#80年代青春シネマを語ろう 『いまを生きる』 | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

銀幕と緑のピッチとインクの匂い

映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

 

 

 

ジェーン・ドゥさんの、#80年代青春シネマを語ろうに参加させて頂いております。青春のあのシネマ、このシネマがよみがえってきます。

 

DEAD POETS SOCIETY
1989年アメリカ映画 タッチストーン カラー 128分
監督 ピーター・ウィアー
出演 ロビン・ウィリアムズ ロバート・ショーン・レナード イーサン・ホーク ジョシュ・チャールズ ゲイル・ハンセン ディラン・カスマン アレロン・ルッジェロ ジェームズ・ウォーターストン ノーマン・ロイド カートウッド・スミス
音楽 モーリス・ジャール

 

 『刑事ジョン・ブック』『モスキート・コースト』などを監督したピーター・ウィアーの作品です。私の感性は、どうもこの監督と相性が良いらしく、この映画も大好きな大好きな、心の中の宝物の箱に入っている作品です。

 舞台は、1959年のアメリカ東部のエリート校。生徒は寄宿舎生活をしています。規律を重んじる名門校で、アイビーリーグの大学に沢山の卒業生を送り出しています。今、ここで勉強する17歳のニールたちも、またそれぞれ医師、弁護士、実業家などを目指すエリートです。そこにやってきた新任の先生がロビン・ウィリアムズ演じるジョン・キーティングです。この学校の卒業生である彼は、しかしながら、堅物という言葉には程遠く、常に優しい笑みを浮かべながら、彼独特の教育を施していきます。
 

 「詩とは何か」を考えるとき、彼は言うのです。教科書を破り捨てろ、と。詩は、論理や、まして数字で考えるものなどではない。自分の心で考えるものなのです。

 ニールは成績優秀で、仲間たちでしている勉強会のリーダー的存在です。演じるのは、ロバート・ショーン・レナード。転入生として彼のルームメイトになるトッドを演じるのが、イーサン・ホークです。ふたりとも、若くてつやつやしています。他にジョシュ・チャールズ演じるノックスや、チャーリー、キャメロン、ミークス、ピッツなどの仲間がいます。

 

 彼らは、キーティングが在校時に、「死せる詩人の会(Dead Poets Society)」という会を組織していたことを知り、今の時代の、自分たちの「死せる詩人の会」を作り出すのです。

 彼らはエリートです。ちょっとしたエリートどころではない、とんでもないエリートです。そして、良家の子弟が多い。親が彼らに賭ける期待は並のものではありません。リーダーであるニールは、活発な少年ですが、彼とて厳しい父親には反抗できません。この父親を演じるのが、カートウッド・スミスで、この映画が初カートウッド・スミスだった私は、「嫌な、おじさん」と思ったものです。すみません、カートウッドさん。

 

 転入生のルームメイト、トッドは、大人しい無口な少年です。ただ無口というより、人前で自分の声や思いを発するのを恐れています。皆の前で詩の朗読などとんでもない。しかし、記録係ということで、「死せる詩人の会」に参加します。

 夜中に寄宿舎を逃げ出して通う洞窟は、彼らの秘密基地です。もっと幼い少年たちが、仲間同士で分け合った、あの少年の日の秘密基地を思わせます。でも、彼らの幼い日はどうだったのでしょう。良家の息子であり、超エリートであるだけに、秘密基地を持つような少年時代は、彼らにはなかったかもしれません。彼らにとって、ちょっと遅れてきた、秘密基地だったのかもしれません。

 キーティングは、生徒たちに詩の素晴らしさ、自由の素晴らしさ、縛られないことの素晴らしさを教えていきます。それを象徴するシーンが、中庭のシーンだと思います。キーティングが中庭で、生徒たちに「さあ、自由に歩いて」と言い、歩かなかった生徒にも歩くことを促すのですが、生徒が言うのです。「歩かないこともまた自由だと思います」。

 キーティングは、最初の授業で、ホイットマンの詩の一節から「"O Captain! My captain"!」と呼んでくれ、と言います。そして、ラテン語の「Carpe Diem」「いまを生きる」ことを、生徒に教えていくのです。

 父親の抑圧に押しつぶされていたニールは、自分の本当にやりたいことを見つけ、大人しいトッドは、キーティングに促されて、心の中の思いを発することを覚えます。少しだけ……ですが、彼にとっては、大きな「少し」だったのです。可愛い女の子に恋する子もいれば、何かと反抗的態度で自分を表そうとする子もいる、あくまで優等生でいようとする子もいる。それぞれが、皆、青春なのです。キーティングによって、彼らは「Carpe Diem」を実践し始めたのです。

 でも……人生は厳しい。夢と現実との折り合いに、彼らも苦しめられることになります。

 青春。若者たちが、自分の未来を夢見、仲間たちと群れ遊び、勉強し、スポーツをし、恋をし、傷つき、頽れ、そしてまた歩いていく日々です。ニールたちは、キーティングによって、真の青春への一歩を歩むために背中を押してもらうのです。彼らなりの、「いまを生きる」時間が、清々しく、時におかしく描かれていきます。バックに広がるバーモントの四季の風景も何と素晴らしく美しいことでしょう!

 この映画を観に行った時、私も一応まだ若く、ぐいぐい惹きこまれました。ラストシーンではおいおい泣きました。これは……違反です。ぎりぎりだったかもしれませんが、彼らの感受性を受け取れる年でした。今見たら、もう無理かもしれない…と思いましたが、やはり同じところで泣けました。

 イーサン・ホークは様々な映画で活躍するようになり、ロバート・ショーン・レナードは『ドクターハウス』で、ジョシュ・チャールズは『グッドワイフ』で、年は取ったけれど、この頃とそれほどは変わらない笑顔を見せてくれます。そして、キーティング先生は、天に昇りました。

 "O Captain!My captain!"は、私の心の中に素晴らしい映画を残してくれました。
 
トレイラーです。