川沿いに無事着いたのだが、車を停めるような場所が一向に見つからない。
「うーん、困ったなぁ…」
コクンッ。TDR製クイックシフトは大分馴染んで吸いこまれるように滑らかにシフトする。
最初ほどカキンコキンと硬くはないのだが、それよりおそらく自分がようやくマニュアルに
慣れたせいもある。きちんと回転に合わせてシフトをすると、レバーは吸いこまれるように自ずとハマッてくれる。
チッコン、チッコン。気分良く右折をした。
すると、
「ピピピピ!とまりなさーい。」
との声が…
路の端に寄せると交通整理の警官が近寄ってきた。
「?」
なんでだ?窓を開ける。
「はい、そこは右折しちゃ、だめなの。しらなかった?」
「知りませんよ。だって右折マークあったでしょ…」
「ここは時間指定区域なの。いまはだめなんだよ。標識、見なかったね。はい免許証。」
おまわりさんはにべもなく手を差し出す。むかっ腹が立ったがとりあえずここで揉めては急ぎの用事があるのに差し支える。とりあえず従った。車から出て交差点を見ると標識はかしげてちっとも見えない方向を向いている。これはあきらかに点数稼ぎに出かけてきた奴にまんまと引っかかってしまったのだ。まったく。
『くそー』
本気でムカツイタがこらえる。オレも大人になったもんだ…
路の先には見覚えのあるハーレーも止まっていた。大柄な男も警官らしき人と話している。
「あいつもやっちまったか。」
おもわず微笑んでしまった。するとさっきのおまわりが
「はいここにサインして」
と紙切れをよこした。きったない字で殴り書いて渡す。そんで去り際に、
「こーんだけ、一般市民が捕まってるんだから、俺の弟轢いた犯人も絶対つかまりますよねえ?」
っと皮肉を言ってクラッチをいきなし繋ぎ、急発進。
どきゃきゃきゃきゃぁ…
猛烈な排ガスとスリップ跡を残してすぐ先にあった24時間パーキングにぶちこんだ。実際、犯人は捕まるわきゃーないのだ。こんな事にかまけてるばっかの奴等の事だ。自分の点数のほうがかわいくて、人の不幸に構ってる場合などない。人の世を垣間見る瞬間。
そしてすぐあとから直管から出る爆音がいつもよりどでかいカンジでハーレーも到着した。
「おっす。」
不機嫌そうにブッチョウ面で挨拶を交わす。さっきのくだらん「事」にはあえて触れずに質問する。
「そのスカイマークの奴とはドコで会うの?」
「ああ、あいつか、ここらに呼ぶか。さっき電話はもらったんだよ。」
といって携帯を取りだし電話しはじめた。数分の後、ぶわわわぁぁんっと地鳴りのような音と共に黒いスカイマークが到着した。出てきたのはメガネをかけた七三分けの小太りな男だった。
「あ、あのう、これを買ってくれるという方ですか?」
甲高い声で話始めた。直感的になんかこいつじゃないな。っと思ったがまあ無視してこっちも質問を始めた。
「まあ、そんなかんじですよ。ところで、ずいぶんいじってますがどれくらいの個所いじってます!?」
といってしげしげと周囲をチェックする。あれから日はそんなにたってない。人がぶつかればけっこう傷がボディーには入る。(人は以外と丈夫なのだ。)板金にまわしてたらすぐには上がらないからここに車は無いはず。つまりビビッてボディー修理してればどこかの修理工場にまわり、その情報は中古屋から手に入る。そんで売りに出せば出したで中古屋を通じて連絡が入るような事になる。個人売買で売る場合ならおそらく事故の状態のそのまんまに近い状態で出てくる。これで見つからない場合はどっかにひっそりと隠しているだろう。
っていう推理がアキトの理論であった。たしかにそのとおりだろう。まあ、ぶつかって傷があれば、の話ではあるのだが…外周はぴっかぴか。傷も一つないくらい綺麗だ。後ろに回りこんでふとナンバーを見る。
「ん??」
「6446」
衝撃と共に冷や汗が流れる。おい、こんな事ってあるのか…
