キョーコの部屋の前に着くと、ノックをするべきか呼び鈴を鳴らすべきか考えていた。手に持った小ぶりな花束を見つめて、社さんの助言がなければパーティーにでも向かうのかと思わせるほど大きな花束を注文してしまうところだった。


クス、と思い出し笑いをして再びドアを見つけると、中から声が聞こえてきて蓮は驚いて非常階段のほうへ足を向けてキョーコの部屋の様子をうかがった。


ガチャ


「じゃーな、・・ったく、早く風邪なおせよ・・」


「うん・・・・ありがと」
キョーコの少し鼻声が聞こえてきた。胸に広がる切ない想いとドアから現れた男への嫉妬心で心がズキズキと痛む。
もし、自分がすでに彼女を手に入れていたならこんな風に隠れることなく、相手が誰なのか確認することができるのに・・・


「あ、キョーコ・・悪いんだけど・・明日19時~21時の間に一度携帯に連絡くれ・・」


「・・うん?・・あ、わかった・・連絡するね?」
静まり返った廊下では、2人の会話がよく聞こえた。可愛らしく小首をかしげる様子が目に浮かぶ


衣擦れの音がかすかに聞こえ、嫌な予感とともに少しだけ身を乗り出すと、男がキョーコを抱きしめているのが目に入った。


「ん、じゃな~」


キョーコはそれには返事をせずに、しばらくすると扉がパタンと音を立てて閉じた。蓮は大きなため息をついた後、少しの間考えてやはり彼女の部屋を訪ねることにした。



9/20 お菓子に囲まれて 晴れはれ


さっきまで置いてあったことに気が付かなかった!

お部屋に入ったらseiさんから「パフェ」と「ケーキ」どうぞ!!って・・えぇ!


どこよ?????


ケーキしかないわぁ(涙) とアクション(駄々をこねる)をしたところ!

きゃぁ~足の下に何かあるわぁ~~

アメーバピグ スナップショット


並べて少し鑑賞~


もぐもぐ もぐもぐ


アメーバピグ スナップショット


差し入れどうもですぅ~~

学生時代に校長室に呼ばれた時より緊張しているんじゃないだろうか・・。


背後に控えている闇の国の蓮さんの気配が、早く開けろと言っているような、いないような・・・
ただ、扉を開けるだけなのにこんなに緊張して、心なしか手が震えている気がしたが、意を決して扉を開くことにした。



ガチャ


「お疲れ様です。こんにちは、社さん、つる、・・・・」
いつものように礼儀正しくお辞儀をして、顔を上げたキョーコの瞳に映った蓮の表情にキョーコは顔をひきつらせて固まった。


「やぁ、最上さん・・・・久しぶりだね」(キュラリ)


(ひぃいいいいい、なんで闇の国の帝王が・・・。)
そんなキョーコの思いなど気が付かず、拓斗はキョーコの後ろから顔を覗かせ挨拶をした。


「はじめまして、社さん・・・それと、LMEの稼ぎ頭、敦賀蓮さん・・ですね?」
さわやかな笑顔はやはり貴島に似ていた。


「貴島拓斗と申します。2週間前から京子のマネージャーを担当させていただくことになりました。」


「はじめまして、敦賀蓮です。・・最上さんにマネージャーがついたのは知りませんでした。よろしくお願いします。」
あっという間に闇の国の蓮さんが消え、営業スマイルを張り付けて蓮は愛そうよく答えた。


「敦賀さんには弟がお世話になっているみたいで、兄としても一度挨拶しておかなければって思っていたんですよ・・」
仕事には厳しそうだが、ラフな話し方に社は好感を持った。

「敦賀蓮のマネージャーの社倖一です。」

「LME一、忙しいマネージャーさんですね?」
ニコニコと笑いながら視線を社に向けた。


社はこの機を逃すまいとキョーコと拓斗を部屋の中に招き入れることを考えた。


「・・よかったらお茶でもどうですか?今日はまだ時間があるので、控室で申し訳ないのですが?」
様子を窺うように拓斗とキョーコに視線を向けるとキョーコが嬉しそうに微笑んだ。


「あ、社さん私が淹れますよ?・・えぇ~と、みなさんコーヒーで大丈夫ですか?」
慣れた仕草で、キョーコは準備を始めた。


「京子はよく、ここへ来るようだね?」
手際よくコーヒーカップや豆を用意する姿を見て、拓斗は笑いながら確認した。


「はい、いつも大変お世話になっているんです。・・・・敦賀さんは放っておくと、ご飯を食べない常習犯なので良くお弁当を持ってこの部屋で一緒に食べさせていただいています。」


