「金じゃない」って彼は言った | 蓼食う虫も好き好き

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自分が何科のなんという虫かはわかりませんが、時々見つけた蓼を齧ってみたいと思います




   5月3日の日だった。




   「大変だ」との呼び出しで、とあるレストランの駐車場に行った。



   そこには、自分の車の中で吐血した彼の姿があった。




   すわ、救急車との状態であったのだが、



   彼が、「姉さんを呼んでからにしてくれ。とにかく、家まで連れて行って欲しい。」と言う。




   わたしは、彼の家まで運転していった。




   「部屋に入りたい」と彼は言う。



   しかし、彼の視線は既に定まってはいない。




   ここで、彼が力なく言ったセリフが、「金じゃないよね。体だよね。」だ。




   彼は、私に支えられながら3メートル程歩いたところで寝転んでしまった。



   しかし、力を振り絞り、姉さんに電話した。




   非常に長く感じられた数分の後、彼の姉さんとその旦那さんが現れた。



   すぐに、3人で彼を旦那さんの車に運び込んだのだが、



   そこで彼は再び吐血した。




   病院に行き、状態が分かるまで3人で待合室で待った。




   「血圧60、これから2リットルの輸血をする。肺に血が回ってしまい、肺炎の恐れがある。」



   それが、医師の言葉で、



   わたしは、それから何十分か待っていたが、その後報告がない。




   これ以上手伝えることは無いと思ったので、わたしは病院を後にした。




   6日に死去した、との情報は7日の朝届いた。




   すぐに、見舞いに行ったが、穏やかな顔をしていた。






   後から知った情報では、彼の吐血は4回目であったらしい。



   肝硬変+糖尿病とのこと。




   彼の血液は、 ドロドロ を通り越して、固体と液体の中間状態であった。




   そして、彼が残した資産は1億数千万。




   彼との付き合いはほんの数か月であったが、わたしはそこから多くを学んだ。




   彼はまだ50代後半の働き盛りであった。