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家に帰ってまた冷蔵庫からジャスミン茶を出して喉をウルおす。そーだ、塩まくの忘れちゃったなあ。塩。と思ってめったに着ない礼服を脱いでもらった包みのなかから「お清め」とかかれた塩を取り出した。

玄関からそいつを撒いて、自分にも撒く。そのあと、ビタミン剤をまた取り出してジャスミン茶で流しこんだ。疲れた時にはこれでゆっくり休めば回復できる。
あっという間に眠ることができた。はっ!と目が覚めて時計を見るとまだ3時。なんだよ、また起きちゃったよ。と思った矢先、

がつーん!と衝撃が走り、体が固まった。

ま、またか。

また、金縛りだ。同じようだが、いつもと少し違う。今回は目を開けているのになんかうっすらぼんやり、涙か目やにのせいでちっともかすんで見えない。くそー、だめだ、体は全然動かない。今回は全身が硬直している。こんどはそのぼんやりした目が晴れたとたんに女の人が突然現れた。

???かあちゃん???

と思ったがもう少し若く見える。でも感じはそっくりだ。誰?おばさんは誰?!口がぱくぱく動いている。何か言っているみたいだ。

「あ、ぶ、危ない!?×△〇!”?・・」

おばさんは危ない、危ないとずーっと俺に向かってそう話しかけている。

そして、ザーっという川のような音がしたかと思うと金縛りがふうっ!っと解けて、いつもの天井が目に浮かんだ。おばさんの姿はもちろん消えている。

全身、汗でびっしょりとなって、鳥肌もたっている。悪寒までしてきた。寒い。いったい、なんだったんだろう?すごく嫌な重いカンジが胸につっかえる。あの、この前みたおばさんに間違い無い。がくがく布団の中で寒さに震えながらも、そう確信した。
何が危ないんだ?ものすごい不安になってきた。

まだ明け方にもなっていない。しかしぜんぜん寝つけなかった。
結局、朝になって、俺は具合いが悪いので休みます。と会社に電話を入れた。
いつもはうるさい親分もこういうときはけっこうやさしく承諾してくれた。
あまりにもやな予感がしたので、弟や家族が住む、近所の実家に戻ることにした。

「おっす。」家の入り口で寝そべってる番犬、コロに挨拶する。

まだ寒い季節だから小屋からでてこないで尻尾をふるだけの挨拶。
と思ったが…いない。小屋はがらんどうで鎖だけが転がっていた。
そっか、朝の散歩か。玄関を開けて家に入った。

「ただいま。」

見覚えのある風景。

「あれ?どしたん?今日会社は?」

と奥からかあちゃんが聞く。

「なんか、具合悪い。薬ないから貰い来た。今日は休んじった。」

「あらら、あんたそーやっていっつも風邪うちにもってくるんだから。」

しょうがないなあ、という顔で、しかし薬箱のある引出しに向かってる。

「コロ、散歩?」

「そうそう。今日お父さん、出張でいないから、ジローちゃんが行ってくれたよ。」

弟、ジローがどうやら今日の散歩当番をやったらしい。

かあちゃんの出してくれた薬を飲む。もちろん風邪ではないのではあるが…。

「熱は?」

「たぶん無いよ。ちょっと横になって休んだらすぐ家で寝るよ。したら治るから。」

「あんた、また夜中外で遊んでタンでしょ。」

「いや、いってねーよ。でも急に具合悪くなって。」

まあ、それはほんとのことである。コタツで横になって少しうとうととしてしまった。

昼前ごろになってハッと目が覚める。

「ジロー帰って来た?」

「いんや、そういえば遅いねえ。」

俺が来てからもう2時間ほどはたっている。

「ちと、散歩にしては遅くねーか?」

「そうねえ、どっか寄ってるのかねえ。まあ、もう帰るでしょ。」

俺はなんか不安がよぎった。あの夕べの出来事が脳裏をよぎる。

「俺さあ、ちっとぶらっと見てくるよ。散歩コース。いつもんとこだろ。」

「そうねえ、わからんがぁ、それよりあんた大丈夫なん?」

「うん、まだおかしいけど、すぐ戻るよ。さみーから車かりるよ。」

「はいはい、きーつけんさいよ。」

車のキーを取って家を出た。ロクな暖気もせず、さっさと向かった。それはへび坂方面である。
直感的に、なんとなくそっちに反応していた。あいつはよくヘビ坂近くのコンビニでおやつやジュースを買って家に帰ってくる。散歩の時も、たまにそうしていた。あいつ、俺に忠告しといて自分がいきやがったな?