おれは動揺しまくっているのをなんとかひた隠しにする。
「ところで、ドコにお住まいなんですか?」
「あ、横浜です。この当りはほんと分からなくて。今日は3京道路からすぐ川沿いの路へってアキトさんが教えてくれて助かりました。」
アキトは店から個人売買の情報を聞き、その中から今回のスカイマーク売りたしのこの人と接触して呼んだということが分かった。これはしかし…違うっぽいんだが、ナンバーが引っかかる。
とりあえずでも今回は無視して流そう。しばらく話して、また詳しく話しましょうっという事にしておたがい連絡先を交換してバイバイした。
「アキト、あれ、多分違うなあ。ちょっと引っかかる事もあるのだが。しかし路を良く知らない時点でほぼこいつは違うなと思ったんだが…」
「うん、そうだな。あいつ人轢いて逃げるよーなタイプじゃないな。また出直しだな。でも
こういう一つ一つしらみつぶしであたって、ネットワークを掴んでいかないといかんしな。」
「でもな、じつは…ひっかかる事があるんだよ。」
そう切り出す。
「なんだ?」
「いや、実はナンバーなんだが。」
と言って、俺は今までのいきさつや体に現れた不思議な数字、その他を説明し、
最後に
「あの車がその同じ数字の『6446』ナンバーなんだよ」
と告げた。
「うーん。」
しばらく沈黙が続く。やがてアキトは口を開いた。
「とにかくあいつもマークしといて置かないといかんが、なんか直感的には違うと俺も感じている。その数字にこだわらない方がいいんではねえか?別にお前を信じないとかそういんでなくて、もっと確実な証拠を握らない限りはナンの足しにもならんしな。」
「確かにその通りだ。」
「もしかして『ムシシロ』って読むとか…」
「うーん。『無視しろ』か。俺も実はそう思ったんだよ。」
二人は苦笑いした。
「じゃそういうことにして、もっと確実ななんか探そう。」
なんとなく変な感じはしたが、そういう事にして少し休憩を取りながら作戦を。と言って休める場所を探し始めた。しかし、我々は後々、この数字が後々意外な結果をもたらす事を、今は知る由も無い。
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川沿いのその駅は、駅周辺によくある大きなデパートがあり、その裏手にはごちゃごちゃと
した飲み屋や繁華街となっている。俺はなんも食ってないな。空腹がつのる。
アキトと俺はちょっとした飲んだり食べたりできそうなゆっくりできる店を見つけそこに入った。店はこじゃれていて、パスタとかを出すようなお店だった。ビールを注文するとさっそく今後について話しはじめた。
「あのさ、一つ聞いていいか?」
俺は質問した。
「ジロウとの事なんだが、いったいどういう繋がりがあるんだ、君と。」
「ああ、その事か。」
アキトはうまそうにビールを流しこんでからツマミの生ハムをかじった。
「話しながくなるけどな。」
と言って切り出した。
「例のカトウってのがよ。知ってるだろうが、俺の下についてて、俺はもうまっとうに仕事ついて引退したからチームの後を任せたのさ。チームつってもよ。俺らは硬派だからよ。応援団の派閥でできてるのさ。ワルサっつってもよ、せいぜいつるんで走るか酒タバコくらいなもんでよ。
みんなでわいわいやるかわいいもんだよ。ケンカは強かったかもしんねーが、素手でナ。
とにかく筋の通らねえ事はぜってーしなかったからよ。センセーさんたちも、ま、黙認しててくれたよ。なんせ、学校の運動部関係を俺らは応援してるわけだしな。笑。んで、あいつに後を任せたんだが、人付き合い良くても、あいつ調子良い奴で、見抜けなかった俺も悪いんだが、なんだかその学校内の派閥をきちんと纏められんでよ。んで、俺が相談受けたりしてたのさ。まあ、そうは言ってもカトウもそこそこは人望アル奴だからそれでうまく行ってたんだが、俺が後ろでついてるのを良くないと思ってる奴らも実際おるわけさ。俺も友達もいるが敵も多いからな。
