依頼人(5)そうかもしれない(後編) | IGOSHI・WALKER’s THIS IS ME =小説家・井越歩夢は書く語る=

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井越歩夢(IGOSHI・WALKER)

ライトノベル作家・ブログ小説家・AI生成イラスト・AI生成文書技師

そんなこの私のつらつらと思うまま徒然なるままに何か何かを書く語る場所である


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黄泉野カレンは悪気を捌く
依頼人(5)そうかもしれない(後編)

 

クラシックミニの排気音。そして排ガスの香り。排ガスを香りというのはどうかと考える、そういう人もいるだろう。だがしかし、私的にこれは香りだ。まあ、そんな私にも苦手な排ガスの香りというものも、あるにはあるのだが・・・今はそれは置いておこう。今は好意的な状態事象状況それらを優しく語りたい。

 

赤色のクラシックミニ。小気味の良い排気音を奏でながらその車はバイク駐車場の1番近くの駐車場に、ゆっくりと華麗に止まった。その動きは車体そのものから年齢を重ね人生の深みを感じさせる優しい色の佇まいを感じさせる。そんな印象だった。そして、この喫煙場の近くに車を停めたということは、オーナーは想像するに、愛煙家なのだろう、と私は車を降りるそのオーナーの姿に視線を送っていた。

降りてきたのは見た感じ50台後半から60代前半ほどの年齢の男性かな、と私は私の勝手な視点で見ていた。

ニットの帽子を被り、厚手の赤色のネルシャツに使い込み感のあるデニムのパンツ。白髪混じりの無精髭。丸眼鏡。それらをまとめて「おしゃれなおじさん」と表現しよう。

彼は車のドアを丁寧に閉じ、喫煙場を確認し、そして階段を5段登ってこちらに足を進める。そんな様子を見ながら私は軽く会釈をし笑顔を投げかけた。

「こんにちわ。」

「こんにちわ。寒いのにバイクですか。」

「はい、これしか持っていないので。」

そんな会話から、私たちは初対面の会話を始めた。

 

彼はタバコに火をつけ、そしてフーッと煙を吐きそしてもうひとつ、もうひとつ一息をつく。

「この寒い時期でもバイクということは、相当好きなのですね。」

彼はその年相応の優しくそして経験に裏付けられた良い声でそう話しかけてきた。

「ええ。好きですね。」

「どれくらい乗って見えるのですか?」

「今のバイクは3年ほどになります。バイク乗り始めたのは・・・・19歳なので長いですね。」

「それはそれは。良いことです。」

彼はそう言いながら私の彼、GSX250Rに視線を向けそしてまたフーッとタバコの煙を吐いた。

「大きく見えますが、何CCですか?」

「250ですよ。」

「250!大型と思いましたよ。」

「長さはありますけど、前から見るとスリムですよ。」

なんだか嬉しい。彼のことを褒めてもらえている気がしてそんな気持ちだった。きっと、もしかすると無意識に私は微笑んでいたかもしれない。そして、私は彼の車、クラシックミニの方に目を向けた。赤色のクラシックミニ。車に乗らない私ではどんな感じに手を入れられているか等々詳しくはわからないため語れない。だがしかし、その姿からこの車はとても大切に乗られているのだなと、そのことは十分に、それは十分に伝わって来る。

「綺麗な車ですね。」

小さくて可愛い、見た目だけならそんな表現になるだろう。しかし、私はその姿を「美しい老淑女」の様だと感じていた。

「ありがとうございます。」

彼はニコリと笑みを浮かべ、そしてまたタバコの煙を吐いた。

「もう30年の付き合いですよ。」

「すごい、大切にされているんですね。」

「子供の頃からの夢でしたからね。今となっては50のおっさんですが。はははは。」

あら、見た目の落ち着いた紳士的波動のためか私の予想を大幅に下回る年齢の彼。そんな彼とこの車の、彼らの歴史に私はとても興味を唆られた。

「夢ですか。もしよろしければそのお話、聞かせていただけますか?」

「いいですよ。」

彼はそう言い、この車を、このクラシックミニを手に入れるまで、そしてそれからの30年の二人の歴史を語ってくれた。

 

彼の話、きっかけは当時読んでいた漫画の主人公の愛車、赤いミニ。シティーハンターだっただろうか?うん、聞いたことはある。なるほど。そしてそれをきっかけに大人になったら必ずこの車に乗ると決意し、18歳で運転免許を取得。20歳の時にこの赤いミニを購入してそれからずっとこの車一筋の30年なのだという。

