目が覚める。得に何も無く、つつがなく朝というか、もうずいぶんお日様が過ぎた頃に目を覚ました。
「今回は金縛りとか何もなかったなあ。」
俺はぼんやりとそう思った。なーんだ気のせいだったみたいだなあ。眠い体を無理やり起こし、シャワーを浴びる。Tシャツを脱いでバスルームでお湯を出し、ふと鏡を見た。
6446。
腹にミミズ腫のような傷でそう書かれていた。なんだ、これは、いったい。それを見るとすーっと腫れはひいてしまい、すっかり消えてなくなってしまった。あわててバスルームから飛び出し、メモに書きとめる。なんだ、この数字は?ぼんやりと腹を見つめてそう思った。
別にお茶とサプリメントの副作用ではないよな?しかし、まだ分からない。
とるぅぅぅぅ…
電話が突然鳴った。時間はすでに午後3時!もう二日目だ。時間立つのが早い。とおもいつつ電話に出た。
「はい。」
「おう。アキトだ。番号はマイがもらった名刺に書いてあった。突然すまんな。」
「いや。別に。」
そっか、あの子はマイって名前なのか。それにしてもなんでそっちの方に電話番号教えちゃったんだろう?とか思いつつ、話しを聞く。
「スカイマークの情報、あるぞ。まだ全然詳細検討してないがな。片っ端からみてこうと思ってる。」
「ああ、ありがとう。でもさあ、どうやって犯人っておさえるのかわかんねーし、確証ってゆーか、証拠なんもこっちはないのに、きめつけらんないっしょ。」
半分期待しつつ、まあほとんど厳しいだろーなあという諦めの混ざった返事をした。
「んーなこといってっっと、ぜってーつかまんねーゾ。買うつもりで、てきとーに話をどんどんききだせばいーだろ。んで、スカイマークっつーのはさ、けっこうマニアックな奴とか多そうだろ。ってゆーとどっかで繋がってるかもしんねーだろ。話聞いて、こっちもマニアになってくくらい、情報をどんどんいれて勉強してくんだよ。いかにもスカイマーク買いたいですってかんじでさ。」
「へえ。」
おもしろいなあ。っと思った。確かに情報は未だになんもなく、どーしようか考えてたとこだったので何もしないよりましかな?っと思った。実は、ネットを使って、そこら辺の情報を仕入れて、なんかひっかかるものを探そうと思っていたのだ。まあ、それは帰って来てからでもいいや。
「わかった、んでどんな情報?」
「ああ、都内とかでなくてここらの近辺からまず探ろうって思ってたら、さっそく網にかかったぞ。R32、黒。乗り手は20後半。会社員だ。川沿いで落ち合うことになってる。とりあえずは、違うってわかってても、そっから芋ズルのように繋げたりしてくからなんも言わずに話を引出すようにしよーぜ。んじゃ、詳しくはあとで。そうだ、待ち合わせは4時に川沿いの駅前だ。いいな。」
「おう、分かった。んじゃ…っとまった、連絡とかできるように番号教えてくれ。」
そう言って携帯の番号を教えてもらう。川沿いの駅で待ち合わせた場所に向かうため、国道を上る。ならしも兼ねてすこし引っ張りぎみでエンジンを回す、コロネはまるで生まれ変わったかのように、俊足を醸すようになっている。足は猫のように路面をピタリと吸いついて、けして弾かれるようなことなく走る。
快適だな。っと思った時ぶわぁぁぁ。っと横を黒い影が走り抜けた。
R32。黒。
斜めに跳ね上げたφ径の大きなマフラー。何時の間にか、俺は跡を追っかけていた。逃がすか。
思わず手に力が入る。向こうもこちらに気付いたのか、加速し始めた。ナンバーを見る。静岡ナンバー。なんとなく違うっと思ったが、実力を測る実験だと思って、迎撃を開始する。
ぶわぁぁ。お互いが加速し始めた、その時、ほとんど車間を空けてなかった間に真っ白の車が割って入った。急ブレーキを踏む。っと思った矢先またその車はもとの車線に戻って横に付けた。アブねえなあ。ん?この車はどっかで…。ああああ。
なんと白いラリーのオーロラに鬚のおっさんが乗ってるではないか!?
黒のR32はそのまま加速して行き、その後ろを赤灯がまわった白黒の車がサイレンを鳴らしておっかけていった。すぐさま真白のオーロラと同じく白がやや焼けてクリームぽい色に変色したコロネは左の側道に逃げ込むように入り、停車した。
「おっさん!」
俺は叫んだ。
「おめえー、何やってんだ。会社休んで、アホなことして。俺が気付かんかったら、おめーつかまっとったぞ。」
「おっさんこそ!なんでヨシさんの車のってんの?」
「アホ。わしはこれディーラーに届けるんだよ。トレーラーこないし。近いし。乗ってった方が早いと思ってまあ、ばれんだろーって走っとったら、前、パトカー走ってて。危なかったよ。奥さんに頼まれてた最後の奴の頼みだと思って、わしが運ぶ予定だったんだよ。車を。まったくおめーも。聞いたぞ。車屋から。あの修理屋のおっさんから。わしとヨシはな、あの店、馴染みの店なんだよ。あそこ。んであの店のドラ息子がおめーの車みたんだって?んな改造車で走ってつかまったらどないすんじゃ。会社休んでたら、こんなことして。てっきりハワイでも行ったかとおもってたのによ。」
そうどなりつつ、おっさんは笑っていた。
「おっさんこそ、ほんとは走っちゃだめな車転がして。しかもモノホンのラリー車、近いからって走らすのも相当だと思いますよ。だめっしょ。まじで。俺の事言えないっしょ?ってか、なんでおっさんなの?」
「え?おめー、だからいったろ、ヨシとわしは同期だって。車仲間だったんだよ。会社では廃部になった自動車部のキャプテンと副キャプテンだよ。わしらわ。だいじょーぶだよ。この車はもうそのディーラーが引き取ってプロに売ってしまうらしいよ。んでも、さっさともってかねーから、わしがトレーラーでもってきますわって嘘ついて走らせちったよ。ちょっと乗ってみたくてよ。奥さんも良くわかってないからありがとございますって感謝してたよ。わはは」
ええー?まったく。とんでもねー、すげーな。でも、同期だったって、そういうことだったんだ。実は車友達だったなんて。それに一緒に車遊びしてたなんて。
おっと時間が無い。急がないと。
「って、かどうしましょう。俺すぐ川沿いまでいかないと。」
「そっか、わしはすぐこれもってかねーと。無事に壊さずな。お互い大忙しだな。とにかくつかまんなよー」
それじゃッ!っと言っておっさんは少しまっすぐ走ると軽く180°ターンを決めてこっちに来て手を振って去って行った。あのおっさん、とんでもねえ人だったのか。と思い知らされた。
これだから、会社っつーのは面白い。横にいるなにげないおじさんが、じつはその昔、すごい事していたり。
そーだ、早く約束の場所いかないと、遅刻だ。俺も吹かして国道に戻り、川沿いへ向かった。