心臓はなぜかものすごい高鳴っている。重い、やな予感。
その予感はどうやら的中していたようだった。
なぜか、赤色灯が点滅している。

警察の現場検証真っ最中であった。車を路上で止めて駆け寄った。
もうすでに救急車で運んだようだ。噂の小話が叔母さんたち集団で飛び交っている。
おれはそのやじうま集団をかきわけて、一人の警察官らしき人に尋ねた。

「どーしたんですか?」

「はい、さがってね。今検証中だから邪魔しないでねー。」

慣れた口調で俺をあしらう。
とっさにムカついたが、ぐっとこらえて口走った。

「犬、いませんか?犬?ウチの犬かもしれないんですよ。」

おもわずそう勝手に口走ってしまった。すると意外な反応が返ってきた。

「あそこにいるけど、おたくもしかしてご家族?」

俺はその警察官の言葉ではっきりと確信した。弟になんかあったのだ。警察官もバカではないようで、そのあとの反応はとても良かった。コロはガードレールでじっと騒ぎもせず立っていた。

「コロ!」そう叫ぶとコロは尻尾をふって喜んだかと思うとくるっと背中を向けてある方向をじっと見つめてる。

「お前は無事だったのか。」

心でそうつぶやいて頭をなでるとこんどは弟のことが気になった。

「いったい、何があったんですか?」

「ちょっと、こっちに来て下さい。」

そう言って警官はパトカーに俺を呼んだ。コロと俺はパトカーに近寄る。

「すいませんが、お名前、住所を…」

「それよか、弟はどーしたんですか?」

おれは苛立ってつい怒鳴った。いったいどーなったんだ、ジローは。

「弟さん?と思われる方はもう救急車で病院に連れていったので無事保護されてますから、安心して下さい。我々は万全を期して、対処しておりますので。どうかご安心を。それでは、簡単に調書を済ませたら速やかにお連れしますので…」

「わかった、わかりましたから、その前に、家のかあちゃんに電話さして!」

俺はものすごく苛立ちながらも携帯で家に電話をした。警察官もなんとなくあわれに思って黙って見守っている。コロはあいかわらずずーっとどっか一点を見つめている。

「ああ、かあちゃん?やばいよ。ジローがなんかにあって病院行ってるって。今から俺警察の人と一緒にそこすぐいっから、とーちゃんとかに連絡して、準備してて。病院わかったら速攻また電話すっから。一応無事で病院いるって言ってるから、あんま心配しないで。んじゃ。」

軽く調書を書いたあとパトカーでコロと俺は病院へ向かった。

パトカーの中で警察官は説明してくれた。どうも俺の弟と思われる被害者は車によるひき逃げ事故に遭遇したらしいということ。加害者はいまだ逃走中であるということ。

時間帯がちょうど通勤時間から少しはずれていて目撃者が非常に少なかったということ。
コンビニ前なので車の出入りが激しい場所であるため、広域に渡る可能性もあるといこと。
物的証拠は現在調査中であるといこと。目撃者にはいかに被害者やその家族であれ会うことなど法律上できないということ。

あと一番重要なのは被害者(弟)は外傷はないが意識が無かったっため大きな緊急病棟にて保護され、現在そこで精密検査中であるということ。以上であった。

「大丈夫、大丈夫ですから。」

警察官は何を思って大丈夫と言ってるのかよく分からなかったが、俺を安心させようとしてそう何度も繰り返して言った。俺は後ろの席で、コロを抱きながら外の流れる風景をぼんやりと見ていた。まさか、このことだったのかよ。おばさん。ジロー、無事でいてくれー。おばさん、もし、あんたが、あんたがイイ人なら助けてやってくれー。俺が代わりになってもいいから。

目の前の景色はかすんで何も見えなくなった。コロは俺のほっぺから伝わるものが何か分かってるのか、分かってないのか?ぺろぺろと舐めた。

ほどなくして病院につくと、またもや頭に来る事態が訪れた。そう、コロとなにげなく、駆け込んで病院に入ろうとしたら、もちろんというか当然のごとく、止められてしまった。

「預かってもらえますか?」

「駄目です。病院ではそのような規則など…」

俺は話半分で外に飛び出し、入り口のスロープの手すりに首紐を括り付けてまた中に入った。

看護婦は

「そこは、車椅子の方のスロープで邪魔になりますから…」

とほざいていたが俺は無視してジローの病室を探した。コロは賢いから車椅子の人が意地悪しない限りは吠えたり噛んだりはしないだろう。看護婦がどっか連れていっても、呼べば答えてくれるし。

まあ、バカな看護婦が動かそうとしても、意地でも絶対その場から離れるようなことは無いだろう。緊急で入った患者の一時的にいる部屋は大概手術室側の大部屋と相場は決まってる。

俺は当てずっぽうだが、カンでこの辺だろうという大部屋脇の受け付けで聞いてみた。

「ついさっき、若い患者救急で来ませんでした?ジーパンに黒いジャンパーの。ジャンパーでなければ紺のトレーナーで俺くらいの背で、短髪!」

俺はいつものジローの散歩の時のスタイルを言ってみた。

「さあ?」若い美人のでもバカ面看護婦はぽかーんとしてたが、奥のしっかりした目がねのおばさん看護婦は

「ああ、奥のICUに先ほど入りましたよ。ご家族の方ですか?」

とてきぱきと答えた。さすが。きっと看護婦のボスなんだろう。場慣れしてるようだし、何より頼もしい。

「まだ検査中ですので、しばらくそこでお掛けしてお待ち下さい。しばらくしたら様子を伝えに戻りますから。」

たのもしーごっつい目がねのおばちゃんは、でもやさしそうな声でシートのある待合い室へ案内してくれた。

そうだ、電話、電話。

「あのー電話は…」

「あそこです」

窓辺リの電話コーナーで家に電話して、病院の場所を告げた。かーちゃんは明らかに声が泣いていたが、しかし悟られぬよう、しっかりしようと勤めていた。親父はどう頑張っても夕方になってしまうらしい。

「とーちゃん、早く…。ジローも死ぬな。」

そう心の中でつぶやいた。