永井博士の遺したもの | 銀幕と緑のピッチとインクの匂い

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映画は洋画、それも古い映画が大好き。本は外国文学。ドラマは洋物。サッカーは海外チームと代表の応援、という思いっきり偏った嗜好で、天の邪鬼に感想を語ります。但し、脱線話題多し。

 広島、長崎、そして日本全体が、あの日から69年目の夏を迎えました。

 10代の頃、永井隆さんの著書を読破しました。最初に読んだのが『この子を残して』。それから、『長崎の鐘』など、主要な著書を読みました。図書館に、永井博士(医学博士なのです)のコーナーがあり、彼のことを母から聞いていたので、興味を持ったのでした。図書館に揃っていたのは、その頃手に入れ得るほとんどではなかったかと思います。私が借りてきた本を、母もまた読み、親子で彼の著作に触れ続けた時期でした。

 永井隆さんは、長崎に原爆が落ちた時、長崎医大の診察室にいました。大きな怪我を負いながらも、必死に被爆者の手当てを続けました。ただ、満足な医療もない状況で、息を引き取っていく患者たちを救えない無念さに、胸を引き裂かれる思いだったことでしょう。

 やっと帰宅した時、妻緑さんの姿はなく、彼女の骨を発見したとのことです。遺された子供誠一と茅乃と共に、医師として活動を続け、またクリスチャンとしても人の生死を見つめ続けましたが、白血病に冒されていることがわかりました。子供を残して逝かねばならない。そんな無念の思いを綴ったのが『この子を残して』でした。

 また彼は、原爆投下直後の救護に関する資料も残しました。彼は最後の最後まで、子供たちの身を案じて、1951年に逝去しました。

 私は、本が好きでしたから、子供の頃から、戦争の話を恐らくは人より多く読んできたのではないかと思います。疎開の話、東京大空襲の話、そして、子供にはあまりに刺激が強すぎたサイパン玉砕の話。日本だけではなく、ベトナム戦争に巻き込まれた子供の話も読みました。原爆のことも知ってはいました。ですが、この永井博士の著書は、原爆の現実を改めて知らしめてくれた作品でした。

 正直なところ、今となっては、細かいところは忘れてしまいました。しかし、原爆投下の後の悲惨な状況を、愛妻を悼む間もなく、小さい子供を抱え、必死に生き延び、尚且つ医師としての務めを果たし続けた姿には、涙が出ると共に、大きな尊敬を抱きました。

 戦後の日本で、原爆の生き証人として有名な方だったことでしょう。彼の著作は歌にもなり、映画にもなりました。

 あの日から、69年が経ちましたが、彼が命を賭けて守り抜いたもの、挑み続けたものが、この先もずっと語り継がれることを祈ります。


 
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 藤山一郎さんが歌う『長崎の鐘』です。