で、彼女の姿、彼女の今の状態、彼女から感じるそれから彼女は「私の範疇を超えた依頼者」なのだと確信していた。

そして彼女は私ではなくカウンセラーでなく精神科・心療内科の先生に診てもらうことが最適解だと判断した。ただ、ここから私は彼女に病院に行くことを薦めるのに苦慮することになった。

何故か?彼女は自分の話したいことだけを話、したいことだけをして、私の話を否定し拒絶しそして拒否し、兎に角あらゆる言葉と行動で全く聞き入れようとしなかったからだ。

まあまあそれは、まあまあまあまあ仕方がない。仕方がないことは理解している。彼女は自分の今の状況を彼女自身理解できていないのだ。かえって今をとても良い状態だと彼女はそう誤認していることだろう。この状況ではそうであっても仕方ないことは十分に理解はしている。しているのだが、だがしかしだ。このままでは埒が開かない。ここで平行線を辿っていられるほど時間はない。次の依頼人もいる、そして次も。

正直、これは不本意ではあるのだがまあ仕方ない。仕方なく私は「そうする事」にした。仕方なくだ。あくまで仕方なくだ。

「ちょっと失礼します」

私は意図してそれを外し、そして彼女の目と私の目を合わせた。はあまり使いたくはない、不本意ではあるそれでその方法で私はこの場を強制的に納めることにした。

 

 

それは当然の如く成功し、そしてスッと大人しくなった彼女に知り合いのクリニックへの住所と紹介状を手渡すことになった。

彼女は今度はそれを素直に受け取り、その後内容は割愛させてもらうのだが、彼女は落ち着いた口調で少し会話をしてそして時間になったところで帰っていった。

まあ、時にある。ごく稀にある。ごく稀にこの私がそれを外しそれを使う。そしてそれは今日、今それをどれだけぶりか忘れるほど久しく使うことになった。

「・・・・不快ね。」

私は私に、私自身にそう言葉を投げかけ、そしてそれを着けた。それを着けた私の瞳はきっと黒い瞳に見えることだろう。仕事の時はこれがいい。こうしていれば私は元職のことを忘れ、そして自分を心理カウンセラーであると実感できる。そう思いつつ私は次の依頼人の訪問を数分待つことにした。

 

20時。最後の依頼人を見送りそして今日の仕事は終わった。今夜は夜の依頼人はいない。予約は入っていない。そして飛び入りがあったとしても明日にしてもらおうと私は決めてカウンセリング室を閉めマンション2階。このちょうど上階の私の部屋に帰った。ボスっっとソファーに座り込み本来はほっと落ち着く時間。だがしかしなんだろう、今日は時折ある、時折稀に、ごく稀にある大きな溜息。はぁ〜という長く大きな溜息から始まった。そして今日1日のことを思い返してみた。

今日1日の仕事、依頼人との対話の中で特に印象に残ったのはやはり最初の彼女のことだった。

何故彼女はそうなってしまったのか、その経緯、その原因、それらの深掘り話はまあまあ・・・長くなりそうだ。だからあえて今はここに書くことはよそう。ただこのことを知らない、人は、世間は、そう、ただこのことを知らない。

まあ仕方ない。人は自分自身で体験した物事に現実感を感じられてもそうでなければ理解できない。そういう部分も持っている不完全な生き物だ。

 

人のその心は、一度壊れた心は元には戻らない。

ストレスに関する過敏さ、耐性の無さ、真面目すぎる性格、性質とまあまあ原因はまあまあまあまあ様々ではある。

そして悲しいかな心の病に対する世間の理解はこれを認知され始めてから長い時間を経ている割にあまりにも低い。外見的に判りにくいというそういう部分もあるものだから仕方ないところでもある。

 

過去の報道でされていた誰にでも起こり得るという点で「心の風邪」という表現はまあまあ間違いない。誰にでも起こり得るという点だけを見ればだ。だが実際はそれに一度罹患してしまうと長い期間の治療を必要とする。半年、1年、10年、そんなに長く続く風邪などあるのだろうか?

この病の正体は「脳の病気」だ。そして厄介なことにこれは一度なってしまうと、以前の通り、元通りには戻れない。完治ではなく寛解なのだ。再発をさせない生き方を心がけ今の良い状態を保つ。新しい心持ちを作り出し組み上げていかなければならない。

これは体の病気「癌」と同じく、そうこれは「心の癌」なのだ。甘え、気の持ちよう、そんな生ぬるい言葉で表現できるものではない。これは脳の病気、心の癌なのだ。

 

現代の人界。まあまあ昔と思えば情報に溢れ便利にはなった。まあまま便利になることは悪いことではない。だがしかし、だがしかしだ。その便利さのために生まれる新しい不便さ、不利益、不健康さもあることを忘れてはならない。

スマフォ依存、秘匿性、匿名、バレないという思い込みからのネットの誹謗中傷(必ずバレるのだが)etc、etc、etc・・・・・

便利を正しく使えば有益だ。だがしかし、そうでなければそういうことだ。

急激な技術の進歩に人は進化的についていけていない。そしてだ。そして心を壊す人は年々増えていっている。私の依頼者もここ3年で急激に増えたと感じており、それは事実と今は理解している。便利というのもまあまあそれもまあまあ良し悪しというものなのだな、と。

 

人々の心に願わくば切に願わくばできる限りの平穏があることを祈り今日の日記を締めることにする。今日の日記は、私の思う「心の病」についての向き合い方、態度、スタンスと言って立場を私なりに書き留めた記録である。

 

 

ヨミノカウンセリング室

某都某市駅前

13時〜20時(メールにて要予約)

定休日 毎週月曜火曜

カウンセラー 黄泉野カレン

 


 

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黄泉野カレンは悪気を捌く

依頼人(12)壊れたそれは戻らない

 


 

 

 

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次回予告

 

依頼人(13)

「楽しい休日と考察する恐怖の法則」

 4月4日(木)投稿予定