『嵐が丘』(1939年) | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

明日13時からのNHKBSプレミアムにて放映されます。

WUTHERING HEIGHTS
1939年アメリカ映画
 白黒 105分
 
監督 ウィリアム・ワイラー
出演 マール・オベロン ローレンス・オリヴィエ
         デヴィッド・ニーブン ジェラルディン・フィッツジェラルド
 フローラ・ロブスン ドナルド・クリスプ
 レオ・G・キャロル セシル・ケラウェイ

 
商用で旅に出たアーンショー氏は、孤児のヒースクリフを連れ帰る。アーンショー家の息子ヒンドリーは、ヒースクリフに冷たくあたるが、娘のキャシーは大の仲良しになる。一緒にヒースの咲き乱れる丘に登って夢を語り合うキャシーとヒースクリフ。やがて綺麗な娘に成長したキャシー(マール・オベロン)は、近所のリントン家と懇意になる・・・。


余計な説明など無用でしょう。エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の映画化です。情熱の固まりのようなキャシーとヒースクリフ(ローレンス・オリヴィエ)のドロドロの愛憎劇を、30年代らしく微妙に薄めつつも格調高く見せてくれます。キャシーとヒースクリフといえば、文学界の有名な恋人たちベストいくつかにランキングされそうなお二人です。幼馴染みで兄妹のように育ちながらも、成長するに従って分かちがたい愛を深めていった二人。特に、‘お嬢さん’であったキャシーを恋い慕うヒースクリフの気持ちは熱烈で、キャシーの歩いた地面を拝みそうな勢い。一方のキャシーは、お金持ちの生活を羨む俗物的な一面を持ち合わせていて、のぞき見た上流社会の生活にすっかり惹かれてしまいます。知り合ったリントン家のエドガーとイザベラの兄妹がまた良い人で、キャシーにとても優しくしてくれ、怪我のために逗留するリントン家で女王様のように扱われ、ますます有頂天になってしまうという次第です。

原作に馴染んだ方は、これだけであっさり終わってしまうのは物足りないと思うかもしれませんが、やたら長い映画の多い昨今、巧くまとめたなと私は思いますね。というより、この二人に付き合うのはここまでで沢山と(苦笑)。

荒涼とした嵐が丘と、すっかり寂れたアーンショー家の雰囲気など、白黒ならではの映像がとても美しいです。そして、私が大好きなのが「キャシーのテーマ」。アルフレッド・ニューマンによるこの曲は、隠れた名曲だと信じて疑いません。キャシーに性格上どんな問題があろうとも、このテーマ曲が流れる限り何故か許してしまうのです。

キャシー役にはマール・オベロン。30年代の売れっ子女優でちょっとエキゾチックな方です。そこが、情熱の固まりキャシーに合っていると言えそうです。ヒースクリフ役にはローレンス・オリヴィエ。狂気に支配されたヒースクリフを時には熱く、時には冷たく演じる様はさすが名優です。この撮影のために渡米したオリヴィエを追って、ヴィヴィアン・リーがアメリカに渡り「風と共に去りぬ」の撮影所に足を踏み入れたのは有名な話。紳士の鑑エドガーには、若き日のデヴィッド・ニーブン。若いんだろうけれど、後年とあまり変わりません(笑)。妹のイザベラにジェラルディン・フィッツジェラルド。アーンショー家の使用人役のフローラ・ロブスンとレオ・G・キャロルが良い味を出しています。特に恐くないフローラ・ロブスンは必見。

あまりに有名な原作を持つと映像化は大変困難ですが、かなり若い頃に見たせいか、この映画の中のキャシーとヒースクリフは、私の中での二人の像となってしまっています。「ヒースクリス!私の腕をヒースの枝でいっぱいにして!」・・・このセリフを聞きたいがために、やっぱり懐かしく見ずにはいられない想い出の映画の一つであります。