バツが悪い顔をして、蓮はキョーコを見た。
キョーコはその様子がおかしくてクスリと笑う。そのやり取りを見て拓斗は社に視線を向けると、温かく見守るような柔らかい視線に驚いた後、ニヤリと笑った。


拓斗は席を立ちあがると、京子の手伝いをするために横に並んだ。


「京子はタレントとしての自覚が足りないな・・、コーヒーだって俺が淹れてやるって言ったのに・・・・」


「拓斗さん!絶対にやめてください。あんなガムシロップみたいなコーヒーは今まで飲んだことがありません!!!絶対に私が淹れますのでお気になさらないでください」


「はいはい・・コーヒーとお茶だけはお願いします」
2人の仲の良い雰囲気に蓮の眉間に皺が寄る。鋭い眼光を二人に向ける蓮を横に社は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「敦賀さんはブラックで良いですよね?社さんは、今日はどうされますか?ミルクだけにしますか?それともブラックに?」
2人が返事をする前に、拓斗が小声でキョーコに囁いた。


「俺には砂糖4杯とミルクね・・・」


「だめです!!そんなに砂糖をいれたら体に悪いですよ?せめて2杯にしてください」


しぶしぶ拓斗が頷くのを見て、社はひやひやしながら視線を蓮に向ける。
さっきより深い皺を刻んだ蓮の表情に心の中で大きなため息をついた。


・・・・はぁ~こんなことなら部屋に入れなければよかった。


社は仲良くじゃれ合っているような2人と、同じ空間にいるとは思えないほど冷ややかな表情を浮かべている蓮を見て大きなため息をついた。





つづく


いつまで続くんだろう・・




「蓮!わかったぞ!」
事務所の控室に現れた社が、挨拶もせずに蓮に複雑な表情を向けた。


「おはようございます。社さん・・・・わかったって、何がですか?」


「まったく、お前って心配ならもっと心配そうな表情とかできないのか?ま、それはよいとして、昨日キョーコちゃんと一緒にいた男だ・・・」

蓮の視線が少しだけ厳しくなる。


社の声のトーンからして、またからかわれるのかと思うと蓮は少しだけうんざりしていた。しかしそんな余裕も今回ばかりは無いような気がした。


「彼の名前は 貴島拓斗 あの貴島の3つ上の兄貴らしい」


「貴島君の?・・そうなんですか・・」


「おまえさ~、なんか・・もぉ~少し、リアクションとかないのか?」
少し不満そうな社が笑いながらそんなことを言う。
いつもと変わらないように見えるのは外見だけであって、蓮の心中はすでにさざ波が立ち始めていた。


「じゃ、これでどうだ!!」
驚け!と言わんばかりに自慢げに話をすすめた。


「・・・それでな、彼のポジションなんだけど、な、ななんと!!キョーコちゃんのマネージャーをやるんだって!」
どうだ?まいったか・・驚いただろう? と顔を蓮のほうへ向けた瞬間
社は気温が20度くらい下がったような気がした。


(いやぁあ!!!闇の国の蓮さんが出てますよ!!!っていうか蓮・・おまえ俳優のくせに私生活のリアクションが極端すぎるんだよ・・・中間はないのかぁああ!!)
そんなことを心で叫びながら、蓮の様子をこっそり伺う。
しばらく無言だった蓮がやっと言葉にしたのだがその声は低く、さらに社は落ち着かない気分になった。


「・・・・そうですか・・・・それにしてもずいぶん・・・・」

(ずいぶん・・・で、言葉ためるなよ・・なんだよ、蓮・・)


「仲がよさそうでしたね・・」


(目がぁああああ!!笑ってない・・俺、この話題もうやだ・・これからどうなるんだよ・・ずっとこんな調子だったらああああああ・・しかもこのタイミングでキョーコちゃんとか現れないでほしいぃ~~)



そんな心の叫びもむなしく、控室に扉をたたく音が聞こえる。

反射的に扉のほうへ体を向けると同時に聞こえてきた、かわいらしいよく通る声に社の背筋は震えた。




『敦賀さん、社さん・・あの、ご紹介したい人がいますので、入ってもよいでしょうか?』





まるで、自分の娘が初めて家に彼氏を連れてきたようなそんな心境に社は大きなため息をついた。




後ろにいる蓮がどんな表情なのか、社は考えたくなかった。




つづく