んでさ、俺がカトウと会って、会合するってんでハーレーでその集合場所いってよ。話して戻ってきたら、ハーレーがぶッ壊されてたんだよ。
俺、頭きちゃってよ、まあ、そん時ジロウ君がさ、そのいじってる連中を目撃しててさ。カトウ伝いで教えてくれたんだよ。しかもさ、いろいろ治すの手伝ってくれてさ、わざわざ工具持ってきてくれたりしてさ。」
俺はすこし思い出した。一時ジロウが俺に工具よこせって言ってた時あったな。たしか。
「んで、治しながら話してたらさ、『釣り好きだ』なんて話しててよー。
えー、俺も好きだゾー。こんど連れてってやるからよー。なんて話してた事があったのさ。こないだバルサでルアー作ってあげてよ。喜んでたよ。」
「ふーん。そうか。」
俺もビールとツマミを一気に流しこんだ。こないだ部屋にバルサとヤスリが転がってたが
そういう影響もあって自分で作り始めてたのか。俺はその実、弟の事、なんも知らなかったんだな。
「んで、マイって子とは?」
「ああ、マイちゃんかあの子は俺の友達の妹だ。ハーレー仲間の。ジロウ君のこと気に入ってたみたいでな。しかし、まさかあんな事になるとは思っても無かったみたいだな。すげー動揺して、俺にも相談してきてよ。んで、なんかどっちも知ってるからさ。もうほっとけなくなっちゃったよ。しかも兄貴のあんたじゃ見るからにヨワッチそうでたよりねーしな。はは、ちと言いすぎたか。しかし、弟サン、大丈夫か。」
「たしかに」
と思いおれも苦笑いした。
「いや、ジロウはまだ実は意識回復してない。俺も会社休みもらってて、あと数日はある。その間にケリつけないといかん。」
「そうか。しかし、どうするか。俺のやり方だと時間はかかるし。警察もおそらく当てにはできねーぞ。こういうのは。」
「…そうなんだ。どうするかな。」
二人は実際これからどう手をつけていっていいのか実は困ってしまった。
当てのない犯人。数少ない目撃証言。立ち塞がる切迫した空気。
しかし、俺は絶対なんとかしたかった。しばしの沈黙の後、話しを始めた。
「さっきの人とか利用してスカイマークのグループに噂を流すか。人食い鮫にちなんで人殺しスカイマークの噂を。」
と俺は言った。
「そんな事してどうするんだ。煽っていいのか?」
「うん。逆に煽って浮き立たせるんだよ。そいつを。悪のヒーロー化したりすればまたひょっこり出てくるだろうし、逆に俺らは違うって言う正義感強い奴らも出てくる。そうやって、分裂させて割り出すんだよ。だいたい隠れて逃げるような奴だし、うまく逃げ切ったら、逆に人に教えたくなるもんさ。人間なんて。俺は人轢いたが掴まんなかったって。どうだ。心理作戦に切り返るってのは。」
「おお。いいかもしれんな。ネットも使おう。族や走り屋の連中にも煽ってそういう話を流そう。一気に広まるぞ。」
「ただ、その時、探りを入れてる俺らを察知されないように、あくまでも怖い話しや噂のようにしないと、台無しになっちゃう。俺らはそういう怖い話や噂をただネタにして雑誌かなんかの記事にしたいってゆう記者の真似みたいにして探りをいれて行こう。」
「そだな。ばれては、一気に話は台無しだ。」
「あと、さっきまでの地道な作戦も展開は続けよう。」
「オッケィ。」
しばらく話をしてパスタを食った後、店を出て二人で車とバイクを止めている所まで歩いていった。ぶらぶら歩いているとまたスカイマークが止まっている。
この車は案外に多いな。と思って眺める。乗り手は車から出るとその後ろにあるビルの地下
に降りて行った。俺はなんとなく気になって後を追ってしまった。アキトも後ろからついてくる。
その男の降りて行った場所はいわゆる、「クラブ」であった。おねーさんたちの出てくる所ではなく、音楽の方だ。音がかすかに漏れて出てくる。
「どうする?」
おれはアキトに聞く。
「ちょっと行って見るか。」
