『未知への飛行 フェイル・セイフ』 | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

 

 

 

核の恐ろしさを、これでもか、と描いた傑作です。

 

FAIL-SAFE

1964年アメリカ映画 コロンビア 白黒 112分

監督 シドニー・ルメット

出演 ヘンリー・フォンダ ダン・オハーラーヒー ウォルター・マッソー ラリー・ハグマン フランク・オーバートン フリッツ・ウィーヴァー

 

アメリカの核ミサイルを搭載した爆撃機に、軍事コンピューターのミスで、ソ連への核爆撃が命令されてしまう。爆撃機6機は、ただちにモスクワに向かう。指令室は、爆撃機に連絡を取ろうとするがうまくいかない。大統領(ヘンリー・フォンダ)は、ロシア語通訳者バック(ラリー・ハグマン)と共に、核シェルターに潜り、ソ連の書記長と連絡を取る。爆撃機は、帰還可能ポイント=フェイルセイフを越えてしまい、あとはモスクワに飛び続けるだけ。ソ連側の迎撃機も、爆撃機を墜落させることが出来ない。残る時間はあと少し……。軍事司令部も大統領も必死に、解決策を模索しようとするが……。

 

 

米ソ核戦争の最中に作られた、非常に骨太で、サスペンスフルな傑作です。戦争映画ではありますが、舞台は爆撃機の中と、軍の司令部、そして、大統領の執務室がほとんどです。特に、大統領の執務室での手に汗握るやり取りが見どころです。密室でのやりとりというと、同じシドニー・ルメット監督、ヘンリー・フォンダ主演の『12人の怒れる男』を思い出して頂けばいいかと思います。

 

 

大統領執務室には、ソ連の書記長との直通電話がドン!と置かれます。子供の頃に、仲悪そうに見えるけれど、本当はアメリカとソ連は、電話一本でつながっているんだよ、と聞いたことがありますが、この電話がそうなのか、と妙な感慨を持ってしまいました。ヘンリー・フォンダの大統領役は実に見事。数いる役者さんの中でも、ヘンリー・フォンダは何度も大統領役を務めていますが、ソ連書記長とのやりとりを見ていると、大統領とは、やはり知性と品格と責任を持ったこういう存在でないと、と思います。それだけに、背負っているものも大きい。すべて自分の責任として、大統領は引き受けます。ヘンリー・フォンダが大統領選に出れば、まず当選するだろう、なんてジョークがありましたが、この映画を見ていると、つくづくそう思います。

 

ウォルター・マッソーは、政治学者ドクター・グローテッチェル役です。偏執狂的で、共産主義が大嫌い。ウォルター・マッソーは、コメディの印象が強いですが、こういうアクが強い役を演じさせても上手いです。若い通訳には、若かったラリー・ハグマン。アメリカTV史上でも、最強を争うだろう悪役J.R.を『ダラス』で演じた彼。この映画は、『可愛い魔女ジニー』の前年です。

 

他にも、地味ではありますが、渋い役者が揃っていて、リアリティある演技を見せてくれます。

 

スタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』と同時期に製作された映画です。とても似たストーリーですが、あちらはブラックユーモア。こちらは、本気度100%です。ラストシーンには、誰もが開けた口を閉じることが出来ないのではないでしょうか。

 

世界を崩壊させる核のボタンを、機械に任せることの恐怖を感じます。では、人間がボタンを握れば(実際、握っているわけですが)、ミスはないのか。深く深く考えさせられる映画です。生きているうちに、見ておきたい映画です。

 

トレイラーです。