当然30年という長い期間乗っていれば、故障することもある。その度に部品を交換し修理して、そして30年、気づけばもう30年を共にしている。

ほんの数年、奥様より長い付き合い。恋愛、結婚、そして息子と娘を乗せて走り、そして手も離れ、今はまた奥様と二人で乗る欠かせない相棒なのだと、彼はしみじみと、その歴史を語る。そして私はそれを聴きながらその素敵な歴史を絵にして想像し、そして想像していた。

「良い時も悪い時も、嬉しい時も悲しい時も、ずっと一緒の相棒ですよ。」

「素敵な関係ですね。」

「いえいえ、それほどでもありませんよ、」

彼はどこか照れくさそうににっこりと笑みを浮かべながらそう言う。先程まで大人の紳士と見ていた彼の雰囲気に、今は少年時代を忘れない大人という印象も加わり、さらに魅力的な大人の男性に見える。

「まあでも、最近は古い車を維持するにはなかなか厳しい時代でもあるのですけどね。」

彼はポツリとそんなことを、呟くようにこぼした。

そういえばそんなことをアイラも、私の友人も言っていた。彼女は、いや彼女も大の車輪好き。バイク、車、自転車、車輪のついているものなら何でも好きというほど幅広く、車好きだ。そんな彼女も愛車フォードクラウンビクトリアの維持について彼と同じようなことを言っていた。部品の確保、経年劣化による修理、そして、税金。古い車の税金は高くなる。1台という資源を大事に長く乗って新たに1台生産する資源を節約しているはずなのに、と、アイラはよく愚痴をこぼしていた。きっと彼もそう言った思いを持っているのだろう。

「友人も、古いアメリカ車に乗っていて、そんなことを話していました。部品のこととかいろいろと。」

「まあこれも、時代なのでしょう。でも、時代が流れても良いものは良い。この車とはまだこの先も離れられませんよ。」

そう言い、ふっと笑みを浮かべた彼は肩を軽く回しそして、そんな仕草を私はそろそろ車に戻るという合図と受け取った。そしてそれは、そのとおりで。

「でわ、そろそろ行きます。」

「はい。お気をつけて。」

「ありがとう。」

彼は落ち着いた早足で愛車の方へと戻っていった。車内に滑り込み、シートベルトを着け、そしてキーを回す・・・・あの歌うような良い音と、それから少し遅れて香り始める排気の香り。ゆっくりと動き始めたクラシックミニ。

彼はクラクションを一回鳴らし私の方に向けて会釈して、そして彼らは駐車場をゆっくりと、そして車道へと優雅に駆け出していった。

さて、そろそろ私も彼との、GSXとの会話の時間に戻ろう。

 

 

彼とと共に走り始める。行く先はここから15分ほど走ることになる山坂道。私のお気に入りのツーリングコースだ。

私には丁度良い、私に丁度いい、ゆっくりと走りながらも適度なカーブとそれの数、適度な登りと適度な下り。そう、私に丁度いい山坂道。

そこを走りながら私は、ふと彼との話、そしてアイラとの話を、ふと何となく思い出していた。

何かと環境汚染だと何だと槍玉に上げられる車やバイクの排気。この国の規制で消えていくバイク、13年目以降増税される自動車税。消えて行く名車たち。私たちの目線、私、イリア、アイラ、アオイさん、シンジュさん、ミコト、私たちの目線から見た世の中。私たちの目線で見たそれを、あえて、そうあえて言わせてもらう。

 

思い上がるな人間、だ。

 

人間都合の環境の名の下に、規制、課税、まあまあ様々な人間の経済活動。人間都合の綺麗事を並べた環境利権争いを、その逆も然りを人間都合で繰り広げる。そんなたかが人間にそれを地球を環境をコントロールなどできるものか。いやそれ以前に、たかが人間に自然を環境を、地球都合を変えられるなどと、本気で考えているのだろうか。地球都合を変えたいのなら、地球以前に先ず人間一人一人自分と我と自らと向き合うこと。まず、まずは、まずやる事はそこからだ。環境を作るのは地球。そう、人間都合ではなく地球都合なのだ。人が人を儘ならぬ今からそれを論点に良い悪いの応酬をするなど・・・

いや・・・・まあいい。私は何を考え何を思っているのだ。今はそんな事よりそんな思いより、彼と、私の愛するGSX250Rとの楽しい時間を共有すること。その時間を楽しむ以外の感情に思いに思考に割くなど、それこそ愚の骨頂だ。

 

今を楽しむ。私が人を楽しむことのできる今を。人である私を楽しめる今を。

そして私は再び愛する彼との会話を楽しみながらこの山坂道を駆け抜けて行った。

 

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