頷いて、店内に入ることにした。
店は暗い。ズーンズーン。とビートが響く。あまりにも久しぶりに来たので戸惑う。学生のコロを懐かしんでしまう。まだ時間が早いので人はすごく少ない。さっきの男らしき人物も見当たらない。遠くで見る限り、こういった場所に来るような格好でもないし、歳がかなり行ってるような感じにも見えたが…
店を見まわすとギターを持った人とぶつかってしまった。
「すいません」
「イエー、コチラコソー。」
「あああ!ロイー!!!」
「OH!ハジメ、コンイチワー!ドーモ、ドーモ!」
なんと、ロイに出くわしてしまった。
「なんだ、ロイはなにやってんの!もしかしてギターここでひくの!?」
「ソゥ。ジツワー。ワタシー、サイキンココデーェヒクヨゥー。」
「なんだよー。そうかそうかー。そんでさー、ちょっと人探してるんだが。背高めで、歳けっこう行ってるジーンズと革のジャケットの人って知らない?」
「ンー、スンマセーン。ワカーリマセン。」
「そかそか。んじゃいいよ。あのさー今日急いでるから実はもうそろそろ帰っちゃうんだ。でも今度ちゃんと聞きに来るから。」
「ソーナンデスカー。ボク、サイキン、マイニーチココ、デイル。ダカラーマタキテクダサーィ。」
「おう!わかった。絶対来るよー。ほんとに。んじゃ。」
がっしり握手を交わしてアキトに説明した。
アキトも軽くロイと握手して、又、店を見まわす。さっきとDJが交代したらしくちょっと古いジャズのナンバーがかかっていた。
バイザーを被った青年は俯き加減で曲の頭だしをチェックしている。なんだかしばらくじっと聞いていたい雰囲気であったがふと我に返る。そうだ、ちょっとさっきの男の顔だけでも見ておきたいな。
アキトとまた店の入り口に戻り、中には居ないと諦め階段を上って行き始めた時、ブワワーーン!!っとエンジンの音が聞こえた。どうも戻って、エンジンをかけ始めたようだ。まだ薄ら寒い日である。もし車好きなら暖気をするだろうからすぐには走らないだろう。しかし、良く見ておかないと!
「急げ!」
俺とアキトは階段を駆け登った。
黒いスカイマークR32。男はサングラスをかけている。スモークがフロントガラスの
上にもかかっていて良く顔は見えない。がちょっと老けた感じには見える。もっと近くでないと良くはわからない。そう思った時、車はあっと言う間に発進してしまった。ブオーーーーン!!!パシュン!!!エクゾースト、ノイズがデパートの壁に反響して響いていた。
「ナンバーみたか!?」
「いや最後の文字しか分からんかった。1だ。くそう。」
車は角を曲がり去って行ってしまった。
「くそう。今の車。良く見たか?左後ろに傷があったの。」
「いや、俺は見なかった。」
「なんとなく変な直感だが怪しいな。」
「うーん。とにかく店から出たようだし。入り口で聞いて見るか。」
二人はまたクラブの入り口に戻り、そこの受付のおねえちゃんに聞いて見た。
「あのぅ、さっきここを出て行ったサングラスかけた男の人って知ってます?」
「ああ、店のオーナーですよ。」
「名前は?」
「斎藤さんですが、どうかしたんですか?」
「いやちょっと、知り合いに似てたんで。どうも間違えたようですわ。すんません。」
二人はまた慌てて店から出た。
「ここのオーナーだってよ。」
「うん。まだはっきりはしないけど、マークはしておこう。ひょっとすると犯人かもしれないし。俺はバンバーのキズや、雰囲気やこういう店のオーナーってのが怪しいって思っちまうよ。こういう店のオーナーってなんか怪しいジャン。堅気っぽくないかんじで。」
「だけど、確定はできないよ。またあたりつけてから来よう。さっきの作戦も絡めて車も買いたいとかいう雰囲気出して足固めしてから近づかないとナ。」
「確かに、そうだ。」アキトは頷いてからこういった。
「しっかし、さっきの受付のねーちゃん、かわいかったな。」